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自殺をする人は弱い人ではない。心のエネルギーが全て、自殺の方向に向いているだけ。苦しい思いをありのままに話せることができたら、自殺に向いているベクトルを別の方向に変えられるのではないか。

【放送日時】2016年4月12日(火)14:00~14:55放送

【ゲスト】村 明子さん/NPO法人国際ビフレンダーズ東京自殺防止センター所長、馬場 幸子さん/同 副所長


―― この時間はNPO法人国際ビフレンダーズ東京自殺防止センターからお二人にお越しいただきました。まずは、簡単にお二人の自己紹介をお願いします。

村:高田馬場にあります、東京自殺防止センターから参りました、村です。我々は、電話相談で自殺防止の活動を行って、今年で18年目になります。私はそこでボランティアスタッフとして15年目になります。よろしくお願いします。

馬場:馬場です。同じく東京自殺防止センターにてボランティアスタッフとして10年ほど関わっております。よろしくお願いします。

―― お二人は主に、電話相談にて自殺念慮のある方々から相談を受け、苦しい気持ちを聴くという活動をされているということですが、ここで村さんから、本日の「自殺について」というテーマの紹介をしていただきたいと思います。

村:はい。この「自殺」というテーマですが、「死」にまつわる話はある意味避けられがちなテーマであり、「死」に対して感じること、思うことを率直に話す機会は少なくなっていると感じています。

あるワイドショーでタレントの風見しんごさんが9年前にお嬢さんを交通事故で亡くされた経験を語っていて、司会の方が「なぜ今9年前の話をするのか。」と風見さんに質問された時に仰った「だって、誰も聞いてくれなかったから。話すきっかけが無かったから。」という言葉がとても印象に残っています。この言葉を聞いた時に、今私たちに相談をしに来られる方々と重なるものがあると感じ、テーマにしたいと思いました。

―― このテーマを掘り下げていきますと、「死」というのはなかなか触れることができない。「死」に関わることは、聞く側の人間が踏み込んではならない領域に踏み込んでしまう危険性を孕んでいるため、聞く側の人間はある意味、話し手を「思いやった」結果、「死」に触れることが難しくなっているという状況が生まれてしまうということですね。

ですが、風見さんの場合はむしろ逆に聞いてもらえる状況があった方が良かったのでしょうか?

村:そうですね、家族が突然亡くなられたということは間違いなく一大事であるというわけですし、お嬢様を亡くされた悲しみがどれだけ深いかということは、聞き手の周りの方も想像はできると思うんですね。ただ、そのことに正面から向き合うということはとても難しい。なぜかというと、「死」について語るということは「覚悟」がないとできないものですし、下手をすると「死」に関わることで余計に彼を傷つけてしまうのではないかという気持ちがあるのだろうかと思います。けれどそれによって、ご本人にとっては本当に大事な問題について誰も触れてくれない、語る機会すら与えてもらえないという状況が生まれてしまったのではないかと思いました。

―― はい。このケースは交通事故ということですので、普段村さんや馬場さんが取り組まれていらっしゃる「自殺」の問題とは、直接的には異なる背景ではありますが、ただここに、ある種の共通性を見出していらっしゃるということですね。

村:そうですね。元々私がこの活動を始めたことにも関わってくることなんですけれども、人間の一大事である「生」と「死」と「セックス」の3つのテーマというのは、大きい問題であるのにもかかわらず、語ることがなかなか難しい問題だとずっと思ってました。特に「生」と「死」に関してですが、「生きること」は当たり前、「良いこと」ですけれども、対して「死」、特に「自殺」を考えることは「とてもいけないこと」「マイナス」、もっと言ってしまうと「自殺を考える人」は「弱い人」であるというような考えがあるのではないかと思います。特に現在の風見さんのように前向きに歩みだしている方はまだ語る機会を得られたかもしれませんが、前向きになれないほどに気持ちを追い込まれている方にとって、語る機会を得られないということは、苦しみが溜まっていくだけで癒す場がないということだと思っています。

