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新しい文化の担い手/なみちえ「毎日来日」

いろいろ状況が変わるなかで、noteを更新するの忘れてた。

3月から4月にかけて、コロナウィルスの感染拡大で社会全体が大きく変化して、その中で書き留めておきたいこと、考えたいことがすごくあって、普段から僕がやっていることを忘れてた。

すごく印象に残った作品が沢山あって、それについてもちゃんと書き記しておきたい。

その中の一つが、なみちえの『毎日来日』。4月15日発売の『MUSICA』でアルバムについてのレビューも書きました。


2020年のAPPLE VINEGAR Music Awardでも、大賞のROTH BART BARON 『けものたちの名前』に続き、東郷清丸『Q曲』、Daichi Yamamoto『Andless』と並んで特別賞を受賞していました。

たぶん、なみちえの名前を知ったのは「Y〇Uは何しに日本へ? feat. まな」がきっかけだったと思う。ツイッターのタイムラインだったかな。

日本に訪れた外国人をフィーチャーするTV番組を題材にしたこの曲。そこには肌の色から差別と偏見にさらされ、ステレオタイプを押し付けられてきた当事者としての言葉が、強く、かつユーモラスに刻み込まれていた。

youは何しに日本へ?
さっさと俺の前から引っ込んで
what do you think tell me that seriously
ちゃんと言いたいこと言うHIP HOPで

その曲を収録した11曲入りのアルバムが『毎日来日』。全曲を聴いて、僕がすごく感じいったのは、そこで綴られる言葉の聡明さだった。

たとえば電車の中の情景描写から始まる“私の脳内”。

都心に向かう電車は横浜を過ぎると混み始めた。
私の近くにゆっくりと座ったお婆さんの両手には
大事そうに白杖が握られていた。
次に急いで乗り込んできた若者は
背負ったまんまのリュックに挟んだスケートボードを
そのおばあさんにぶつけそうになった。
本当に何かが見えていないのはどっちなのだろう

音楽やダンスの本質を綴る“横浜ニュルンベルク”もいい。

いつからかダンスは習うものになっていて
「やめたの?」って友達に聞かれた時
「やめてないよ」ってその場で体を揺らし、
踊りながら言った事を忘れない。

トラップのビートに乗せた「おまえをにがす」も、シンプルに格好いい。

それだけじゃなく、ちゃんとヒップホップのリテラシーのある人がこの曲を聴けば「おまえをにがす」という言葉に、もう一つの「聴こえ方」があることがわかる。

かつ、ミュージックビデオではペットのミシシッピアカミミガメを川に逃がすという映像になっていて、しかもミシシッピアカミミガメが「特定外来生物」に指定されているということも踏まえて考えると、二重、三重に深い曲になっている。

ラップしている内容にナラティブとしての必然があって、かつ、それが音楽として躍動している。

そういう意味で最も耳が惹きつけられるのが、数字と韻を踏みながら独白する自身の声だけで構成されたアカペラのラストトラック“あ1”だった。

走って逃げようとしたって自分という肉体は絶対に離れないし
何が客観的に見てみろだよっていつも思うし。
だから結局まだ一番執着するのは自分になってしまうよ
100
核は自分に

体から言葉が離れてって、誰かの耳に入るから価値ができて、
私の第六感いや第七、八感あたりはそういう価値とか
ビシビシ感じてしまうのがクセ
77
頑なな意志があってどこかでもう、やめようかな〜 とか思うけど
ふわふわしてる人がずっとふわふわしてるみたいに、
どうやらこれが自分らしい。

1997年、茅ヶ崎市生まれ・在住。音楽と並行して着ぐるみなどの立体造形を展開し、東京藝術大学先端芸術表現科を今年首席卒業予定。デザイナーの兄NASA、ダンサーの妹MANAと「TAMURA KING」としても活動。

現代ビジネスには、自身の来歴と表現活動に向かった理由を執筆した記事が掲載されている。

肌の色やスタイル、どんな人でも美しい! そういうのは承知だしそれが無言で通ずることが大前提の世界に早くなってくれたら。それで次に、精神性・佇まい・エネルギーの指向性、感情の整理とかに人々が時間を費やせたらよっぽど、「メディアの操作」など必要なしに心身共に平和が訪れると思っている。世界に問題が一切なくなる、という時代は来なくとも悩むべき事象の質を上げることはできると思うのだ。

根本に怒りと異議申し立てがあって、それがアートに昇華されている。本当に新世代の才能だと思う。

文章の中に、家入一真さんの書いた『世界が変わる時、変えるのは僕らの世代でありたい。』のことが出てくる。

たぶん、2020年を境目に、世界は変わる。というか、これで変わらなかったらウソだろうと思う。

みんなは会話のなかで当たり前に「コロナが落ち着いたら〜」って言うけれど、感染拡大が収束した後に戻ってくるのは「これまでの日常」ではない。ニュー・ノーマル、つまり「新しい日常」だ。

そうやってニュー・ノーマルが訪れるときに、過去の価値観の何を捨てていくのか。変えずに持っておきたいものは何か。それを取捨選択する時間が今だ。

「世界が変わる時、変えるのは僕らの世代でありたい」

そういう意図を、なみちえの作品には感じる。

そして同日にリリースされたMoment Joonの『Passport & Garcon』にも。これも本当に2020年を代表する傑作だと思うので、これについては改めて書きたい。

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