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福山雅治と24kゴールデンとSiipと、2020年代のモダン・ロックの鳴っている場所

『サウンド&レコーディング・マガジン』に載っていた福山雅治のインタビューが、とても興味深かった。

めっちゃ面白いのは、テレビの露出とかでは「めんたいロックがルーツ」くらいしか掘り下げられない福山雅治が、今のグローバルな音楽シーンのトレンドをちゃんとフォローして、リファレンスにして、そのテイストを自分の楽曲制作に活かしていること。12月に出た最新アルバム『AKIRA』の表題曲「AKIRA」を聴くとよくわかる。

細かくハットを刻み、無音でブレイクを決める。アコースティック・ギターのドライな鳴らし方、ドゥーンと沈むベースラインに耳がいく。非常にモダンなビートメイキング。これ誰をプロデューサーに迎えたんだろう?と思ってたら、どうやら本人がNATIVE INSTRUMENTS KompleteやSpliceのサンプルを使って打ち込んでいるらしい。そのへんのことがインタビューで語られている。

そして、リスナーとしてのアンテナの感度と、それと自分のクリエイティブとの距離感も、非常にロジカルに語られている。

ヒップホップ・ネイティブの新世代ソング・ライターのメロディって、エド・シーランの楽曲のように16分音符が連続して出てくる符割りの細かいものが数多くあって、メロディ自体がビートを持っています。でも、僕の作るメロディはもうちょっと和メロっぽいというか、横につながっていくようなメロディで、音符も一つ一つが割と長い。だからメロディがビートを内包するようなものではないと自覚しています。ただ、サウンドに関してはモダンなビートやアンサンブルをイメージしていて。その感覚って、プレイヤーに言葉で伝えようとしてもなかなか伝え切れず、時間がかかってもいいから、脳内で鳴っているサウンドを自分自身の手で形にするしかないと思ったんです。
やっぱり軸足はギター・サウンドであり、ロック・ミュージックなんですよね。じゃあ、ロックが軸足とは言え、最新の打ち込みのビートに負けないようにするには、どうすればいいか? かつてのジョン・ボーナムのように大口径の生キックを使うのかと言われれば、そういうことではなく……。『AKIRA』の制作中は、頭の中でエレクトロニックなサウンドがずっと鳴っていました。

インタビューでは「ドラムの音色の”抜ける・抜けない”を判断するためにApple Musicグローバル・チャートの上位楽曲と聴き比べてる」という話も出てくる。このあたりを読んでピンときたのが、24kゴールデンの「Mood feat. ian dior」だった。

24kゴールデンは「ラッパー」という肩書きで紹介されることが多いけれど、僕は彼のことをポスト・マローンやジュース・ワールドと同じタイプの「ヒップホップ・ネイティブの新世代ソングライター」だと思っている。そして、この「Mood」という曲は、”2020年代のモダン・ロック”を象徴するヒット曲という風に思っている。アメリカのロック専門のラジオ局でもかかりまくってたみたいで、実際、ビルボードの2020年の「HOT ROCK & ALTERNATIVE SONGS」年間チャートで1位になっている。

ちなみに同チャートの2位がジュース・ワールド&マシュメロの「Come & Go」。このあたりのギターの鳴らし方とビートの絡み方が、今のアメリカのメインストリームのロック・ミュージックのトレンドになっている。

あとはインターネット・マネーの「Lemonade feat. Don Toliver, Gunna & Nav」もそう。

インターネット・マネーの創立者、タズ・テイラーはジュース・ワールドを見出してスターダムに送り出した立役者で、彼も「ヒップホップ・ネイティブの新世代ソングライター」の1人。以下のインタビューを読むと、彼のルーツにロックがあったうえで、それをトラップ以降のセンスで今の時代にアップデートしてることがわかる。

おもしろいのは、たとえば「Mood」にジャスティン・ビーバーとJ.バルヴィンが参加していたり、「Lemonade」にアヌエルAAが参加していたり、こうした動きにラテン・トラップの潮流が合わさっているところ。

バッド・バニーやJ.バルヴィン、アヌエルAAやマルーマやファラッコのようなラテン・トラップ/レゲトン勢のグローバルな躍進については以下のコラムで書きました。

このあたりの楽曲と「AKIRA」を聴き比べてみると、福山雅治がこの手のサウンドを「モダンなビートやアンサンブル」「最新の打ち込みのビート」としてリファレンスにしているのがすごくよくわかる。

ちなみに、このあたりの”2020年代のモダン・ロック”をリファレンスにしてる日本のアーティストがもうひとりいて、これは全く素性の明かされてないニューカマー。Siip(シープ)という男性シンガーソングライターで、12月24日、初配信曲「Cuz I」をリリースしたばかり。

シンプルに研ぎ澄まされたシンセとビートに、憂いを帯びた、存在感のある声。才能あると思う。この曲のミックスエンジニアに、24kゴールデンとかポスト・マローンあたりを手掛けているChris Gallandを起用していることからも、サウンド・メイキングの目指している方向性はうっすらと伝わってくる。

このへんの動きも、とてもおもしろいと思ってます。





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