見出し画像

いつからインハウスの方を「有資格」って言うようになったのだろう

素朴な疑問と当たり前の答え

いつからインハウスの方を「有資格」って言うようになったのだろう。そして、そうでない人を「無資格」って区分するようになったのだろう。ボクには、この言い方が理解できない。
いやあの、「納得できない」とか「腑に落ちない」とかそういう偉そうなことではなくって、純粋に理解できないんだ。

迷ったとき、ボクは、誰かに聞く前に、必ず法律の条文に聞きに行く。
そこで、今回は弁護士法に聞きに行く。

司法修習生の修習を終えた者は、弁護士となる資格を有する。
(弁護士法4条)

やっぱりそうだよね。
ここに書いてあった。資格っていうのは司法修習を終了することなので、いわゆる法曹であること。これが資格。

資格でないならば、じゃあなんだろ。裁判官は?検察官は?資格じゃないよな。そう職業だ。法曹資格者だけが就ける職業だ。弁護士もそうだ。
弁護士は、資格ではなく、職業だ。

それじゃ、ボクのような法務担当者は何なんだろ。
これは考えるまでもない。ボクは会社員だ。企業法務というのは会社の業務のひとつなのだから、それをやってる。20年前は営業マン、10年前は企画マン、んで今は法務マンだ。これができるための資格は、ボクがこの会社に雇用される会社員であること。ただそれだけだ。もちろん、会社員は職業なのだから、ボクの仕事も職業だ。バカみたいに当たり前なことだけど、いちおうもういっかい。
会社員は、資格ではなく、職業だ。

そしてもひとつ呆れるくらい当たり前のことを言っちゃいます。
弁護士と、会社員は、別の職業だ。

法務担当者に必要なこと

もちろん法務担当者には、法律の素養やリーガルマインドが不可欠だ。これがなければみんなから相談されることの交通整理ができないし、外部弁護士との適時適切なコミュニケーションができないし、かみ砕いて社長に説明することだってできない。そんなのみんなのサポートができない名ばかりのポンコツ法務だ。

だからボクは、司法試験予備校の通信講座で法律基本7科目の基礎をしっかり受講した。基礎論文ゼミや答練で、アプトプットのいろはも学んだ。でもそれだけでは、ビジネスにはまるっきり役に立たないので、ビジネス実務法務検定試験®の1級をゲットして、ビジネスに則した法的思考と論述力を身に着けた。

でも、いずれも資格なんかじゃない。法務を担当する会社員としてのスキルアップだ。おかげでボクはスムーズに日々の企業法務の仕事をこなしていくことができる。

大きなお世話

一方で、インハウスの方々は、弁護士という職業と会社員という職業を2つやっていることになるわけだよな。つまり、インハウスの方は複業だ。

大きなお世話だけど、ちゃんと両立されているのかな。弁護士の職務ってすんごい重いよな。会社員の傍らで実現可能なのかしら。

弁護士は、当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱によつて、訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事務を行うことを職務とする。
(弁護士法3条)
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
(弁護士法72条)

そうだよね。これが弁護士の職務であり独占業務だ。
報酬を得て、誰かのために、法律事件に関して、法律事務を行う職業だ。
ほんっっとこれは絶対素人にはできない。他の職業従事者が侵してはならない絶対的な領域だ。だから、究極の専門家試験に合格し、修習を経ないとこの職業を営むことは許されないのだ。非弁ダメゼッタイ。

でも、我が国は、国民性なのか、お上の締め付けのおかげなのか、企業実務ではあんまり紛争が起きない。だから、会社の法務の仕事って、会社員でできること、つまり弁護士でなくてもできる仕事が九分九厘を占めるのが実情だ。

それに、うちの会社みたいに、訴訟をインハウスの人に委任して進めるのが通常で、しかも副業OKで個人受任もできる風土の会社ならば、二つの職業を両立できているとは思うけど、いまだに「訴訟は外部弁護士!」それで「副業も禁止!」っていう会社もあるよな。大手企業は特に。大手は、上層部がすんごいじーちゃんだから、柔軟な発想の切り替えができない。

