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退職後「何か世の中にお返ししたい」と始めた水泳ボランティア。20年続けて、いまなお「新しいことばかり」の毎日。

【ゲスト】
沖田 豊(おきたゆたか)さん

【聞き手】
嵯峨 生馬(「渋谷のワイド」火曜日総合司会)
佐藤 万葉子(ボランティアパーソナリティー)

―― 今日はゲストの沖田豊さんにお越しいただいています。
沖田さんは渋谷区内の知的障害者・知的障害児の方の水泳教室「スウィミー」の活動を20年近く続けていらっしゃるという方です。沖田さん、早速ですが自己紹介を少しいただいてもよろしいでしょうか。

沖田:私は1924年11月3日生まれの91歳。健康で楽しくボランティアを活動を続けています。

―― 91歳の1924年生まれ! 実は沖田さんに今日出ていただくということを1ヶ月ぐらい前にご連絡させていただいたときに、翌日に一度下見にお越しになられてご挨拶をさせていただいたんですね。本当にフットワーク軽く動かれる方です。

沖田さんが今取り組まれてらっしゃる「スウィミー」という活動なんですけれども、渋谷区の教育委員会がやっている活動なんですよね。「スウィミー」についてご紹介をいただいてよろしいでしょうか。

沖田:これは平成9年の9月にプールができあがって、その前から知的障害者が外に出る機会を作って、運動不足の解消も兼ねてやろうじゃないかという話しがありまして。私が水泳教室に行ったときにポスターが出ていて「私の歳でもできるか」と渋谷区にうかがったら「できる」という事で。それからいろいろとありましたが楽しく活動をさせていただいてます。

―― 平成9年9月からということで、この「スウィミー」の活動が始まって以来ずっとかかわってらっしゃるということなんでしょうか。場所はどちらでやってらっしゃいますか。

沖田:渋谷区幡ヶ谷の中幡(なかはた)小学校の室内温水プールで午後の1時半から4時頃まで、大体2時間を目標にひとりひとりのペースでやっています。

―― 月に何回ぐらいやってらっしゃるものでしょうか。

沖田:5月から3月まで、夏休み・冬休みをのぞいた、第2・3・4土曜日に月3回活動しています。

―― つまり5月から3月まで1年間中やってらっしゃる。月3回沖田さんも、ボランティアされているんですか?

沖田:生徒さんが楽しみに来られるので、身体を壊さないように、健康に留意しながら活動しています。

―― 知的障害者・知的障害児ということですが、だいたいどれぐらいの年齢の参加者の方が、何人ぐらい利用されているんですか?

沖田:渋谷区で募集するのは50名ぐらい3月に募集をかけて、面接をして、更衣室で自分で着替えができる、付き添い・送迎ができることを基準(※注)に募集しているようです。

※注:渋谷区公式HPより「区内在住の小学生以上で次のすべてに該当する人。(1)知的障害がある (2)医師が水泳を許可している (3)排せつを知らせることができる (4)送迎・着替えを手伝う付き添いがいる」

―― 50人というとかなりの人数になると思うんですけれども、ボランティアの方は何人ぐらいで対応されるんですか?

沖田:やっぱりその人数(50人)が必要ですね。全員が来るということはないのですが、だいたい常時40人くらいはみえます。なにかあるといけないのでやはり1対1で活動しています。

―― その2時間どういう活動をされるのですか。

沖田:クラスが5クラスに分かれてまして。4・5コースは小さい方と泳げない方、1・2・3はコミュニケーションが取れて、1・2は完全に泳げる、3は少し泳げる、というクラス分けをしてボランティアがそれにつくようにしています。

―― 水泳ってご自分で楽しむのとは違い、人に教えるとなると結構スキルが必要なんじゃないかと思うんですけど。

沖田:知的障害者の水泳教室というのは、水泳をするんではなく、泳げるようになればいいな、運動不足の解消、外に出て活動できる身体をつくってあげようということを念頭にみなさんやられています。

―― 実際に知的障害者・知的障害児の皆さんたちが、水泳をすることによって体が強くなったり、あるいはコミュニケーションが発達したり、20年もやってらっしゃるとそういういろんな変化を見てこられてるんじゃないかと思うんですが、なにかエピソードとかあれば教えていただけないでしょうか。

沖田:生徒は毎回、担当するボランティアが違うんです。ですから、最初はぜんぜん生徒とコミュニケーションが取れないで、がっかりすることもあるんですけど、生徒とコミュニケーションをとって一体になったときに結果が現れるんで。まずは「生徒に先生を覚えてもらう」ことを念頭に、水泳教室じゃなく「水に親しむ」ということなんです。一般の方は水泳教室は泳ぐことに専念しますけど、障害者の中には、プールに入れない人もいますから、水に親しませてあげることを「やってやろう」じゃなく「いっしょにやろう」ということで20年間手探りでやってきました。毎日が新しいことばかりですから、勉強の日々です。

