上映
先輩が好きだった。
彼は上映期間が短い映画が好きだった。小さなスクリーンでやってる映画が好きだった。カメラを見つめる瞳がまっすぐだった。その瞳が好きだった。
文化祭の上映会。がらがらの観客席で、彼は1人うなずく。
俺や後輩の作品を見て、「これはやられた」「おもしろい」なんか呟いている。先輩の作品はめちゃくちゃで、お世辞にも上手いとはいえなかった。だけど俺は好きだった。
先輩が卒業するまで、俺はこっそり彼の表情を撮った。映像の中の彼は、夕焼けにまぶしそうに目を細める。おどけたようにポーズを決める。誰にも言いたいことが伝わらなくて泣いている。「撮んなよ」と笑う。
やっぱり、こっそりいかなかったな。
後輩の映像が終わった後、式場はしんと静まり返った。遅れてぱらぱらと拍手が鳴る。隣の彼女は「良い動画だったね」と笑った。司会が咳払いをした後、笑顔で次のプログラムを読み上げる。俺は席を立った。周囲の人間が目を丸くする。後ろから彼女の呼ぶ声が聞こえた。
暗転。俺は1人で映画館に座っている。平日の昼だからか、他に人はいない。小さなスクリーン。後ろから声が聞こえる。
「先輩、なんでやめたんすか」
「結婚?映画?」
「.....」
後輩は無言だった。どんな顔をしているかはわからない。
「はよ座れよ。始まるで」
「うす」
真っ白な光がスクリーンに映し出されるのみだ。隣の後輩の顔が照らされている。
「逆に聞くんやけど。」
「はい。」
「あの映像は何。」
「.....あれは、その。」
「なんであの後会場から逃げた。」
「....いやあ。」
「言うとくけど、」
後輩の眼球が俺の方を向く。
「俺が全部やめたんお前のせいやからな。」
「はあ?」
彼は大きく口を開け、大袈裟に驚く。俺が後輩の方を向くと、彼はわかりやすく顔を赤らめた。
「嘘や。全部俺の判断。お前のせいやないよ。」
「....なんなんすか。からかうの、やめてください」
「単純に、俺はクズってことや」
後輩は俺の言葉に否定も肯定もしなかった。それでいい。
ブー、と音が鳴り、劇場が暗くなる。
流れたのは俺が初めて撮った映画だった。俺が大学の坂道でごろごろと前回りで転がり、当時の同期がモップで俺の前をコスコスとこする真似をする。人間カーリングである。その後、空が下手なCGで割れ、その割れ目から魔王が登場し、世界は暗黒に包まれる。俺は、隣をうかがった。彼はじっと俺の映像を見ている、のち。
「めちゃくちゃやな」
してやったり。
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