そういう会社のインハウスの方々は、日々の社内業務と就業規則に縛られて、せっかく弁護士会に登録して弁護士を名乗れるのに、実際は会社員専業みたいになっちゃってないのかな。そして悩んだりしてないのかな。

「このバッチ何のためにあるのかな」
「っていうか実際には会社のバッチしてるよな」
「・・・いやそれでも安定が得られるから大手企業かなあ」

うーん「安定」とかって言っちゃったら、完全にサラリーマンになり切っちゃってるもんな。
もちろん、訴訟をどの先生に委任するとかは会社の都合だし、副業禁止は会社の就業規則なのだから、会社がそうさせてしまっているんじゃないかってこと。

それに、修習終えたばかりの人って、法律基本7科目(+選択科目)についての広~く深~い知識と、短時間で論文を書き上げる能力(含む腕力)はお墨付きだけど、ビジネスには必ずしも詳しくなくって、それゆえ当然にビジネス法務には強くないので、会社に入ってから、みんな一生懸命勉強してる。

でも、その一方で、営業あがりのふつーの若いやつが、それこそビジ法1級に向けて猛勉強して、うっかり仕上がっちゃったりする。

いちばん言いたいこと

そうなんだよ。よくインハウスの先駆けとして活躍していた弁護士さんが「インハウスの利点」を挙げておられたりするけど、じつは、どれもこれも法律的素養やリーガルマインドに依拠することばかり。だから、いずれも社会人としての基礎のある会社員がしっかりと正しい学習と実践をすれば身についちゃうんだよな。あくまでも資格じゃないの。必要なのは素養とマインドなの。法務担当者の資質は、資格によって担保されるものじゃないと思う。

そうすると、両者の間で、もうあんまり差がなくなっちゃう。もちろんそれだけではだめ。さらに必要なのは、リスクを抽出し、見極め、わかりやすくして、目の前の業務に当てはめ、主体的に課題を解決する能力なのだけど、それは法務の仕事をするうえで、すべての担当者に求められること。弁護士かそうでないかは全然関係ない、たんなる実務遂行能力だ。

そうなってきちゃうと、みんな同じ土俵で勝負できるので、だんだん、評価の平等性の問題が出てきたりとか、「なんでこの人にだけ会費の肩代わりとかいって毎年ウン十万もコスト払っているんだっけ?」みたいな不満につながりかねない。いまこそ、原点に帰ることが大切なような気がする。

会社よ、原点に帰ろう

会社員は会社員の仕事をやるうえで、スキルを磨くべしだ。だから、異動して法務担当になったら、ビジネス法務の素養とマインドを身に着けろってことだ。そして社員でできる法務関連実務は、全部やれってことだ。
人手が足りない?業務負荷が集中するって?
リーガルテックがあるじゃん。早くセミナーに行っておいで。

そして弁護士さんが、報酬を得て、誰かのために、法律事件に関して、法律事務を行う使命を果たせるような環境整備をすべきだ。会社を出たら、困っている人はたくさんいる。弁護士のいるところに非弁なし。

会社は、インハウスの方々のバッチを曇らせてはいけない。弁護士業を堂々と営めるようにすべきだ。

まず会社の訴訟はインハウスの方にどんどん委ねるべきだ。会社員である前に弁護士さんなんだから、弁護士業を営んでいただかないと。会社にいることで、弁護士業の経験を積めるような土壌にしないと。

そして、仮に原則は副業NGであったとしても、インハウスに方には副業を認めるべきだ。そして通常の社員と同じ給与で、積極的に時短勤務や柔軟勤務を適用し、会社以外の訴訟の受任や弁護士会での活動をしてもらうべきだ。
そうすることで、法律家としての腕を磨いていただき、最新の情報を還元していただき、ひいては会社業務とのシナジーが生まれる。

だからこそ、会社が会費を負担することに合理性があるんでしょ。

ん?利益相反だって?どなたに対して言ってるの?
それがコントロールできる職業こそが弁護士業なのだから、会社員が心配することじゃないよ。

以上は架空人物・法務三朗の長ーいツイート(3426文字)です(笑)