―― 水に親しむという話をされたんですけれど、多くのお子さんたちやっぱり水が怖い、水に入る、顔を付けるとかも難しいのが、だんだん水に親しむことができるようになって、喜びを感じ、それが沖田さんの方に感謝の気持ちとして返ってくる感じなんでしょうか。

沖田:表現の仕方が健常の人とちがいまして、声を出したり、たたいてくれたり、各自みんな違うもので、生徒の生き方をボランディアも勉強しながらコミュニケーションを取っているんです。それでコミュニケーションを取れたとき、こちらが「ありがたい」と思うと生徒も「ありがたい」なんです。やってやろうではなく「いっしょにやろう」というのを常に心がけてお手伝いしないと、間違った方向にいっちゃうんです。

最初のボランティアをやる方は、どうしても「やってあげたい」と手を差しのべ過ぎちゃうんです。そうすると普通のひとでものべつ幕なく文句ばっかり「こうしろ、ああしろ」と言われたら誰でも嫌がる。普通のひとと同じにように、頭をやわらかくして、お互い楽しく活動しよう、「ボランティアじゃなく、(我々が)ボランティアされる」いうことを心がけて活動しなければいけないと思います。

―― どうしても水泳が得意な方だと、教えたくなってしまうと思うんですけど、沖田さんご自身は水泳がお得意でらっしゃるんですか?

沖田:いやいや、僕は小学校6年のときに学校の水泳教室で神宮プール(※施設老朽化のため2002年に水泳場としては閉鎖・解体)に放り投げられて、夢中になって泳げるようになって、水の怖さというのはよくわかっていますので。障害者が水に親しむということが20年ぐらい前まではとてもできない環境だったんです。ですから水に親しませ、渋谷区にはプールがたくさんできてますから、プールを利用して健康を維持してもらおうと、そういうことを常に考えながら、やっていかなければいけないんじゃないかと。

―― ちょっとボランティアの話から横道それますけど、沖田さんが小学校の頃に神宮プールに放り込まれたとおっしゃってたんですけど(笑)

沖田:昔小学校で水泳教室がありまして、夏になるとプールに連れていってくれるんです。(昔は学校にプールがなかったから)神宮プールに連れてってくれるんですよ。そうすると先生が竹竿を持って「なんで竹竿持ってるのかなあ?」と思ったら、泳げない生徒をはしのほうにボンと放り込むんです。放り込まれると夢中になってもがきますよね。そうすると竹竿を出してるのでそれにぶら下がる、先生がひっぱると自然と身体がのびて浮くことを覚えるわけなんですよね。そんなことを、今あんなことをやったらそれこそ教育委員会で問題になっちゃいますけど、僕らの育ったころにはそうして水泳を覚えたくちですから。

―― なかなか手荒い(笑)

沖田:昔は先生は手荒かったですよね。殴るっていけないけど、そういう事もありましたし、ある程度の厳しさがないとダラダラしてたら覚えないですよね。

―― なるほど(笑)そういう事で仕込まれた泳ぎの技なのかもしれませんけど、その後も泳ぎを続けられてきたんですか?

沖田:まあまあプールや海で泳いだり、小学校で覚えたおかげで、毎年茅ヶ崎で遠泳したりして、速くはないですけど長く泳げることだけはできるようになりました。

―― プールのボランディアをする方は、ある程度泳ぎが得意な方でないとボランディアはできないんですか?

沖田:そんなことはないんです。一緒にお手伝いができればいいんです。水が嫌いじゃなく、一緒に行動すればいいんです。水泳教室というと、泳ぐというふうに思っちゃうんですけど、障害者の水泳教室は一緒に「水に親しむ」という事を念頭にやらないと、たいがい間違えて、「泳がせてやろう」と。泳がせるというのはなかなか時間がかかるんです。3年で1サイクルぐらいですから。ですから気楽に水に親しませてあげる、水に親しんだら生徒さんが自然と泳げるようになりますので。無理に泳がせようとすると、とても反発されて、そっぽを向いて水泳教室を休むようになっちゃいます。そうするとコミュニケーション取れないからボランディアは自信をなくすんです。水に親しんで、生徒さんが「やろう」という気持ちになってから、水泳の基本を教えてあげると。こういう気持ちで知的障害者の水泳教室はやっていただければいいんじゃないかと思います。

―― 沖田さんはこの水泳教室、50人ぐらいの生徒さんがいらっしゃって、50人ぐらいのボランティアの方がいらっしゃる。その中のおひとりではあると思うんですが、これまで20年も続けていらして、新しく入ってこられたボランディアの方に教え方を指導していらっしゃるんでしょうか。

沖田:僕は教えるというより「無理をしないで、相手のペースに乗って、楽しく、真正面で目を見て話しをして、手をさしのべる」。やってやろうではなく、一緒にやろうというっていう気持ちをいつも持ってて、と新しいボランティアが来るとつねにお伝えしています。

―― こういう教え方・接し方は、(水泳教室を)やりながらみつけたことなんですか?

