中国経済はV字回復するのか

先日、4月17日に「日経プラス10」で、コメンテーターを務めました。その日のトップニュースは、「2020年1-3月の中国GDPがマイナス6.8%」という内容でした。報道番組で1つのニュースにコメントする時間はだいたい30秒、長くても1分です。そこで、コメント内容の詳細や背景を解説したいと思います。

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO58168630X10C20A4MM0000/

中国GDPの発表は、事前の想定どおりでした。「マイナス6.8%」という数字自体は非常に悪い数字ですが、上海や香港の株式市場にはほとんど影響を与えませんでした。むしろ、注目を集めているのは、今後の中国経済の動向です。

まず、中国の専門家、特にエコノミストの間では、「V字回復にはならないだろう」と言われています。もちろん、4-6月の中国GDPは、1-3月に比べると大きく成長すると言われており、そういう意味では、V字回復が予測されていると言えなくもありません。

しかし、エコノミストたちが「中国経済のV字回復」と言うときには、本来の経済成長率である、前年比6%の成長軌道に戻ることを指すことが多いのです。そして、この潜在成長率がフルに発揮されるまでには、しばらく時間がかかると言われています。

その理由は2つあります。まず、中国ではロックダウンが解除されつつありますが、小売などはまだ回復途上にあると報道されています。これは、日本のような「自粛」とは異なり、文字通りの都市封鎖が行われたこともあって、まだ外出を恐れている市民が多いということなのかもしれません。

それ以上に深刻なのは、欧米への輸出の回復の遅れです。当初、中国政府がロックダウンを解除すれば、再び経済活動をそのまま再開できると考えていたはずです。ところが、3月上旬にイタリアが感染拡大からロックダウンに踏み切ったのを皮切りに、欧米各国が次々にロックダウンしていったため、中国がロックダウンを解除しても、今度は輸出先の経済活動が停止しているという状態になりました。

この結果、中国経済は4月には生産活動が回復したものの、国内・海外ともに需要の回復が大きく遅れています。

中国の経済対策は今月の全人代で発表

こうした状況を受けて中国経済の今後に世界中の注目が集まっているわけですが、大きく3つのポイントがあります。

まず第1に、ロックダウンを解除した後、想定される第2波、第3波を乗り切ることができるかです。新型コロナ・ウイルスは、ワクチンが開発されるか、社会の一定割合が免疫を獲得するまでは感染拡大が収まらないと言われています。1918年のインフルエンザの大流行(いわゆる「スペイン風邪」でも、社会の一定割合が免疫を獲得するまで3回の波がありました。

このため、ワクチン開発や、テクノロジーを駆使した「スマート・ロックダウン」によって、第2、第3の感染拡大の波を抑え込むことできるかがポイントとなります。

(なお、AppleとGoogleは、中国政府の方法とは一線を画した、プライバシーを保護しつつ感染者をトラックするBluetoothの仕組みを共同開発していると報道されています。)

第2のポイントは、経済対策です。欧米各国が大規模な経済対策を打ち出してくる中で、意外なことに中国政府はこれまで大規模な経済対策は行っていません。その背景には、リーマン・ショック後に世界最大規模の経済対策を行い、その副作用に長年苦しんできたこがあると言われています。

しかし、このまま欧米への輸出が回復しなければ、外需の落ち込みを内需拡大で補うための経済対策を打ち出す必要があります。

中国経済の専門家たちは、今月(5月)に延期されている全人代で大規模な経済対策が発表され、(1)需要が回復するまでのつなぎ融資、(2)央政府から地方政府への財政支援、(3)5Gを中心とするテクノロジー投資がその大きな柱になると見立てています。

こうした経済政策が効を奏すれば、2020年の中国成長は、なんとかプラス成長になるかもしれません。しかし、それでも、本来の潜在成長率である6%の達成は厳しい状況です。

第3のポイントは、中国と欧米、特に米国が、ポスト・コロナを見据えて国際協調できるかです。

現時点では、中国の方が欧米よりも一方的に優位です。中国経済が新型コロナウイルスの直撃を最初に受け、回復も最初です。また、上海、深セン、北京といった産業の集積地は無傷であり、NYがロックダウンに追い込まれた米国とは対照的です。

また、ポスト・コロナの非接触型社会を創っていく上でも、中国の方が米国より優位です。5G技術は中国が先行しようとしていますし、AI処理のためのGPUの性能や、スーパーコンピューターの開発も中国の方が進んでいると指摘されています。

さらに、欧米を中心に、新型コロナ・ウイルスで家族を喪った人々の悲しみや怒りの矛先が中国に向かい、国際協調を進める上でのハードルが高くなるするリスクがあります。

ポスト・コロナの秩序づくりへ

今回、中国はロックダウンを解除したものの、欧米がロックダウン中であるために、中国経済のV字回復が難しい、という事態に直面しています。このことからも、経済や雇用を守りながら、新型コロナ・ウイルスを封じ込めるために、国際協調が必要であることは明らかです。

しかし、残念ながら、現時点では国際協調の取り組みが十分に進んでいるようには見えません。

現在の国際協調の仕組みは、国際連合(特に安全保障理事会)による戦争抑止と、世銀とIMFを中心とする国際金融の安定化の上に成り立っていますが、国際連合の基礎となった大西洋憲章は1941年8月に発表され、世銀とIMFの設立が決まったブレトン・ウッズ会議は1944年7月の開催です。終戦のはるか前から、戦後に向けた国際秩序づくりが着々と進んでいたことになります。

同じように、新型コロナ・ウイルスの感染拡大が収束するのを待たずに、ポスト・コロナの国際秩序を見据えた構想を進めていく必要があるのではないでしょうか。

(最後に、「日経プラス10」での出演に先立ち、中国経済の専門家の方にインタビューする機会を頂き、番組中のコメントはもちろん、本記事の執筆にあたっても、参考とさせて頂きました。この場を借りて深く御礼申し上げます。もちろん、番組でのコメントや本記事にもしも間違いなどがあれば、それは全て私の責に帰するものです。)

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