―― 確かに「死」というテーマは日常会話で話すには難しいことだと思うんですね。そうであるがゆえに、自殺防止センターのような役割が存在すると思います。では少しここで、電話相談について知りたいのですが、誰しもが「じゃあ一回かけてみるか」という気持ちでかけてこられるわけではないですよね。

村:はい。私たちは年中無休で夜間20時〜翌朝6時まで電話相談をしており、年間で11,000件ほどの相談が来るのですが、その中ではっきりと「死にたい」と仰る方が6割もいらっしゃるんですね。また「自殺未遂をしたことがある」という方が15%もいらっしゃいます。で、今嵯峨さんがお話しされたように「ちょっと電話でもかけてみるか」という気持ちでかけてこられる方がいらっしゃる印象はあまり受けません。また、私たちが大切にしていることは、電話相談をしてこられた方にズバリ「死にたい気持ちがあるのか」と聞くことです。

―― あっ、ズバリ聞くんですか?

村:ズバリ聞きます。どの電話に対しても聞きます。それは私たちが自殺防止とハッキリ謳っているということもあって、わざわざそこに電話をかけてくる人たちは、高いハードルを感じながら電話をかけてこられます。ですからその方たちが本当に話したいことは何なのか、「死にたい」ということを話したいのであれば「私たちがちゃんと聞きますよ。安心して話してください。」という気持ちを込めて「死にたい気持ちがありますか?」と、ハッキリ聞くようにしています。

―― それは、電話が鳴って、割と早いタイミングでスバリ聞かれる感じなんですか?

村:そうですね。もちろん何も相談者の話を聞かないで言うわけではないですが。

例えば電話を受けているとその人から色々な自殺のサインがあるんですね。多くの方は「眠れないんです、眠れないと嫌なことを考えてしまいます。」というような話をされます。そういったときに「嫌なことってどんなことでしょう?」と聞くと「死んでしまった方がいいのではないだろうかというふうに考える」と仰る方が多いんですね。そのときにはじめて「”今”死にたいと考えていますか?」というふうにズバリ聞いて、話を聞く姿勢を作ります。そしてそこから、相談者が一番話したいこと、人に聞いてもらいたいことは何かをハッキリさせるということが大事だというふうに考えています。

―― ええ。つまり、日常では「死」を語ることがなかなか難しい。相手を慮るがゆえに「死」という話題自体が日常から蓋をされているわけですけれど、自殺防止センターの皆様は「死にたい」という気持ちがあるならば、その気持ちをしっかり話題に乗せてきちんと話そうというスタンスで臨まれるということなんですね。

では、実際にどう言った話をされるんでしょうか?

村:どう言った話をすると思いますか? 例えばズバリ「死にたいのか」と聞いた後、どのような展開になると思います?

―― うーん…。自殺を考えるようになったのはいつ頃からですか?という感じですかねぇ。それか、私だったら理由を聞いてしまうと思います。

村:そうですね。おそらく普通ならそう考えると思うのですけれど、私たちはどちらかというと理由とか原因、過去にどんなことがあったかということにはあまりこちらから聞くということはないですね。例えば、過去に辛い思いをされてどうだったかではなく、過去の辛い思いを今どう考えているかというところに焦点を当てています。

―― なるほど。辛い思いをされた過去を聞くよりも、”今”どう思っているか。過去を見返した上で、当時の経験から”今”どう感じているかを聞くということですね。

村:色々な経験や事柄、事情などもちろんあるとは思いますが、そのことで「”今”死にたい」ほどの辛い思いをしているのかということに焦点を当てて聞いています。

―― 多分電話相談をされる方の中にも、感情が高ぶっている方も多いと思いますし、「死にたい」ということをあまり論理的に筋道を立てて語れる方っていうのはあまりいないんじゃないかと思うんですけれども、そういった方たちにはどのように向き合われているんでしょうか。

村:例えば、相談をされる方の中には怒りを持って電話をかけてこられる方もいらっしゃいます。その時は聞き手である私たちが怒られているような気持ちになってしまうこともあるんですけれども、そうではなくて、相談をしてこられる方がこれまでの経験で受けてきた仕打ちや、今ご自身が置かれている状況に対して怒っているということがあるんですね。その場合は真摯にまずその怒りを受け止めます。そして「今とても怒っていらっしゃいますね、それを私に伝えたいと思っていらっしゃるんですか?」と尋ねてみたりします。相談してこられる方は経験に対して怒っているわけで、「死にたいと思うほどのどうにもならない状況で、今自分がどれだけ苦しんでいて、どのように怒りを感じているのかを聞いてほしい。」とおっしゃるので、まずは今の苦しさを聴きます。

―― なるほど。では一件の電話にはどれくらいの時間をかけて対応されるのでしょうか?

