寒い朝に

新刊 大学生時空 安達と堺(付き合ってる)

「ひ~、外さっむ」

目をしぱしぱさせて、堺くんが言う。秋なのに暑い日が続いていたが、ようやく11月らしい気候になってきたらしい。それにしたって、異常気象だ。日本はこれを機に「2季」にした方がいいんじゃ無いのか?
 堺くんはダウンを着込んでいる。高い身長も相まって、まるで某グルメガイドブックのキャラクターのようだ。対して俺は、薄いパーカーを羽織っているくらい。俺を見て、堺くんは大袈裟に驚いた。

「安達、めっちゃ薄い服着てるやん。さむないの?」
「服無いからしゃあないねん。急に寒なったから。週末にでも買いに行ってくるわ」

 彼は眉を少し寄せると、「ちょお待って」と言い、自宅に消えていった。しばらくして帰ってきた堺くんは、黒のコートを持っていた。

「安達、これ着てええで」
「うわ、ええの堺くん、ごめんありがとう」
「ええねんで、じゃあ行こか」
 恋人のさりげない優しさが、シンプルにうれしい。世の人間たちに、どうや俺の恋人はこんなにかっこええし優しいんやぞ、と声高に主張したいくらいだ。コートは一回り大きくて、でもそれが暖かかった。
 2人で連れ立って学校へ向かう。水曜はどっちも1限がある。だから一緒に学校に行ける。昔はカップルを見ると眉を顰め、リア充爆発しろ!氏ね!と壁を殴っていた俺であったが、自分がいざそうなると、世界の全てに優しくなれる気分だ。今度スレ立てして非リア共を嘲笑おう。
 そんなことを考えている間にも、堺くんは俺に創作の話を話してくる。正直昨日もほぼ同じ内容を聞いているので、俺はうんうんと相槌を打つマシーンになっていた。
 木枯らしがぴゅう、と吹く。信号が赤だ。俺たちは枯れ葉の上で足を止める。

「安達、俺たちが入学して、もう結構経ったんやな」
「せやな、早いな」
「…さむいなあ」
 堺くんはなぜかそわそわしている。見かねた俺は、無言で彼の手の甲に指を押し付けた。指を絡めると、彼の手のひらは冷え切っていた。

「堺くん、手のひらつめたすぎな。ほんまに生きとる?」
「生きとるよぉ」
 幸せです、というふうにまなじりを緩める。その表情が大好きだった。俺もきっとだらしない顔をしているのだろう。似たような感じの。

「あ!安達じゃん!おい安達ぃ!お前テストの範囲嘘つきやがったな。って…ん?」

 聞き慣れた声が聞こえ振り向くと、案の定、同級生の泉だった。にやにやしながら近づいてくる。もちろん俺と堺くんの交際を知っている彼女は、俺たちをイジることが大好きだった。

「ごめんごめん、2人の邪魔しちゃったかな」
「いや、全然そんなことないで!おはよう那帆ちゃん」
「全然そんなことあったわ。俺と堺くんの邪魔せんといてくれます?空気読め」
「はあ~?てめえ、私のおかげでくっつけたのによくそんなこと言えるな」
 
 いつもの会話をしていると、寒さも薄れるようだった。足取りは軽い。落ち葉を鳴らしながら、3人で歩き出す。いい1日になるだろう。そんな予感がした。

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