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【禍話リライト】『2階の忘れ物』

誰にでも一つや二つじゃ利かない嫌な思い出がある。
忘れていたそんな思い出が、些細なきっかけから脳の奥底から這い出して来る。

というような話がツイキャス『禍話』の語り手・かぁなっき氏の元に届けられた。

●●●

Yさんという女性の話だ。

現在のYさんは「おとなしい」と評されそうな、穏やかで落ち着きのある大人の女性なのだが、

「子供の頃はおてんば、というか……、男の子たちと外で遊ぶことの方が多かったんです」

彼女が小学生の頃暮らしていた住宅街には、ある廃屋があった。

人が暮らさなくなってから久しく、だがそこまでボロボロというわけではない、人が住んでると言われればかろうじて納得できるくらいの、二階建ての一軒家。

かつてその家では老夫婦が暮らしており、使用していない二階の空き部屋を下宿として貸し出していた。

ある時、下宿していた男性が亡くなった。

怪我や病気にかかっていた、ということはなく、いわゆるポックリと、その下宿の部屋で亡くなった。

老夫婦は縁起でもないと家を手放したのだが、嫌悪されてか、それから買い手もつかないまま放置され続けている。そんな経緯で廃屋となったのだ。

その家には噂があった。

老夫婦たちは自身の荷物は一切残さずに引っ越しをした。
だが、男性が亡くなった二階の部屋に、遺品が残されているのだという。
身寄りがなかったのか、はたまた回収の拒否されたのかは定かではない。

そんな噂を聞いてしまった当時わんぱくキッズなYさんたちは「見に行ってみよう!」と、放課後に集まってから廃屋へと向かった。

廃屋の前へ着くと、Yさんは先陣を切って進む。さびた鉄の柵扉を開け、少し立て付けの悪い引き戸の玄関扉を開けた。後ろから男の子たちがついてくる。

生活感のないがらんとした家の中は静かだった。周囲に家財と呼べるものは一切なく、玄関から入ってすぐ正面には少し急な階段がある。
目的地はその怪談の先の二階だが、夕方の、明かりがついていない家の中は暗く、階上はひときわ暗く見える。男の子たちの内の誰かが唾を飲む音。

Yさんの記憶はそこからあやふやだった。

怖気づいた男の子たちを置いて単独二階へ向かった。
二階の廊下には乱雑に数々の黒いゴミ袋が置かれていた。
においや害獣に荒らされた形跡がない。中身は服や紙類が詰められているのだろう。

それから――――――――――。

ほどなくして、Yさんは学区も変わらない隣の地区へ引っ越し、小学校卒業後は平凡な進路を辿り、地元を離れ会社に勤めている。

友人たちと数多く遊んだうちの一回だ。
思い出を振り返ってみれば、特別印象に残ることが無かったのだろう。
大人になったYさんは、廃屋へ行ったことをたまに思い出していたが、そんなもんだろうと自分では納得していた。


Yさんが成人も過ぎてしばらく経ったある盆休みの帰省中。
近所の商店街を懐かしい気持ち交じりに歩いていると、当時一緒に廃屋へ行った男の子の一人と出会った。

「久しぶり~、なんて、話も盛り上がっちゃって、近くの喫茶店で近況報告みたいなことしたんです」

話の中でYさんはふと、「同窓会ってないの?」と尋ねたのだが、今や壮年となった元男子は「いやぁ~、気まずいじゃん。大丈夫なの?」と。

大丈夫とはいったい何だろうか。

「ほら、あの家行ったあと怪我したり引っ越したり、嫌な事思い出しちゃうかな、って」

「怪我なんかしたっけ?」

「Yが一人で二階に行ったあと、ちょっとしたら『ギャー!』って悲鳴が聞こえたからほかのやつらと行ったら、左足から血出してたじゃん。それでお前ん家まで運んだろ?」

「えー……全然憶えてない」

「体育も休んだりしてさ、移動教室も大変そうだったな」

Yさんはじわじわと当時のことを思い出してきた。

確かに、一時期体育を休んでいた。移動するときも左足が痛くてひきづっていた。
母親に連れられ、近所のかかりつけ医にも行った。怪訝な顔をしたお医者さんに足の傷を縫われたことも思い出した。

