2月12日(月)17:00~19:00「渋谷らくご 英国密航を聴く会」
文:高祐(こう・たすく) Twitter:@TskKoh
田辺いちか-英国密航
国本はる乃/沢村道世-英国密航
快楽亭ブラック-英国密航
田辺いちか(講談)、国本はる乃(浪曲)、快楽亭ブラック(落語)
今回の公演は全て「英国密航」、世に言う長州五傑が藩命を帯びて英国に向かうまでのお話だ。
これが講談、浪曲、落語で聴ける機会だった。企画は快楽亭ブラック師匠、ただでは終わらない匂いがしたのは私だけではなかっただろう。
開口一番のいちかさん、「私が演じられる『英国密航』は10分ほどなのですが良いのでしょうかと渋らくの方々にはお伝えしてきたのですが」、やっぱり時間はたっぷりある、ということで、いちかさんの大師匠、田辺一鶴先生のお話をしてくださる。「英国密航」を語っていたという一鶴先生だが、かなり奇特なお方なご様子、会ったことがないといういちかさんでも孫弟子ということで他の師匠方から一鶴先生の話が出るとまず謝ってしまうらしい、子弟関係って大変だ。
さて本編の「英国密航」、どこまで本当の話かわからない、が、史実として英国に密航した長州の侍五人、いわゆる「長州五傑(ファイブ)」の物語だ。
あらすじだけでも盛りだくさん、毛利のお殿様に英国に行ってこいと命じられ(捕まるかもしれないのに)、伊藤俊介(博文)が一緒に行きたいと言い出し(費用は?)、本当に必要な費用は藩から与えられたお金の数倍、それをどう工面するのか、などなどそれどうするのよという場面が目白押しなのだ。
英国渡航に必要な費用の額の増え方、ふっかけられ方が講談、浪曲、落語の三者三様で面白い。一番高かったのは浪曲の5,800両だったと思うが、5,800両って1両10万円としても6億円弱、いくら幕末とはいえ5人の渡航、半年の滞在にそんなにかかるものだろうか、しかもうち二人は水夫として船上は働かされたらしい。さすが往年のイギリス帝国、どれだけ儲けていたのだろうか。
実際に英国に密航した五人の話もすごいが、この金を工面してやった大村益次郎もすごい。いちかさんの講談でこの人物の度量の大きさに感じ入ったが、人物の描き方にも講談、浪曲、落語でいろいろ強弱があった。
そしていざ渡航の場面、横浜を出発して日本を半周、インドに寄り、アフリカの希望峰をぐるりと回っていくのだが、講談と浪曲はこの辺りに節がついて景色を述べていく。これがきっと徒歩以外の旅行、しかも海外旅行など夢のまた夢の時代、映像すら無い、あるいは貴重な時代の旅行記ってこういう感じだったのだろう。はる乃先生はお若いが芸歴は長い、張りのあるきれいなお声で、特にこの場面ではお三味線にのせてリズミカルに語られており、聞いている方は船に乗っているような気分になった。
最後は快楽亭ブラック師匠、細々とした背景をサラリと語られていくのはさすがだが、記憶に残ったのは、話の折々に挟まれた、楽屋でいちかさんとはる乃さんがチョコレートをくれなかったという恨み節(この日は2/12、バレンタインデーの2日前)。その恨み節を聞きながら、今頃お二人は買いに行っているのだろうなぁと想像していた。ブラック師匠が下がられたあと、舞台袖から「すみませんでしたぁ」と言うお詫びの声が聞かれたのできっとその頃にはチョコには準備されていたことでしょう。
ホワイトデーにはどんなお返しをされた(される)のか、ぜひ聞かせていただきたい!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?