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ASIAN KUNG-FU GENERATION 「Easter / 復活祭」/受け継がれるロックの復権

ASIAN KUNG-FU GENERATIONが3月18日にリリースしたシングル『Easter / 復活祭』。雑誌『MUSICA』のディスクレビューのページで、この曲について書きました。

資料用の音源が届いて、再生して、すぐにピンときた。50秒くらいで聴こえてくる「キン、キン」ってノイズの音で確信に変わった。これ、ものすごく「音」に意志がこもってる曲だ。ロックの王道の、張り詰めたエネルギー。

この曲が収録される彼らの久々の新作アルバムのレコーディングは、アメリカ・ロサンゼルスにあるフー・ファイターズのプライベートスタジオ「Studi­o 606」で、彼らの作品を多数手がけるエンジニア陣と共に行われたのだという。

最初に思ったのは、この曲はきっとフー・ファイターズ「オール・マイ・ライフ」へのアンサーでもあるんだろう、ということ。象徴的なのは、やっぱりこの曲でも2分45秒くらいで「キン、キン」ってピッキング・ハーモニクスのノイズが入ってくること。

では、なぜASIAN KUNG-FU GENERATIONはフー・ファイターズのプライベートスタジオでレコーディングしたのだろうか? その意味するところはどういうところにあるのだろう?

きっと最初の伏線はここにあったはず。

http://thefuturetimes.jp/archive/no04_extra/david/

2年前。ゴッチが編集長をつとめる新聞『THE FUTURE TIMES』に、フー・ファイターズのデイヴ・グロールが登場している。そこで彼が、アナログレコードについて、そしてこれからの音楽のあり方について語っている。

テクノロジーが入手しやすくなったことで、コンピュータ1台で家でも簡単に24トラックのデモ(仮録音)が録れるようになった。そういう新しいテクノロジーによる利便性は素晴らしいことだと思う。ただ、アナログの良さというのも絶対にある。アナログ機材ならではの音が恋しくなるし、愛着もある。テープ・リールが回るのを見るのも好きだし、アナログ録音だからこその音にこだわるのも好きだ。デジタル・テクノロジーを使って、演奏に後から手を加えるのは簡単だ。でもアナログではそういうわけにはいかないから、演奏をそのまま受け入れるしかない。そこがまたいいんだ。少しくらい不完全な部分があるから自然に聞こえて好きなんだ。
音楽の未来は明るいと思っている。テクノロジーとその利便性のおかげでどんな人にも音楽が身近な存在になった。どんな若者でも家で音楽を作ることができる。自宅のガレージでアルバムを作ることだってできる。それをたったの1クリックで世界中に配信できるんだ。つまり、もっと音楽が増えるわけだ。必ずしもいい音楽が増えるというわけではないけど、純粋に音楽が増えるってことだ。テクンロジーの進化によってより多くのチャンスが生まれることは刺激的だ。ただ忘れちゃいけないのは、結局、人間が作った音を人は求めているということなんだ。俺もエレクトロニック・ミュージックを聴くのは大好きだし、シンセを使った音楽も大好きだ。でも突き詰めると、俺はいつだって人間味を感じるサウンドに惹かれる。作り手の性格が表れた音にね。だから音楽の未来は凄く明るいと思っている。誰でも音楽が作れるというのは素晴らしいことだと思う。最高じゃないか

ここでデイヴ・グロールは、テクノロジーの進化と、それによって音楽を作ることが誰にとっても身近になったことを、まっすぐに称賛している。ただ、だからこそ「人間が作った音」が好きだし、惹かれるし、求められていると語っている。

その時、デイヴ・グロールは初監督作品として映画『サウンド・シティ -リアル・トゥ・リール』を作っていた。ニルヴァーナも使用した伝説のレコーディングスタジオ「サウンド・シティ」の物語を描いた作品だ。

この映画に、ASIAN KUNG-FU GENERATION後藤正文はこんなコメントを寄せている。(http://www.sonymusic.co.jp/Music/International/Special/Soundcity/)

僕らが胸を焦がしているのは「音源データ」なんかじゃなくて、人の手によって作られた「音楽」なんだということ。

そして昨年11月、結成20周年を迎えたフー・ファイターズは、アルバム『ソニック・ハイウェイズ』を発表した。アルバムはシカゴ、オースティン、ナッシュビル、ロサンゼルス、シアトル、ニューオーリンズ、ワシントンDC、ニューヨークの8都市でレコーディングされ、新作の制作と並行してドキュメンタリー番組も公開された。

番組では、レコーディングの過程だけでなく、各都市を象徴するアーティストやその街の音楽文化も語られた。監督はデイヴ・グロール。作品について、番組について、「これはアメリカ音楽史へのラブレターだ」と語っている。

おそらく、この『ソニック・ハイウェイズ』は来年のグラミー賞を獲得するだろう。ここで成し遂げているのは、ロックという音楽の「復権」だ。「若者の」とか「反抗の」――とか、長年使い古されて手垢がつきすぎたロックという音楽のイメージを、書き換える行為。アメリカ音楽史の伝統の中にそれを位置づける試みだ。

そして、デイヴ・グロールが考えていることに、日本でちゃんと同時代的な問題意識とミュージシャンシップをもって取り組んできたのが後藤正文という人、そしてASIAN KUNG-FU GENERATIONというバンドなのだと思う。

グローバル化するEDMとインディー化するロックの狭間で失われたものを取り戻そうとしている。そんな風に僕は彼らの試みを見ている。(20/100)

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