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YOASOBI「群青」の”発想力で勝ちにきてる”感

YOASOBIの「群青」を聴いた。

ちょっと、これ、めちゃよい曲じゃないですか。今までYOASOBIについては何本か原稿を書いていて、基本的には物語をもとにした音楽クリエイティブという”仕掛け”の部分にフォーカスしたところに面白みを感じていたんだけれど――

この曲を聴いて「おお!」と思った。ソングライティングの部分で飛ばされる感じがあった。コンポーザーのayaseの発想力、ヴォーカリストikuraの表現力で勝ちにきてる感、というか。

まず、この曲のポイントは構成だと思う。基本的には一つのコード進行をループしていく展開なのだけれど、随所にフックが込められていて飽きさせない。

いくつかあげていくと、まずは最初の25秒までの展開。

「嗚呼、いつもの様に」という歌い出しから「どこか虚しいような」とオブリガートのシンセが入ってきて、おお、ここから曲が盛り上がっていくのねと思いきや8小節+6小節でぶった切るように「知らず知らず隠してた」という手拍子+合唱パートが始まる。ここがいい。

サカナクションの「ナイトフィッシングイズグッド」とか、さらにはそのインスパイア元になったクイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」に連なる合唱の使い方だ。

2分9秒あたりから、「何枚でも ほら何枚でも〜」と歌う中間部も巧みだ。そこまで四つ打ちのスクエアなリズムを刻んできたビートが、ここで歌の譜割りにピタッと寄り添う。そしてここも8小節+7小節。コード感がループしているのに最後の1小節を飛ばして次のパートに入ってしまうので疾走感が生まれる。

サビのパートでも、リズムと言葉のマッチングが絶妙。まず最初に出てくる42秒〜からのサビのパートで、前半の8小節はハーフテンポになってるんですよ。後半8小節でテンポが元に戻ってオブリガートのピアノフレーズが鳴る。「好きなものを〜」というフレーズがその切り替わりのスイッチになっているから、なんとなく聴き流していてもまずそこが意識に刷り込まれる。で、「好きな」というフレーズは、この曲で合計4回出てくる。

好きなものを好きだと言う 怖くて仕方ないけど
好きなことを続けること それは「楽しい」だけじゃない
好きなものと向き合うことで 触れたまだ小さな光
好きなものと向き合うこと 今だって怖いことだけど

「好きなもの」や「好きなこと」がトリガーになって主人公が変わっていく、というのが曲のストーリー。それがリズムチェンジのポイントとリンクしているのが見事。

あと、何度聴いてもすごいのが3分のところの転調ね。最後のサビで1度上に上がるというのはよくある構成だし、そのためにブリッジの2小節を使ってるんだけど、その最後の2拍の(歌詞に出てこない)「嗚呼」がかなり効いてる。

で、冒頭にあった手拍子+合唱パートを最後の大サビでもう一回畳み掛けるように持ってくるのも上手い。

で、この曲はアルフォートのCMソングとして作られた曲で、CM映像は美大受験をテーマにした山口つばさ作の漫画『ブルーピリオド』とのコラボレーションで制作されていて、つまりは『ブルーピリオド』のストーリーを知っていると歌詞の情景がより鮮明に伝わるような仕組みにもなっている。

すげえなあ、と思います。

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