沖田:そうですね。僕は最初に参加したときには毎回「やってやろう!」という気になっているから、お互いに生徒さんとボランディアとが違う方向むいちゃってるんですよね。やってやろうっていう親切なんだけど、障害者にすると、必要以上に手厚くやられるといやなんですよね。そういうことを会得するまでに3年くらいかかりましたけど。

―― 沖田さんは元々スウィミーの活動を始める前から、障害者の方に対するボランティアをやってらっしゃったんですか?

沖田:いやいや僕は70歳まで働いていましたんで、何か世の中にお返ししたいと、何かできることはないかと。職を離れて3ヵ月ぐらいぶらぶらしたら身体を持て余しちゃったんで。渋谷区の社会福祉協議会に「なにかありますか?」と聞いたらボランティアがいろいろあると。いちばん最初に老人ホームにお手伝いに行ったのがボランディアの始まりで。そして水泳教室に行って、そこで障害者の水泳教室が始まるというので参加したわけです。

―― それまではボランティアに関わらず、企業戦士として70歳までいらっしゃって、ゼロからスタートされたということなんですね。3年間かかったとおっしゃられましたけど、初めてのボランティアで、いろいろ模索をされて今のような取り組み方というものを見つけられたということですね。

沖田:そうですね。「手を差し伸べるんじゃなく同じ目線で行動しなさい」って。難しい言葉で言うようだけど、それをすこしづつ勉強していけばいいじゃないかなと思います。

―― 水泳が好きだ、水に触れるのが好きだという方がプールにおけるボランティアをされると思うんですが、知的障害者・知的障害児の方と一緒になにかするとなると、なにかあったら心配とか、リスクみたいなこともあるかと思うんですが、この辺は余り心配ないんでしょうか。

沖田:皆さんいろいろ癖がありますから、それはボランディアをやりながら会得しなければいけないんです。この子はトイレが近いんだな、こういう格好をしたらそれが嫌なんだなと、毎日が勉強なんです。1+1=2だという方程式が成り立たないで、みんなが違うんで、臨機応変に行動しなきゃいけないんです。

―― 親御さんからなにか沖田さんに対して言われることとかありますか?

沖田:わからないこと、その子の長所欠点は家族に聞くのがいちばん早いんです。問題があれば家族におうかがいして行動すると、家族も安心されるんじゃないかと思います。保護者懇談会が年に2回あるので、そのときに保護者から忌憚(きたん)のないご意見を聞きながら活動するようにしています。これは最初はなかったんですけど、やらないと生徒の長所欠点をつかむまで時間がかかっちゃうんです。そうすると生徒も楽しくないし、ボランディアも暗中模索でやらなければならないので。いちばん早く楽しくやるには家族に聞くのが一番と。

―― 例えば「うちの子がこう変わった」といった声を聞くこともあるんですか?

沖田:「水泳教室を休みたくない!」ということを良く聞きますし、会えると声を上げて喜んでくれますので張り合いになりますね

―― お子さんもちょっとづつ変化して、保護者の方からもお声を聞いて、それが続けていく原動力になっているという事でしょうかね。

沖田:成果が出るとボランディアも休むわけにいかないんで(笑)

―― 先ほど毎回違うお子さんを担当されるとおっしゃってましたが、同じお子さんをずっと担当した方が、その子の成長を見届けられるという感じがするんでけれど。

沖田:同じボランティアについてると甘えが出てくるんですよ。甘えが出てなあなあになっちゃ駄目なんで、渋谷区の担当の人たちが考えて、そういう方向になりました。

―― たまたまその日来た人に対応するとかそういう理由ではなくて、変える事に意味があると。いろんな先生、いろんな人と接するということになるという、理由があってのことなんですね。

沖田:生徒もいろんな人と接触することが良いし、ボランティアもいろんな人を見るから勉強になる、ということでいいんじゃないでしょうか。ひとりひとりに活動ノート(日誌)がありまして、教室の始まる前にボランディアがそれを見て、その子の事を引き継ぎ行動しています。

―― 沖田さんはこの約50人いらっしゃるボランティアの中では最高齢と考えてよろしいですか。

沖田:そうですね。僕は最高齢で、迷惑をかけないように、自分もボランティアされる年齢なので、身体に注意しながら行動してます。

―― ほかのボランティアの方というのは、どういう方が参加されてるんですか?

