黒柴的パンセ #19

黒柴が経験した中小ソフトハウスでの出来事 #9

ここでは、中小ソフトハウスで勤務していく中で、起こったこと、その時何を考え、また今は何を考えているかを述べていく

「困っている人を助ければ、後で見返りがあるから」
これは、パンセ#18で取り上げた自社のセクションマネージャDの言葉である

この発言は、自社の営業担当が、伝手があったSIerからやや素性の良くない案件を情報をもらってきたことから始まった
SIerは、この案件について要件定義を行った後、設計~製造~テストを請負開発として、ソフトハウスに委託しようと考えていた
しかし、要件定義の内容や粒度、開発規模やスケジュールなどから、SIerと取引がある主要なソフトハウスは皆手を上げなかった

SIer側の担当者も困ってしまい、SIerの別部署で自社と取引のあった方から自社を紹介されたとのことだった
黒柴は当時、この案件の受注を打診されたグループのマネージャで、上記のように要件定義の粒度が粗いことや、グループ内で適切なリーダーをアサインできないところから、断るつもりだった
しかし、黒柴の上長であるセクションマネージャDから「困っている人を助ければ、後で見返りがあるから」という言葉とともに、この案件の受注を半ば強制された

結果として、このプロジェクトも盛大にトラブルとなった
一番大きな原因は、スコープ外と考える要件について「これもスコープに含まれる」、「これがないと業務ができない」とエンドユーザにゴリ押しされ、SIerの要件定義が粗かったこともあり、無理やりスコープを拡大させられたことである
拡大した要件については、当然SIerが整理した要件定義もなく、かといって開発フェーズが設計工程だったため、要件を確認しつつ設計を行うような形になり、どんどんグダグダになっていった

黒柴は、このようなトラブルが想定される、または既にトラブルとなっている案件に参画するのは、基本的に反対である
これは、以下の理由からである

  • トラブルプロジェクトは、高稼働になりがちで、それを嫌ったメンバーの離職につながること

  • トラブルプロジェクトに参画したことは、会社の評価についてプラスにならず、むしろマイナスになること

2番目の会社の評価がマイナスになることは、このプロジェクト内を遂行する中で経験した
トラブル後、プロジェクトの収拾に集中したいSIerが、付随するデータ移行作業を切り離したくて、自社にエンドユーザと直接契約してデータ移行作業をしてくれないか、と言い出した
これについても、「データ移行ができないと、本体プロジェクトのリリースもできないから」と、もっともらしい理由で押し切られて、自社の営業担当は結局受注してしまった
データ移行作業は黒柴がリーダーとなって、エンドユーザ側のリーダーと何回か打ち合わせをした中で、当初見積もりより工数が増えることが分かったことから、作業費の追加は出来るかという打診を行った
エンドユーザ側のリーダーからは、
「黒柴さんと話をして、黒柴さんの会社はきちんと仕事ができる会社ということが理解できた
しかし、決裁権限を持っている自分の上長は、このプロジェクトのトラブルは、SIer、およびその下で作業している黒柴さんの会社の力不足と考えているので、稟議を出しても決裁が通らない」
と言われてしまった
つまり、プロジェクトを外から見ている人(往々にしてそういう人が決裁権限を持っている)からすると、トラブルが発生したプロジェクトの関係者は、すべて問題があるのでは?と評価されてしまうのだ

だから、「後で見返りがあるから」といっても、詳細を把握している現場担当者は、トラブルの責任から以降の主流からは外れてしまうため、決裁権限を持つポジションに着くことはほぼない
このプロジェクトのSIer側の担当者も、稟議を上げる立場で決裁権限を持っている人ではなかった
しかも、決裁権限を持っている人からは、作業内容の詳細を評価されることなく、「あのプロジェクトにかかわっていたから、たぶん原因の一因なので、評価できない」と、一緒くたにマイナス評価されてしまう
結局、社員の大量離職を招くデメリットはあっても、現状、または近い将来に「見返り」というメリットはないと考える

このあとマネージャDに、「分かる形でメリット(見返り)があった案件は過去にあったのか?」と質問してみたが、明確な回答はなかった
ここでも、「情けは人の為ならず」という建前論だけを振りかざす人なんだな、と思った
諸兄らの周囲でも、やたら建前論だけに終始する人は居ないだろうか?

補足:
この件は、「あえて火中の栗を拾う必要はない」ということである
当然このとだが、自分たちがトラブルの主たる原因となっている場合は、誠心誠意その解決に従事する必要がある

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