村:馬場さん、どうですか?

馬場:それはよく聞かれる質問なんですけれど、「長さ」って問題じゃないんですよ。5分、10分で終わる時もあれば、1時間以上お話しすることもありますね。

私たちは「時間」を問題にしているのではなくて、「”今”話したいことを十分に話していただく」ということを大事にしているので、一件の電話にしても、かける時間は様々ですね。

―― では、変な質問をしますけども、逆にどのタイミングで電話を切るんでしょう?

村:私たちの活動の中で一番それが難しいところですね。相談をされるほとんどの方は自分の悩みに対する解決策なんてないだろうなと思われて電話をかけてこられるんですね。皆様どうすればいいんでしょうかとおっしゃいます。ここで私たちが大切にしていることは「繋げない」ということです。つまり、相談に来られる多くの方は精神疾患に罹っていて治療をしているとか、いろいろな状況に立たされて、その中でもう手は尽くしたのにもかかわらず、まだ苦しい。死にたいという方が多いんです。そういう方にとっては自殺防止センターは「最後の砦」と言われることもあります。どうにもならないことがわかっているけど、とにかく自分の気持ちを聞いてほしい。自分の存在を認めてほしいという話を伺うので、そこを聞くことが一番かなと思っています。ですから、終え方というのも「どうもありがとうございました。」と綺麗に終わるというのは、実際すごく少ないです。死にたい気持ちがなくなって話が終わるということも、私の経験上1回もないです。

「今日は死なないでなんとか過ごせそうです。話を聞いてくれたから。」というように電話を切る方もいれば、なかなか電話を切ることができず、こちらから「今日はこれくらいにしておきましょうか。」と提案して電話を切ることもあります。

―― なるほど。「繋げない」というやり方をされるとおっしゃいましたが、何か過去に「繋げない」という手法について累計というか、実績などがあるということなんですか?「繋げる」助け方についてはどうお考えでしょう?

村:そうですね。できるだけ相談された方が、自殺しないために何かの機関を紹介して、実際に同行して寄り添うという方法を取っている相談機関もあります。私たちの場合は、責任を持って他の機関を紹介することはできないと感じていますので、とにかく話を徹底的に聞くというスタンスで仕事をしています。

―― 村さんや、馬場さんのところに相談に来られる方々は、そのような他の相談機関などを経験した上で相談に来られる方も多いんですか?

村:もちろんそうですね。それに実際自殺に関する相談機関は少ない、足りていないと思っています。

―― 先ほど、年間11,000件の相談数と伺いましたが、それよりも実際に電話をかけてくる方の数はもっと多いのでしょうね。

村:多いと思います。私たちの事務所も常に電話が鳴り止まないことが多々有ります。

―― 色々な相談機関を見ていただくということも、相談をされる方の解決策を模索する手助けになればということなんですね。

もう少しお伺いしたいのですが、「国際ビフレンダーズ」の「国際」というワードについて何か国際的に行っていることがあれば教えてください。

村:はい。この活動は約60年前にイギリスで始まりました。イギリスはキリスト教の国なので、当時は「自殺」は「罪」という意識がありました。「自殺」で亡くなった方はお葬式をしてもらえなかったりとか、お墓にすら入ることができないという状況でした。そこで、この活動を始めたチャド•ヴァラーという方は牧師でありカウンセラーだったんですけれども、初めての牧師としての仕事が、「自殺」した少女のお葬式を上げるという仕事でした。ここで彼は「自殺」した人がないがしろにされているという状況を見て、「生きるか死ぬかを決める権利は本人にある。」というふうに主張して自殺相談センターを開いたのが始まりなんですね。

現在では、国際ビフレンダーズとして世界30か国で3万人ほどのボランティアが活動しています。

―― では「ビフレンディング」という考え方はどういったものなのでしょうか?

