見出し画像

イヤホンズ「記憶」のコンセプトと仕掛けについて


イヤホンズ「記憶」がとてもよいです。

作詞・作曲は□□□の三浦康嗣。

イヤホンズは、高野麻里佳、高橋李依、長久友紀による声優ユニット。実はその名前は「あたしのなかのものがたり」で知りました。アルバム『SOME DREAMS』収録のこの曲も□□□の三浦康嗣が作詞作曲とプロデュースを手掛けていて、めちゃくちゃ画期的な一曲だった。

人生の分岐点に立つひとりの少女が「冒険の道」と「安定の道」という二つの道を選んだ未来の自分と対話する物語を描く一曲。

その歌声が”イヤホンズ”の名の通り左右とセンターにパキッと分離している。ちゃんと韻を踏んでラップしていたり、芝居っぽく喋ったりしている。ラップと朗読劇がシームレスに繋がっているという意味でも声優だからこそ可能な表現になっている。さらに、よく聴くと、それぞれの

「たびに でかけ であう めぐる あの ものがたり」(冒険の道)
「うまれ てから ずっと おなじ なの ものがたり」(安定の道)

という二つのフレーズが最後に合体して、「あたしのなかの ものがたり」になる。そういう仕掛けも含めて、すごく構造的な曲になっていた。

で、「記憶」も間違いなくその延長線上にある作品。三浦康嗣いわく、□□□『everyday is a symphony』を1曲に凝縮したとか。

『everyday is a symphony』は□□□にいとうせいこうが加入したタイミングでリリースされたアルバム。日常のいろんな音をフィールドレコーディングで録音、それをネタに楽曲を作るという手法で作られている。

「記憶」でも生活音や環境音がキーになっている。

15歳のときの、下駄の音、祭囃子、風鈴、花火。
5歳のときの、信号機、クラクション、エレベーター。
25歳のときの、コンロ、ラジオ、サックス、掃除機。

これらの生活音の断片がビートとして曲に組み込まれている。それがモチーフになっている人生の“記憶”を彩る。音による走馬灯のような聴き応えのある曲。

そして『everyday is a symphony』といえば、当然、柴幸男主宰の劇団「ままごと」の公演『わが星』とのリンクも指摘すべきだろう。

『わが星』の中では収録曲「00:00:00」の時報の音が分解、再構築されて使われている。セリフがリズムに乗ることでラップになる。それだけじゃなく、言葉を細部まで構成して構築することでリズムが生まれる。そのことを10年以上前にやっていたのがままごとだし、□□□だった。

「記憶」もそのあたりが上手くて、最初は「声優による朗読」っぽい言葉の発声から始まる。「夢を見た」から「下駄の音?」あたりがそう。でも「慣れない浴衣と下駄で縁日の境内」「ふわふわしてるのは きっとそれだけじゃない」から調子が変わる。言葉が譜割りに乗ればそれがフロウを生み出し、ラップになる。

そういう原理の部分も示されている。

いろんな意味で、彼のベストワークの一つなんじゃないかと思う。ラップミュージックと声優カルチャーの相性の良さも、□□□とままごとが10年前にやってた演劇とラップの融合もここに回収されてる。

てなわけで、ぜひ三浦康嗣×イヤホンズにはアルバム1枚分のコンセプチュアルな作品をやってほしいなと思ってます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?