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ガラスの手 ②

 ガラスの手のあとに気がついたのは、最後の豪雨からかなりたってからだ。横殴りの雨粒にまじってビチャリと「何か」の手形が押しつけられてそのまま乾いたに違いない。
 こんなときは決まって頭のなかて母の声が響く。あきれた人ね。早く掃除しなさいよ。どうせまた降るからですって? 誰に似たのかしら。雨のなか締め出された開けて開けての叫びが雨足にかき消されて行ったあの日なのか? 違う。この手の跡は内側からついたものだ。小さくて無自覚なよだれまじりの指のあとが外側の手形とぴたりと重なっている。
 その後でまた遊びに来たうまくしゃべれないはずの幼な子が何ごとか叫んでいる。私の耳にだけは聞こえた。アキレタヒトネ、と。

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