村:私たちのボランティアというのは専門家でも医師でもないので、病気を治すという意識は持っていません。解決策を提示するということもしません。あくまでボランティアである私たちができることは、相談をされる方々、苦しんでいる方々の隣に座って友達のように話を聞くということをしています。苦しみを受け入れて共に考えていこうというイメージでしょうか。

大事にしていることは、相談者と私たち相談員は”対等”の立場だということですね。

―― 相談者と相談員が”対等”な立場に立つということは、とても難しいと思うのですが、どのようにすれば”対等”な立場に立てるとお考えですか?

村:私たちの経験で言うと、まず相談者の方々はご自身の命をかけて電話をしてきているんです。「うまくいかなかったら死ぬぞ。」というふうな強い感情を持っていらっしゃいますし、相談がうまくいかないと、期待が大きかった分がっかりしたりということもあるわけです。「自殺」をする方というのは一般的には「弱い」というイメージがあると思いますが、実際にはそうではなくて、心のエネルギーが全て「自殺」の方向に向いているだけだと。「弱い」のではなく「自殺」に集中している状態だと。だからこそ、私たちが普段人に話すように、誰かに相談すれば、その「自殺」に向いているベクトルを別の方向に向けることだって可能なんじゃないか。ベクトルを変えるのはご本人なんですが、私たちが話し相手になることでその手助けができるのではないかと考えているんですね。

―― なるほど。そのお話を聞くだけでも全くイメージが違いますね。100個ある生命力が「自殺」を考えることで20個とか30個とかに減っているわけではなくて、その方の持っているエネルギーは実は変わらず、向いている方向が「自殺」というだけだと。

村:そう思います。ですから、私たちが彼らと真剣に1対1で向き合わなければ、彼らも死にたい気持ちを語ることができないんじゃないかなと思います。言うまでもなく「自殺」を考えている人たちを「可哀想」だとか、そんな気持ちを持って接するなんて、とんでもないですね。

馬場:私たちも、電話をかけてこられる方も、同じ感情を持った人間。だから聞けると思うんですよね。時々困るんですけれど、私たちを「先生」と呼ぶ相談者の方もいらっしゃるんです。でも、それは違って、「私たちもあなたと同じで、泣いたり笑ったりする同じ一人の人間ですよ。先生じゃないよ。」と。私たちも相談者の方々と何も変わらない、同じ人間なんですよとお話しすることもありますね。

―― 1対1の”対等”な関係だということを相手に伝えるわけですね。では、またこれも聞きにくい質問なんですが、電話相談をした方が実際に「自殺」を思いとどまったという声は聞こえてくるものなんでしょうか?なかなか報告のような電話を受けることはないですよね?

馬場:ないですね。

―― 非常に安直な発想ですけれど、なかなかボランティアとして活動していらっしゃる中で、「何人助かった」とかが分かれば手応えはあるわけですけど、そうではない。その中で、この活動を10年、15年続けていらっしゃるというのは、これは活動に何か希望を見出していらっしゃると思うのですが、ご自身なりにどうやってモチベーションを保ちながら活動に関わっていらっしゃるのか教えていただけないでしょうか。

村:はい。私の場合、この活動を続けていて一番思うのは「人って強いんだな。」と思うことですね。死ぬことも生きることもできない一番苦しい状況にいらっしゃる方の話を聞いて、最終的には自分で決めなければならないんですよねと自ら仰る方、その決断に踏み切ろうとできる方々に尊敬の念を感じます。「生」と「死」の境で悩んでいる方たちは、いわば鋭利な刃の上に立たされているような、生きることも死ぬこともできない恐ろしい状況にいるわけですけれど、それでもなんとかしたいというエネルギーを私たちがぶつけてくる。命の尊厳の場に一緒に立たせてもらえるというある意味光栄に感じるんですね。だから続けています。