沖田:若い方、サラリーマンの方、学生さんもみえてます。

―― ボランティア自体も幅が広い。ボランティア同士の交流などもあるんですか?

沖田:終わると保護者の方がお茶菓子等を用意してくれるんで、今日あったことを雑談的に「こうだった」「楽しかった」「プールの温度をあげてほしい」とか20分ほど話して帰ります。

―― もうひとつ、沖田さんは中幡小学校温水プールでの知的障害者・知的障害児のボランティアだけではなくて「ひがし健康プラザ」でも他のボランティア活動をやってらっしゃるそうですね。

沖田:今日は資料を持ってきました。中幡小学校温水プールには来られないような、身体の不自由な方を対象に、東3丁目のひがし健康プラザのプールで毎日曜日9時半から11時までプールボランティアというのを立ち上げてやっています。最初はボランティアも足りなかったんですけど、今はたくさんみえて、ひとりにふたりは付くようにして行動しています。

―― 毎日曜日ですか! 沖田さんも忙しいですね。4月に例えば4回やってプールサポーターが50人、要請者が24人と書いてありますが、これは4回での合計数字ですから、1回あたりは6・7人くらいのお子さんに対してですね。より多くのサポーターがサポートしてるということですね。

沖田:そうですね、高齢者から幼児まで、視覚障害者、身体の不自由な方をひがし健康プラザでみようと。

―― 障害をお持ちのご本人、あるいはご家族が水泳教室に行きたい場合はどのようにしたらいいんでしょうか。

沖田:渋谷区教育委員会のスポーツ振興課に問い合わせをして、面接がありますから、そこを経ていらっしゃればいいんじゃないでしょうか。健康プラザのほうは、家族の方がいっしょに入っている方もありますので、こちらもスポーツ振興課に必ず問い合わせをして、お話しをうかがってからいらっしゃるのがベストじゃないかと思います。

―― 沖田さんのようにボランティアとして参加したい方は、今募集されてますか?

沖田:町内会の掲示に「スウィミー」のボランティア募集の掲示が出ると思います。またこの放送をお聞きになった方で、やりたいという方があれば、渋谷区に問い合わせをすれば、いろいろなボランティアがあります。水泳にかかわらず、自分にあったボランティアができますので、参加をお願いしたいと思いますね。

―― なかなか沖田さんのように毎週は行けないという方もいらっしゃると思いますが、そういう参加の仕方でも大丈夫なんですか?

沖田:自分の時間を犠牲にするんじゃなくて、できる時間に、無理をしない、お互いに行動しましょうというのがボランティアです。ある時間を世の中にお返ししようという考えでなければ、長続きしません。

―― そういっていただけると、参加も少ししやすくなるかと思います。みんな皆勤賞でこられるとは限らないので多めの方に登録しておいていただいて、ご都合のいいときに来ていただくということができればいい、ということですね。

沖田:プールボランティアの場合、渋谷区では思いがけない事故があったときの為に、区が保険をかけてくださるようになっています。ガラス張りのプールを見下ろせるところから見学もできます。ぜひ時間の許す方はプールにいらして、活動を見ていただきたいと思います。

「スウィミー」知的障害者(児)水泳教室
日時 原則毎月第2・3・4土曜日 14:00~16:00
場所 中幡小学校 温水プール(渋谷区幡ヶ谷3-49-1)

―― あとこれは一つすごく重要なんですけど、交通費も1,000円支給されるんですね。

沖田:最初はボランティアですから出てなかったんですけど、ボランティアが回数を重ねると手弁当じゃ大変なんで、渋谷区で交通費として出るようになりました。

―― こういう仕組みがあると、ボランティアの方も足を運びやすくなると思います。
今日はたっぷり「スウィミー」の活動をおうかがいしたんですけど、最後にラジオをお聴きのみなさんに、沖田さんからメッセージをいただけますか。

沖田:ひとりではなく、みなさんに良いことをして、楽しい生活を送るには、行動をともなうように。ぜひボランティアに参加してください。

―― ありがとうございました。

⇒ この番組の放送内容はこちらからお聴きいただくことができます
「渋谷隣人祭り」
2016年4月12日(火)11:15-12:00 放送

【テキストライター】土谷 君枝さん

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