「なんで怪我したんだっけなぁ……」

Yさんは自分の左足に目を向けた。うっすらと、確かに傷跡と言われれば……程度の痕がある。

当人の記憶がはっきりしないまま、
「何か嫌なことがあったから記憶を封印してたのでは?」
という結論に至り、解散となった。


モヤモヤした気持ちのまま実家に帰宅したYさん。
両親も健在だし、かかりつけ医もまだ存命のはずだ。
なにがあったか聞いてみることは可能だろうが、妙な事を訊ねて困らせるのも良くないと、結局は聞かないと決めた。

その晩、Yさんは夢を見た。

小学生の頃の自分が例の廃屋の階段を登っている。
やがて、当時の記憶通り、二階の床には所せましと乱雑に黒いゴミ袋が置かれている。

ゴミ袋の合間を縫うように歩みを進め、襖が開いたままの和室に足を踏み入れる。

一面の黒いゴミ袋を見まわすように視線を動かす。
黒一色に見える床の上、一か所だけ目を引く色が入った。

Yさんから向かって左側、ゴミ袋の隙間。
人? とYさんは思った。

四つん這いの人間。
頭の部分に緑色の布をかぶっている。
YさんはTシャツだと思った。

それはバタバタと手足を動かしYさんへ近づき、大きく口を開けると、Yさんの左ふくらはぎへ深く噛みついた。


「そこで目が覚めたんです。
男の子たちは怪我した後の自分しか知らないし、こんなホラー映画を見たこともないので、記憶が混同してるってこともないと思います。
これ、どうなんでしょうか?」

Yさんは穏やかな笑顔を浮かべながら、話を締めくくった。

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『かぁなっきの独りごつ』
https://twitcasting.tv/lateral_osaka/shopcart/174892

ほぼ全話取扱注意の大怖話!
・タクシーって、確かにそれもある意味タクシーではあるけど……『タクシーの山』
・廃神社ってだけでよくないのに、さらにそこでコックリさんも巻き込んじゃったらもうタダでは済まない!いいんですよ、どういたしまして。『廃神社のこっくりさん』
・禍回避成功!ハッピーエンドに終わったと思っていたあの話の真実とは……!?『釣り先輩・改』
・関係者が失踪している話が怖くないわけない! 帰ってきた家族の真相とは……『「忌魅恐」の続きのこと』
・業はよくない……身近なだけにドンべこみですよ!『業の家』『業の獣』
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・あの名作洒落怖の真相とは……おねショタとか言ってる場合じゃないぞ!『八尺様について』
・我々の恐怖センサーをぶっ壊しにかかる、禍話のベストはいつだってネクスト、加減なんかするな!『鹿威しの小屋』

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『FEAR飯の本厄でしょう!』
https://twitcasting.tv/lateral_osaka/shopcart/174898

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こっちのアーカイブは九月四日までとのこと!

あなたもお金を払って怖い目にあおう!

この記事は、ツイキャス「禍話」さんの怖い話をリライトさせていただいたものです。

公式ツイッター
https://twitter.com/magabanasi

ツイキャス
https://ja.twitcasting.tv/magabanasi

youtubeチャンネル『禍話の手先』
https://www.youtube.com/channel/UC_pKaGzyTG3tUESF-UhyKhQ

から書き起こした二次創作となります。

該当回『元祖!禍話 第十六夜』

ツイキャス版
https://ja.twitcasting.tv/magabanasi/movie/741766232

27:14あたりから。

●タイトルはドントさん( https://twitter.com/dontbetrue )のツイートから拝借しました。いつもありがとうございます!

https://twitter.com/dontbetrue/status/1558479129246580737?s=20&t=BO-LlPSDkrCskHQ6eHgyng

●あるまさん( https://twitter.com/aruma1220 )による『禍話 簡易まとめwiki(簡易ってレベルじゃない)

https://wikiwiki.jp/magabanasi/

誤字脱字衍字そのほか問題ありましたらコメントやTwitterのDMにてご連絡いただけると幸いです。

この時期は帰省とかで、開いちゃいけない記憶の蓋が開いたり開かなかったりなんじゃないですかね。


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