ちょっと悲しかった話

仕事をしていて、ちょっと悲しいな、と思うことがある。それは、「本って割と簡単につくれる」と思っている人たちが意外といることだ。誰かの話をまとめるだけなんだから簡単じゃない? と思っているのだろうな。実際、正味30分くらい話を聞いただけで、「あれだけ話をしたんだから、本になるでしょ?」と言われたことも。はたまた、山のような資料をどさっと渡されて、「私の言いたいことはすべてこの中に書かれていますから(これを見れば書けるでしょ)」と言われたことも。いや、それはちょっと無理です。。

本って、自分で原稿を書く方ももちろんたくさんいらっしゃるけれど、「文章書くのが苦手」とおっしゃる方も多い。書けるけれど、本業に忙しくて書く時間がない、という場合もある。そういう場合にライターの出番となる。

誰かに書いてもらうから楽、と思うかもしれないけれど、まずはアウトプットしてもらわないことには書くことができない。頭の中をのぞけたらいいのにな~、と思うこともしばしば。でもそれは土台無理な話なので、インタビューをさせてもらう。本にするには、トータルでだいたい10時間前後の話を聞くことが多い(個人差があると思うけれど)。その前に、構成案を考え、話をしていただく項目を決めておく。インタビューでは、話がそれることも多い。でも、往々にしてそういうほうがおもしろい話だったりするので、そのあたりは臨機応変に、流れに任せて話を聞く。

その音源を専門の業者さんに依頼し、「テープ起こし」してもらう。いわゆる対話形式でしゃべったことをそのまま文字にしてもらうのだ。それを見て、構成案をもとに文章を興し、1冊の本に足る原稿を作成する。これが大まかなライターの仕事だ。

ところで、人の話というのはあちらこちらに飛ぶことが多い。自分のことを振り返ってみても、Aという話をしているうちにBのことを思いついて話し出し、Bの前段のCという話にまで及んだところでハッと気づき、Aの話題に戻る、なんてこともしばしばある。それがテープ起こしのテキストにも反映されるので、まずはAの話題がどこに散らばっているのか? を集める作業を行なっていく。文章を興す前にやること。実に地道で根気のいる作業だ。でも、ここがキモとなることも多い。

そのあたりの作業はひとりでこもってやることが多いから、あまり知られていないだろう。「家でできるからいいですね」と言われることも多い。たしかに、家ではできるけれど。でも、集中してまとまった時間がないと正直難しい。片手間ではとてもできない。家でできる=楽では決してない。まあ、好きだからこそできる仕事だけどね。

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