馬場:結構ハードな活動なんですよ、私たちの行っていることって。肉体的にも精神的にも。でもね、皆さん頑張るんですよね。時々聞くんです、「なんでそこまでがんばれるの」って。私自身も「なんでこの活動を10年も続けられているんだろう」って疑問に思います。

で、最近気がついたのですが、「本音でトークができるから。」ということなんですね。相談してくれる人たちも本音で話してくれますよね。私たちも本音で応える。日常生活の中で本音で話す機会って割と少ないじゃないですか。それがこの活動でできるというのがモチベーションにつながっていると思います。

―― ほぉ・・・。なるほど。これは本当に目からウロコでした。確かに厳しい会話の内容になっているとは思うんですが、それが人間の本音を感じられる場であるというふうに皆さんが感じているんですね。それが自殺防止センターの活動を続けていく原動力になっていると。

馬場:はい。時々自分に問うてみることが大事かなというふうにも思いますね。

―― 相談員の方が実地に出るまでのトレーニングはどのようなことをしていらっしゃるのか、また話を聞くことでやはり、ストレスを感じることがあると思うんです。その解消法というか、皆さんがリラックスするために何か行っていることはありますか?

村:私たちのトレー二ングは年間3回あります。今年の第1回目は5月から養成研修が始まります。ボランティアになるためには11週ほど「傾聴の技術」というのを座学と体験学習で学ぶということをしています。私たちの活動というのは、講義だけではどうにもならない活動ですので、実際に死にたい気持ちを話されたらどう思うのかということを体験学習にて学びます。次に実際に電話を取ってみてどのように対応するかを約3ヶ月間で学びます。また、常に自分が「死」に対してどのように考えているのか、「自殺」したいと言われたらどう思うのかということを、言葉にするという訓練をしていきます。

―― そうしますと、最初の「傾聴の技術」を学ぶのに約3ヶ月、電話を取るのに3ヶ月で計6ヶ月間の研修を経て、相談員になるわけですね。

村:そうですね。大体半年から長い方で1年くらい掛かります。研修は週に1回ペースです。この研修を経て、試験をし、合格した方が相談員になるという流れです。

―― 今、東京では何人ほどの相談員の方が活躍されていらっしゃるんですか?

村:50人おります。年齢的には50代、60代が多いですね。

―― 若い人では少ないんでしょうか?

村:学生の方もいらっしゃいますが、多くはありません。今、募集している中で応募数が一番多いのは実は30代の方々です。忙しいけれど何かもう一つしたいと応募してくださっていますね。

―― 片柳さんもこういうボランティアにいざ関わるとなるとどう思いますか?

―― もちろん、話をする側も相談を受ける側両方、電話を介する時には年齢がわからずに話をされると思うのですが、私が相談員として話をするとなると、本音で人と人とが向き合った時にしっかりと話を受け止められるほどの能力や経験があるのかということが自分の重くのしかかってきますね。

―― 彼女のような、若い感覚や考え方をどう思われますか?

村:そうですね、確かにその不安は持っていらっしゃると思います。けれど、受ける相談は私がこれまで経験したことのないものばかりなので、私はこれらの相談については「経験はものを言わない」と思っています。大事なことはどんな経験をしたかとか、どんな知識を持っているということではなくて、今苦しんでいる人にどのように寄り添うか、気持ちを寄せられるかにかかっていると思います。

馬場:経験があることは、ある意味邪魔なものというふうに考えます。経験で私たちが話すというよりも、聞くことに重点を置いているので、むしろ経験がない方がまっさらな心で聞けるかなと私は思います。

―― 例えば、電話で相談するということは家族がいらっしゃる方でも第三者に話を聞いてほしいからという気持ちがあるからだと思うんですが、どういうスタンスで受けられるんですか?

