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白い靴 ①

 白い靴の絵だ。赤い靴でもガラスの靴でもない。この絵を見て何か話をしてみてください。いったい何だ、心理テストでも受けているのか私は。白い靴の形を強く念じると、隣にいた人が何かイラストを描き始める。テレパシーの実験だろうか。
 問題はここが不動産屋だということ。中古住宅をリフォームして住むことを検討中の顧客が営業マンの私に話しかけているのだ。もしも現場で白い靴を履いていたらどうなるのか知りたいとでも? そりゃあ長年人が住んでいないわけだから、白い靴下も黒っぽくなるでしょうね。大丈夫ですよ専門のクリーンスタッフに念入りに掃除をさせますから。そのとき隣にいた別の営業マンが答えた。
「うーんどうかな。確かに黒は見たことがある何度か」
「赤もですか」
「たぶん」
すると所長が断定的に言葉をはさむ。
「仮にですよ、いくらかあったとしても、ちゃんと薬を撒いてありますから。ご安心ください」顧客は笑った。
「白いくつ、ってシロアリの話ではアリませんよ。こんなぼろい商売していれば城幾つも建つでしょうな」
 彼はかつてこの所長に会社の土台を食い潰された元社長だった。

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小牧幸助様のお題に参加しています。

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