【禍話リライト】『ラブホの電話』

年末年始とはいえ、接客や販売など、休みではない業種もある。
タイトルにもあるが、この話はかつてラブホテルで清掃業をされていたＡさんという方の話だ。

人間同士、様々な愛し合い方があるもので、限られた清掃時間の中できれいにしなければならない。大変だがそれなりに達成感のある仕事だったという。

そのラブホテルには、ルールがあった。

清掃の仕方などの業務においての決まりごとがあるなか、ひとつ奇妙だったのが、朝――というか午前中、フロントにいる時に【客室から電話が鳴っても出なくてよい】というルールだった。

ルールを聞かされたＡさんは内心（客が忘れ物の問い合わせでもしてるんじゃないか）と思っていたそうだ。

朝のラブホテルはほとんどすべての客がチェックアウトもしており、そう頻繁に電話が鳴ることは無かった。
実際に電話が鳴る際は、かなりしつこく鳴らされると聞いていたが、実際にその現場にあたることはなかった。

しばらく勤務していたＡさんはある日の朝、清掃を終え帰宅しようとフロントに寄った。フロントは客と顔を合わせないようになっており、その中は従業員たちが着替えたり備品を置いたり、事務所兼倉庫のようにもなっていた。

壁面に並べられた縦長のロッカーから着替えや私物を取り出していると、トゥルルル……トゥルルル……と、軽い電子音声が電話から鳴った。

（これが噂のルールの……）

どの部屋からかかって来ているのか気になったＡさんは電話の前まで行き、通常であれば客室番号や電話番号が表示されるディスプレイを見た。

【ｺｳｼｭｳﾃﾞﾝﾜ】

（公衆電話？）

ディスプレイにはカタカナでそう表示されていた。

（なんだ、いたずらだったのか。それならそう言ってくれればいいのに）

鳴り続ける電話を無視し着替えを終えると、フロントと事務所に居る他のスタッフへの挨拶もそこそこに声をかけ、Ａさんは職場を出た。

そのラブホテルは、従業員用の裏口出入り口先が道路に面しており、そこには公衆電話がある。
三面ガラスで囲われ、折り畳み式の扉がついている、緑色の電話が置かれた、いわゆる電話ボックスだ。

その中で電話をかけている人がいる。どこにでも居そうな女性だ。
気になったＡさんが見ていると、電話が終わったのか、受話器を戻す。
そしてまたすぐに電話機を持ち上げ、硬貨を投入し、電話機が揺れるくらいの力でがちゃがちゃと電話番号を押す。

（うわっ！）

と、驚き、今出たばかりの職場へ戻る。
先程挨拶したフロントスタッフは、鳴り続ける電話を無視して「どうした？　忘れ物」と暢気な様子だ。

「いや、あの、外の電話ボックスに……！」

「あぁ～……。分かってる、大丈夫だから」

「で、でも！　警察とかに言った方が良いんじゃないですか！？」

焦りや驚きが混じりながら、しつこい嫌がらせだと想像したＡさんの提案は却下された。

「あれなぁ、今電話に居る人を警察に通報して『どうにかしてください』ってのも無駄なんだよ」

「えっ」

「毎回違うやつが電話かけてきてるんだよ。前はお爺さんで、その前はどんなだったかな……。今回は？」

フロントスタッフも以前警察に通報したことがあるという。
その時電話をかけていた人物は、警察に話す際、自分が電話をかけていたことを憶えてなかった。

「だからさ、通報しても無駄なんだよ。無視するしかないってこと」

「なんで！」
Ａさんは思わず大きな声を出してしまう。

「このホテルが開業してから、三人くらい自殺してんだよね。うち二人は、出てすぐの道路に飛び込んだり」

その二人は、飛び込む前に、その電話ボックスから電話をかけてきていたという。
不倫された、裏切られた、喧嘩した――今から死を選ぶ理由を、最後に聞いてほしかった、という。

それから、二人目が亡くなった以降、道を歩いていた人が急に電話ボックスに入り、ホテルに電話をかけてくるようになった。

「だから原因もわからないし、どうしようもないんだよね！」

その後すぐ、Ａさんは退職し、その後そのラブホテルがどうなったかは不明だという。

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この記事は、ツイキャス「禍話」さんの怖い話をリライトさせていただいたものです。

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から書き起こした二次創作となります。

該当回『禍話インフィニティ　第二十四夜』から『ラブホの電話』
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23：50あたりから。

●タイトルはﾄﾞﾝﾄさん（ https://twitter.com/dontbetrue ）のツイートから拝借しました。いつもありがとうございます！

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建物が変わってもだめなんでしょうね。
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