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柔軟剤ってやつぁ

柔軟剤という奴には、いつも騙される。


僕は24歳の男だ。人並みにもてたい。

というかめちゃくちゃモテたい。

「好きな人に好きになって欲しい」なんてカッコつけたりするけど。

モテる簡単な手段は何だろう。

洋服?いや、洋服はカッコいいなと思うけど「好き」にはならない。「整形」?そんなお金はない。

ならば香りだ。いい匂いのする人は、なぜか好きになる。本能レベルで。

よし、いい匂いをさせよう。


そんな僕に、柔軟剤ってやつは微笑みかけてくる。「俺がいるぜ」ささやかれ、液体をどっぷり入れて洗濯機を回す。


僕にとって、柔軟剤というってやつは、いうなればめちゃめちゃモテるけど彼女をあんまり大切にしないアイツみたいな感じだ。


彼女側の視点から見てみよう。


柔らかそうな、包んでくれそうな雰囲気。とってもいい匂いがする。いつでも笑顔で、些細なことだが、癒しをくれる。

だから恋をしてしまった。

こちとら、愛想笑いでHPも削られて、部長の圧も友達の結婚も嫌になる。たまのパンケーキが癒しだけど、正直タピオカはそうでもない。洗濯ものたまりまくった部屋だけど、ごみ出しも忘れちゃったけど、まあいいや、眠いから寝よう。また休みが終わった。

そんな時、いつもの帰宅の道すがら、彼と出会った。

出会いはふとしたことだった。いつの間にか一緒にいるようになった。

枯れた女だと思っていた私になんで優しいの?そう頭によぎったから

絶対みんなにそんな風にしてるでしょと問うた。

彼はまさかと笑う。

さらさらマッシュの危険なやつ。

そのくせ雨の日も、嫌な思いをしないように、傘をさしてくれる。濡れて帰ったら、柔らかな肌で、寒くない?(イケボ)と抱きしめてくれる。

優しくて、頼りになって、イケメンで、最強。

・・・好き。




Fu※K!!!

柔軟剤君、嫌いだぁ。でも好きだあ。モテるなあ、絶対。何がイタリアンバル→おしゃれBAR→ホゥテェルゥの流れだあ。何が寒くない?だっ!!!!

敵だ、敵だよ。。。

自分で作りだした妄想に中指を突き立ててしまった。

対抗してやる。俺んちにあるいい匂い。。。


君が柔軟剤なら僕は、っつ、かっ、蚊取り線香だッ!


。。。勝てる気がしない。

蚊取り線香好きな女性は一定数いるだろうが、

そもそも蚊取り線香の匂い好き~とか言ってる女子は絶対イメージ先行で好きと言ってるだけだ。蚊取り線香を焚いた部屋で、ずっと過ごしてみろ。服に匂いもつくし、煙い。

「夏」な雰囲気が好きなだけだろう。ずっと思い出に浸ってやがれ。


他にうちにあるいい匂いはないだろうか、百貨店に売っていた芳香剤は、とてつもなく似合わない。

ネットで見つけたモテる香水も買ってみた。飛びついた。

「モテる」とか「フェロモン」とかの効果があると言われている香水だが、むしろ人が遠ざかった気がする。


ちくしょう、いい香りのもの、いい香りのもの。

石鹼だ!僕はよく手を洗うようになった。が効果なし。そりゃそうだ石鹼の香りなんて相当近づかないとわからない。そんなに近づける距離なら苦労しない。


だから僕は、柔軟剤を買う。

だっていい香りを振りまいてるのにいやらしくなくて、なんかモテそうだから。


柔軟剤売り場に行くと、いい香りの柔軟剤がたくさんある。通販サイトを見ると、自分が良い男になった気がする。だから私は、買うのだ。柔軟剤を。

いい香りをさせて、女性たちの間を闊歩するために、いつかうちに来るであろう女性にふわふわのタオルを手渡すために。


柔軟剤は手招きしている。

俺を使えば、良い男になれるよ。

女性と話す機会もなく。モテとは対極にいる自分は、その優しい手を握ってしまう。そう、あなただけです。私を勇気づけてくれるのは。

だから僕も


好き・・・。


と呟いてしまう。


スーパーの柔軟剤売り場に行くと、通販サイトを見ると、たくさんの柔軟剤が「なれるいい男像」を大プレゼンしている。

私はその一つに手を伸ばす。

早く洗濯がしたくてたまらない。


必要でもない洗濯をして、Tシャツ以外にもシーツもカーテンも洗う。

完璧に整えた状態。気分は先述のさらさらマッシュの柔軟剤くんだ。


職場に行く、町を歩く。なにも起こらない。

さらに歩く。なにも起こらない。

わざと横切る。白い眼をされる。。。


モテないじゃないか!と目をひん剥いて抗議する。

君はいう。

柔軟剤「え?ぼくはモテるなんて一言も言ってないよ?」

私「え?でも・・・優しくしてくれたじゃん」

柔軟剤「みんなにもそうしてる。勘違いだね。」


がっくりと膝をつく、家に帰ると、そこら中から彼の香りがする。

もうだまされない。と硬く決意をする。



それから私は、ダイエットをする。優しい言葉遣いを心がける。

表情を柔らかくする。どれも続かないし、モテる確証もない。

いいや、1人で生きていく。

と、決意するも、しばらくしてやっぱり寂しいと感じる。

誰かに愛されたい。という想いが強くなる。


愛されるためには?洋服?いや、洋服はカッコいいなと思うけど「好き」にはならない。「整形」?そんなお金はない。ならば香りだ。いい匂いのする人は、なぜか本能レベルで好きになってる。

そんな僕に奴はは微笑みかけてくる。「俺がいるぜ」ささやかれ、僕は言われるがまま液体をどっぷり入れて洗濯機を・・・


2021 0524




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