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世界観という言葉について


noteでこういうことを書くのは実験的なのだけれど、引っかかっている事柄について、書き記しておこう。

「世界観」という言葉について。僕がまず思い浮かぶのはクリープハイプの尾崎世界観の名前なのだけれど、もちろん彼が名乗る以前から、ある種のマジックワードとして日本語圏に敷衍している。

――ライブを見た人に「世界観がいいね」と言われたことで、「曖昧な言葉でなくもっとちゃんとした言葉で言ってほしい」という思いもあり、そう言われないように「世界観」と名乗るようになったそうですが、その後、効果はありましたか。
そうですね。なかなか言ってこないし、こういうインタビューでも、聞き手の方が「世界観」っていう言葉を使った時に「あっ」って顔をしますね。僕は「3回までですよ。3回以上言ったら退室になりますよ」って冗談で言ってるんですけど(笑い)。

https://mantan-web.jp/article/20160327dog00m200030000c.html

上の引用にあるとおり「世界観」という言葉を、なんとなく使っている人は多いと思う。「作風」とか「雰囲気」とか「物語性」とか、そういう言葉と互換できるものとしてイメージしているというか。

一方、『文豪とアルケミスト』を手掛けたイシイジロウ、『刀剣乱舞-ONLINE-』を手掛けた芝村裕吏というゲームクリエイターが「世界観」という言葉の由来を語り合う対談も、とてもおもしろかった。

彼らの証言でも、「世界観」というのは00年代になって使われるようになった言葉らしい。尾崎世界観がライブハウスで「世界観がいいね」と言われるようになったのと同時代だ。

芝村氏:いやあ、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』【※】からTRPGをずっとやってますけど、「世界観」なんて言葉が出てきたのは本当に突然でしたよ。
――あれ、そうなんですか。てっきり芝村さんのような、TRPGの人たちが使い出したんじゃないかと思っていたんですが……。
イシイ氏: もともとは哲学用語でしょう。割と最近になって、急に物語の世界に入ってきたものですよ。映画業界の50代の人に聞いてみたんですが、昔は世界観という言葉を使ってなかったそうです。当時は「設定」という言葉が一般的だと言ってました。だって、僕は『428 〜封鎖された渋谷で〜』【※】で映画スタッフの方たちに「どんな世界観なんですか!?」と聞かれて、むしろこっちが「え……」ってなってましたから(笑)。
――時期的にはいつ頃から使われているイメージなんですか?
イシイ氏: 確か、2000年代に入ってからは、みんなすごく言うようになりました。ただ、ゲームが普及した時代になってから、監督やシナリオライターがこの言葉を使い出したのはあると思うんです。だから、ゲームからの逆輸入なんじゃないかと、話していましたね。
――芝村さん的には、「世界観」は当時の新世代のオタクや映画業界のような人たちが発見した「便利ワード」という感じで、特に厳密な定義がある言葉ではないということですか?
芝村氏: んー、私自身は「監督によるモノの切り取り方」として使っています。
 でも一般的に使われている「世界観」という言葉は、だいぶモヤッとしていますよね。言葉が指す範囲がものすごく広い。もちろん、インタビューで「世界観について語ってください」と言われるときは、そういうモヤッとしたものについて語ってほしいときだと理解して、対応しています。

http://news.denfaminicogamer.jp/interview/genso-koryu

上記の対談は全編すごくおもしろいのだけれど、やはり異論があるとすれば、「世界観」という言葉が00年代になって一般に敷衍した背景には、ゲームもあるのかもしれないけれど、尾崎世界観がライブハウス界隈で言われていたような、ある種の「ロキノンクリシェ」のようなものも大きかったのではないか、と思う。

そして、上記で語られている通り「設定」と「世界観」を混同することが、「世界観」という言葉の意味をあいまいな、モヤッとしたものにしているように僕は思う。

僕の定義としては「世界観」は、芝村氏の言うように、あくまで「その人が世界をどう観ているか」を示す言葉だ。「世界観を表現する」というのは、その世界の設定(ファンタジーなのか、SFなのか、時代はいつなのか)ということを記述することではなく、作者が、もしくは登場人物が、自分のいる場所をどう捉え、どう認識しているのかということを示すものだと思っている。

ただ、「その人」というところには、表現者や登場人物だけでなく、企業やメディアや、いろんな主語が当てはめられる。たとえば「所詮、この世は金と女だ」というのも「世界観=世界をそういう風に観ている」例の一つ。男性週刊誌を読んでいると、基本的にそういう「世界観」で書かれているのがわかる。一方、女性ファッション誌にも「世界観」はある。赤文字系と青文字系が違うのはまさに「世界観」だ。後者を形容して「ガーリーな世界観」みたいによく言われるけれど、それは単にふわふわしたファッションとか色合いとか、そういうことじゃなくて、女の子が世界をどう観るか、という視点の違いだ。

そう考えていくと「世界観がいいね」とか「どんな世界観なんですか?」とか「作品の世界観について語ってください」みたいな言い方は、僕としては全部的を外しているように思えてしまう。

こないだ、某所で書いた僕の原稿で「物語性」という言葉が「世界観」に直されていて「物語性と世界観は全く逆の概念なんですよ」「世界観っていうのはその人が世界をどう観ているかということを示す言葉で、物語の設定とかじゃなくて、もっと心のやわらかい繊細な部分なんですよ」と力説したときに、ふとそのことを思い出した。


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