図書委員

 本当は図書委員の仕事なんてしたくなかった。でも、ジャンケンで負けちゃったから、仕方ない。

 私と安達くんは放課後、本を借りに来た子のバーコードを読み取る仕事をした。
 1年生は小学校から上がったばかりで、小さいしかわいい。2年生は同級生だから嫌い。3年生には嫌な先輩がいる。できるだけ何も感じないように、バーコードのしましまだけを見た。
 図書室からは、トランペットの音がわずかしか聞こえない。行きたい、早く。だけど、委員の仕事はまだ終わってない。私は、楽譜を眺める。
 
 隣をのぞく。安達くんは、クラスの中でも目立たない子だ。私もしゃべったことがほとんどない。この際話しかけてみようか。
「なあ、安達くん」
「図書室では静かにしいひんとあかんねんで」
間髪入れずに返される。その間も安達くんはラノベに夢中だ。何やねん。人が話してあげようとしたのに。私はちょっと腹が立って、また楽譜を見る作業に戻った。

 それからちょっと経って、見知った顔が現れた。ニキビが目立つ背の高いあの子は、堺くんだ。彼はにっこりと笑って、小さな本を差し出した。
「お願いします」
「はい、読み取ります」
私はリーダーを向けて、音を鳴らした。読み取ったのに、彼はまだ去らない。にこにことした顔のまま、安達くんの前の机を爪で鳴らした。安達くんは、ばっと顔を上げる。
「なんや、堺くんか」
「仕事がんばってんな」
「ほぼやることない。今日は卓球部休み?」
「うん、せやねん。雨やからな。神器転生が新しく入ったって聞いたから、来たよ」
テンポ良く会話が進む。ああそうだ、2人は仲良かったんだなと思い出した。
 堺くんの笑顔につられるように、安達くんもまた、口元に笑みを浮かべる。ちょっとドキッとした。
 今まで安達くん、ムスッとした顔しか見たことなかったけど、そんな顔もできるんや。これがギャップ萌えってやつ?
「安達、いつ仕事終わんの?一緒に帰ろ」
「うん。…あ、もう終わりや。」
安達くんが言うタイミングで私は立ち上がる。今日の部活は、全体での合わせがあるのだ。急いで靴を履いて、廊下を駆け出した。

 音楽教室に入ると、もう合わせが始まるところだった。私は自分の位置に座り、手早く準備をする。その間にも部長が、指示を出しているところだった。カバンの中から楽譜をひっつかもうとして、ハッとする。楽譜がない。どうしよう。私は焦った。きっと、図書室に置いてきちゃったんだ。もう図書室は閉まってるから、鍵を取りに行ったら間に合わない。先輩にも怒られる。私の頭はぐるぐる回った。

 その時、ガラガラ、と音楽教室のドアが開けられた。
「すみません。濱村さんいますか」
よく通る声。私は立ち上がる。振り向くと、堺くんがにっこりと笑っていた。
「忘れてたで」
彼はそう言うと、ピンク色のクリアファイルを私に渡した。助かった…私は堺くんの手を握って、礼を言った。部長が、早く戻って来い、という目で私を見ていた。

「自分で届けたらええのに、安達」
「俺には、怖い吹奏楽部に1人で突っ込む自信ないねん」
「ふふ、ちゃんと言っといたで。安達が部屋閉める時気づいたって」
「余計なこと言わんでええよ…それより堺くん、小説は進んだん」
「ああ、せや!1人目のヒロインが出るとこまでは…」

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