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米津玄師は「パプリカ」で誰を応援しているのか。

米津玄師が書き下ろした新曲「パプリカ」がすごくいい。

https://www.youtube.com/watch?v=MFnpnDI3oQQ

何度か聴くうちにすっかりハマってしまった。

「<NHK>2020応援ソング」というNHKのプロジェクトに書き下ろした新曲で、作詞作曲編曲とプロデュースを米津玄師が担当、歌ってるのはFoorin(フーリン)という5人という小学生ユニット。

https://www.nhk.or.jp/tokyo2020/song/

キャッチコピーは「2020年とその先の未来に向かって頑張っているすべての人に贈る応援ソング」。その一報を聞いた第一印象は「米津玄師が応援ソング?」というものだった。彼の音楽を追ってる人なら、なんとなくこの感覚、わかるんじゃないかと思う。

でも、聴いてみたら、歌詞にも曲調にも、「頑張れ」とか「強くなれ」とか「さあ行こう」みたいに、わかりやすく誰かを応援する、誰かの背中を押すような表現は一つもなかった。

そこがすごくいい。

曲りくねり はしゃいだ道
青葉の森で駆け回る
遊び回り 日差しの町
誰かが呼んでいる

夏が来る 影が立つ あなたに会いたい
見つけたのは一番星
明日も晴れるかな

パプリカ 花が咲いたら
晴れた空に種をまこう
ハレルヤ 夢を描いたなら
心遊ばせ あなたにとどけ

歌詞に描かれているのは子供時代の情景。田舎の森や町並みではしゃいで遊び回り、「あなたに会いたい」と願う、そのときのピュアな楽しさや喜びの感情だけが切り取られている。

雨に燻り 月は陰り
木陰で泣いていたのは誰
一人一人 慰めるように
誰かが呼んでいる

喜びを数えたら あなたでいっぱい
帰り道を照らしたのは
思い出のかげぼうし

2番では、1番で歌われる「みんな」とは対照的に「一人」の情景。それでも「喜びを数えたら あなたでいっぱい」と、真っ直ぐな幸せが歌われている。

この歌詞の言葉はFoorinの5人が歌うからこそ成立するものなのだろう。ダンスバージョンのMVでは5人が元気いっぱいに踊る姿が映し出されていて、その楽しそうな雰囲気も曲の魅力の一つになっている。振り付けは辻本知彦と菅原小春。特に辻本知彦とは「LOSER」でダンスレッスンをして以来の付き合いなので、お互いにクリエイターとして尊敬し合う仲なのだと思う。

https://www.youtube.com/watch?v=T0valuAksuo

で、すごくいい曲だと思うのだけれど、この曲のどこがどういう風に「応援ソング」なのかは、ちょっと解説が必要だと思うのだ。

というのも、上に書いた通り、この曲は「他の誰かを応援する曲」ではないから。2020年に向けてのNHKのプロジェクトではあるけれど、アスリートをイメージさせるような描写も一つもない。そういう意味では、たとえばゆずの「栄光の架橋」とか安室奈美恵の「Hero」みたいな曲とは全然違う。

この「パプリカ」が誰をどう応援しているのか。それは、同じ米津玄師が菅田将暉を迎えて歌った「灰色と青」を聴くとわかる。

https://www.youtube.com/watch?v=gJX2iy6nhHc

この曲では、こんな歌詞が歌われる。

君は今もあの頃みたいにいるのだろうか
ひしゃげて曲がったあの自転車で走り回った
馬鹿ばかしい綱渡り 膝に滲んだ血
今はなんだかひどく虚しい

どれだけ背丈が変わろうとも
変わらない何かがありますように
くだらない面影に励まされ
今も歌う今も歌う今も歌う

また、この曲にはこんな歌詞もある。

君は今もあの頃みたいにいるのだろうか
靴を片方茂みに落として探し回った
「何があろうと僕らはきっと上手くいく」と
無邪気に笑えた 日々を憶えている

この曲は大人になった二人が、それぞれ子供時代を共に過ごした「君」とその記憶に思いを馳せるような一曲。ここでは「ひしゃげて曲がったあの自転車で走り回った」「靴を片方茂みに落として探し回った」と、過去へのノスタルジーが描かれている。

その描写は、「パプリカ」の「曲りくねり はしゃいだ道 青葉の森で駆け回る」という歌詞と、どこか通じ合うものがある。

そして「灰色と青」には、「くだらない面影に励まされ 今も歌う今も歌う今も歌う」という歌詞がある。

そう考えると、この「パプリカ」が誰をどう応援しているのかが、はっきりする。この曲は「他の誰かを応援し、背中を押す歌」ではない。「大人になり虚無に襲われたときに自分自身を励まし奮い立たせてくれる、幸せな子供時代の記憶の歌」だ。

そして、もう一つ。

「パプリカ」のサビでは「パプリカ 花が咲いたら 晴れた空に種をまこう」と歌っている。

そして「パプリカ」の花言葉は「君を忘れない」。

そういうところまで考えると、すごく深く美しい意味が込められていると思うのだ。


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a.k.a シバナテン。ライター/編集者/音楽ジャーナリスト。著書に『ヒットの崩壊』(講談社)『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)、共著に『渋谷音楽図鑑』(太田出版)。noteでは気になった曲や現象について書いていきます。

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コメント (1)
はじめまして。いいお話ありがとうございます。歌詞の花が咲いたら、種をまこうというのは、物理的、生物学的に矛盾しているように思ったのですが、考え様によっては、花というのは、子供や大人の心の成長、心の満たされる過程かなって思いました。文化のことを英語でcultureといいますが、ある意味で心を耕すことだと思うんです。心がいろいろ、子育てや人との関わり自然との関わりの中で耕され自分というものがなんとなく形成される気がします。これが蕾や花でアイデンティティと言い換えてもいいかもしれません。そういった意味で心が耕され、自己がある程度確立されたら、夢という自己実現へ向かうのだと思います。これを可能性の種とか空に夢を描くという意味で種とか空が出てきたんだと思います。もちろん子供のときから人生の夢は、持っていますが、より現実的、実践的な自己実現へ向かうのは大人になるに従って起こるものだと思います。もちろん夢の持ち方は人それぞれで、自己実現が仕事だったり、趣味やレジャーだっていいんだと思います。パプリカは、柴さんが言われた様に皆を応援する歌だと思います。長々とすみません。
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