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KANA-BOON「シルエット」/アルバム『TIME』の内実と、育ての親

KANA-BOONの2ndアルバム『TIME』がリリースされました。

これがホント格好いいわけなんですよ。僕はもういい歳したオッサンだけど、彼らの音楽を聴くと、まるで少年漫画のヒーローを見てるような気持ちになる。

1stアルバムの時はとにかく「すごい、すごい!」って感じだったんだけど、ブレイクを果たして以降、彼らが巻き起こす渦はどんどん大きくなっていって、バンドもちゃんとそのことを受け止めて、真っ直ぐに期待に応えるような作品を作ってきた。人気とか勢いとかの追い風が吹いている状況から目をそらさず、かと言って決して足元がぐらついてるわけじゃない。それだけじゃない内実を伴ったアルバムを作ってきた。

そういう、ロックバンドの「旬」と呼べる時期にしかできないタイプの、速球ストレートをズドンと投げ込むようなアルバムだと思う。ハイスタのキャリアで言うなら『Angry Fist』、ELLEGARDENで言うなら『RIOT ON THE GRILL』あたりに相当するような位置づけの作品になっていく予感。

(アルバムの全12曲ダイジェスト映像作品。こういう見せ方をするというのも新しい)

アルバムにはシングルが4曲入っていて、そのせいか、かなり華やかでキャッチーな感触になっている。そして、スタイルよりも歌に、ビートよりもメロディに強い力を感じるような楽曲が強く印象に残る。

「結晶星」

「フルドライブ」

「生きていく」

「シルエット」

僕が最初にKANA-BOONをインタビューしたのは2013年の夏のことで、その時に話した「高速四つ打ちダンスロック」の話は、その後、いろんな場所で広まって、「四つ打ち」という言葉はある種のバズワードになった。

http://www.nexus-web.net/interview/kanaboon/index2.php

KANA-BOONはやっぱりそのパイオニアの一人で、上のインタビューで「ちょうどこれくらいのテンポでやると、自分らが気持ちいいんですよ」――と語ってることがその証左だった。オーディエンスを盛り上げるためとか、今はこういうのが流行ってるからとか、そういう外的な要因ではなくて、内的な欲求でスタイルを産み落としたバンドだった。

ただ、彼らは一気にシーンの先頭に立っただけに、そのぶん、風当たりも強かった。

批判の対象になっているのを実際に目にしたり耳にしたりすることもあります。それで傷付くことがないといったらウソになるし、寂しいなって思うこともありますけど……。でも、そういう標的にさえなれないよりも、なってるほうが全然いいから、そういう意味ではプラスのこととして受け取ってます。昔から、周りを見返したいと思って音楽をやってきたし、10年後に笑っていられたら勝ちだと思っているんで。

ナタリーのインタビューで谷口鮪自身も言っていた。(http://natalie.mu/music/pp/kanaboon03

スタイルは誰でも取り入れることができる。だからあっという間に飽和化する。それゆえに、次の作品でどう出るかが勝負になる。

アルバムはそういうことをきっちりとわかった上で作られた一枚。だからこそ、実は彼らの一番強い部分である、メロディのフックと歌声の芯の強さを押し出してきた。ソングライターである谷口鮪という人の中身の部分を露わにしてきた。それが「生きていく」とか「結晶星」とか「愛にまみれて」という曲なんだと思う。

1月に出た『MUSICA』表紙巻頭特集のライフストーリーインタビューで、彼はかなり壮絶な半生を吐露していた。幼いころに父親と母親が離婚して、両親のあいだを転々として、どちらでも虐待やネグレクトに近い扱いを受けていたという。家に居場所がなかったという。高校時代の軽音楽部の顧問と会ったときに、はじめて「まともな大人」に出会ったと感じたと言っていた。

だから、「シルエット」は『NARUTO』のタイアップ曲ではあったけれど、「大人になること」というテーマを持つあの曲はアルバムの中核でもあるんだろうな、と改めて思う。「時計の針は 日々は止まらない」という一節が歌詞の中にあって。そういうモチーフはアルバムの中にも頻出している。

そういえば、僕がやったcakesのインタビューでも、高校の軽音部の先生について語っていた。

https://cakes.mu/posts/4999

「ホンマに、いい先生やったな」と谷口鮪は言っていたけれど、改めて、それはこちらが思っていた以上に実感のこもった言葉だったんだと思う。たぶんKANA-BOONというバンドにとってだけでなく、彼にとっての「育ての親」でもあったんだろうな。

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