見出し画像

非凡な貝貨 note創作大賞応募作品 第二話

 あれは赤子を手に途方に暮れていたときのことでした。ちょうど従姉妹セナとその息子の訃報を耳にして怒りに打ち震えていたのです。おのれ信長。そして元康いえ家康でしたっけ?
 さて、この子はどうしたものか。いっそ川に捨ててしまおうか? そこに一人の女が現れてもし差し支えなければその赤子こちらでお引き取りいたしましょういえ是非譲ってくださいませと迫ってくるではありませんか、そうなると逆に惜しくなりただではお渡しできませんと答えたくなるのが親心。でも相手も強気で決して悪いようににはなりませんからと金子を押しつけ立ち連れ去ろうとします。
「さ参りましょう長丸様、」
耳を疑いました。なんとわが子があの元康いえ家康の子の身代わりに使われようとは。お待ちください、その子を影武者になさるおつもりですかと問えば相手はばつがわるそうに首を横に振ったのです。いえ若様ご本人になっていただきます。私の不注意から行方知れずとなってしまいまして。幸い西郷局様は目があまり良くないのです。呆れていると侍女は逃げるようにその場を去ったのでした、わが子を抱えて。このあと実家と婚家が立て続けにあの男の手に落ちようとはまだ知る由もなかったのですが。(1579年頃)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?