村:ご家族がいらっしゃっても、毎日死にたい死にたいという話をしていたら、逆にご家族の方が参ってしまって、「死」についての話を遠ざけてしまう、触れることがなかなかできなくなってしまう部分もあると思うんです。全然知らない人だからこそ、話ができるということもあるのではないかなと思いますね。

―― ありがとうございます。

馬場:先ほどのストレス解消の話ですが、意外なところにあると思います。後ろからそっとお茶を出してくれるとかね。甘いものが用意してあるとか、休憩の用意をしてくれるとか小さな気遣いをしてくれた時とか、そのおかげでちょっと息抜きができるということはあります。ちょっとしたことですが、私も一人じゃないんだ。みんなで頑張っているんだという気になるので、そこが一番リラックスできるところでしょうかね。

―― その、相談員同士のチームワークというかお互いの関係があるからこそ、日々の相談に対応できるということですね。みなさんお互いの気持ちをぶつけ合うと疲れちゃうでしょうから。

村:私たちが受けている相談はとても難しい相談なので、自分の一番の弱点が相談を受けている時に出てしまうような気がします。私たちにはこういった仲間がいるので、自分の弱点をさらけ出せますし、ある意味爽快な気分で活動できていますね。

―― こうした自殺防止の活動をしていらっしゃいますが、最後に大きな話題について触れていきたいと思います。

日本の自殺者数というのはかつて3万人台と言われていましたが、現在は減少していて2万4千人になっていますが依然として高い数字になっていますよね。こういった統計数値について、または実際に活動をされる中で感じることも多いと思います。それに対する政府、自治体、民間の対策についても感じることも多いと思うのですが、差し支えなければ、何か現在の対策についての現状にコメントなどございましたらお願いします。

村:はい。年間自殺者数が3万人を超えたのが1998年です。今年で自殺対策基本法という法律ができて10年目で改正というところまで漕ぎ着けました。それ以前というのは、私たちのような小さい民間団体の機関が「点」のような活動をしている現状だったと感じていたのですが、法律ができたことで、自治体を中心に地元で自殺対策を行えるようになったということが、日本のひとつの特徴であるか思います。また、民間から区や市、県などで、特別な人ではなく日本人誰もがゲートキーパーになろうという気運がこの10年で高まってきたのではないかなと思います。実際、日本での自殺者は減ってきたんですけれども、問題になっているのは若年層の自殺者数がそれほど変わっていないということです。昨年の自殺者の中で20代以下の割合だけ増えているんですね。例えば、その中でも新年度、新学期が始まる期間の自殺が最も多いと言われています。私たちのところにも若年層からの相談が来ることもあります。ネットワークが発達したことによって、短文のテキストでしか普段話すことがないとか、人と人とが麺と向き合って話す機会が減っているということを私は大変危惧しています。

―― ありがとうございます。馬場さんいかがですか。

  

馬場:そうですね。若年層の相談もちょくちょくあります。そこでとても気になるのが、子供の相談なのに、「居場所がないんだよ。」という話を聞くんです。結構言うんですよね。私たちは電話で話を聞くことで心の居場所を作ってあげられるんじゃないかなと思います。

―― この「生」と「死」については冒頭でもお話しいただいたように、なかなか触れがたい問題であり、相談することも難しい。身近ではないというか、どうしても蓋をされてしまっている。だから、自分のエネルギーが内側に向かってしまっているということですね。そこで、SNSや電話だけではなくて、何か深いコミュニケーションができる方法を身につけるとか、そういったものを「ビフレンディング」の姿勢で取り組めたら何か変わるものなんでしょうか。

村:いきなり深い話をするのはやはり難しいと思います。それよりもっと簡単に、気になったところに声をかけてみるとか。「今日元気ないね、どうしたの?」という言葉をお互いにかけることができるといいと思います。それともう一つ、相談をした際、話をした際に相手が思っていることを評価するのではなく、「そうなんだ。」と、受け入れることができればいいなと思いますね。

―― ちょっとした変化にみんなが気付いてあげる。ネガティブな状況に気づくということが大事なんですね。

 ということで、お時間が近づいてまいりました。

 本日はNPO法人国際ビフレンダーズ東京自殺防止センター所長 村明子さん、副所長の馬場幸子さんにお越しいただきました。ありがとうございました。

【聞き手】嵯峨 生馬(サービスグラント代表理事)

【テキストライター】副田 恭平さん

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