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サカナクション「SAKANAQUARIUM 光」に見た、オンラインライブのクリエイティブの更新

サカナクションのオンラインライブ「SAKANAQUARIUM 光」を観た。


いやー、素晴らしかった。さすがチームサカナクション。本気でぶっ飛ばしてくるヤツだった。

コロナ禍でライブやコンサートが開催できなくなって、いろんなアーティストが有料で配信ライブを行うようになっている昨今。単に今までやってきたライブパフォーマンスの代替としての無観客ライブではなく、ほとんどのアーティストが、オンラインライブならではの表現に挑戦している。

この状況、とてもおもしろいと思うのだ。もちろん現状はシビアだ。経済的な打撃は巨大で、ライブエンターテイメント産業自体がまるごと吹っ飛ぶようなダメージがある。

それでも、ただその苦境に手をこまねいているわけじゃなく、それぞれのアーティストが、そしてそのステージを作ってきたチームが、新しいルールのもとで、新しい環境のもとでクリエイティブに挑戦している。

「オンラインライブならではの表現とはなにか?」ということに、挑んでいる。

そしてもちろん、「SAKANAQUARIUM 光」もそうだった。チームサカナクションが挑んだのは、まず、ひたすら音響と映像を研ぎ澄まし、一曲一曲の演出を徹底することで没入感を作り上げること。事前のティーザーなどで山口一郎は「ライブミュージックビデオ」という表現をしていたけれど、まさにそういう感じだった。一つ一つの楽曲にまるっきり違った演出が用意されていて、それが次々と切り替わっていくことで、一時たりとも飽きさせない。曲中の転換やMCもほぼなく、それゆえ、どんどん興奮の渦の中に惹き込まれていくような構成。

音響も抜群。ヘッドホンで聴いていると、かなりの臨場感がある。ライブには「KLANG : technologies」による3Dサウンドテクノロジーが導入されているとのこと。こまかい技術的なことはようわからんけど、とにかくサウンドのクオリティは申し分ない。

前半は、サイケデリックな色彩の映像が演奏風景に重なり合ったり、画面にエフェクトがかかったり、リアルなライブの場では難しい演出を活かした展開。スクリーンに囲まれた狭い空間で5人が演奏して、その背景にモノクロの都市の光景が映し出されたりして、いわば”脳内空間”のようなイメージ。

ふむふむ、そうくるか、おお、今度はこうくるか、と思いながら観てたら、中盤の「ボイル」以降の展開がやばかった。

今ライズしたんだ

というフレーズを歌ったところで、スクリーンがひらいて、いきなり広大な空間が広がり、そこが真っ白なまばゆい光に包まれる。鳥肌が立つ。うわーって感じ。

これがクライマックスだろう、と思ったらまだまだ中盤だった。ここで山口一郎がカメラに向かって、この日はじめてのMC。「踊り倒して、一緒に夜を乗りこなしましょう」と告げると、ステージを降り、スナック風のセットへ移動。

スナック? なに? え? どういうこと? と思ってるうちに、ママとサラリーマン風の常連客、タンバリンを振ってソファで盛り上がってる酔客と共に「陽炎」を歌う。山口一郎がカウンターに座ってママから酒を出されたり、ソロのときにはスナックによくあるカラオケのテレビ画面にメンバーの演奏が映し出されたりと、ニヤリとさせる演出も。

で、「陽炎」が終わって再び山口一郎がステージに戻ると、そこから後半はいわゆるライブステージの演出で、ひたすらアッパーなダンスナンバーを連発。「夜の踊り子」では日本舞踊のダンサーが踊り、「ルーキー」ではレーザーが舞い、テンションをがんがん上げていく鉄壁のセット。

「ミュージック」の演出もすごかった。何度も彼らのライブを観てる人ならわかると思うけど、この曲、クラフトワークのようにサングラスをかけたメンバー5人がPCの前で一列に並ぶラップトップスタイルと、いわゆる通常のバンド編成のスタイルの両方を、一曲のなかで切り替えるのですよ。そこの演出がリアルなライブでも見せ所になっていたりするのだけど、ここがまさに「オンラインならでは」だった。というのも、ラップトップスタイルの時には画面にがんがんデジタルのエフェクトをかけて、完全に仮想空間の演奏のようになる。で、そこから一瞬の暗転を経てバンド編成に戻ると画面からもエフェクトは消えて、今度はカメラが生々しくメンバーにクローズアップする。ここが、ほんとお見事だった。

こういうのって、事前収録じゃ絶対ダメなんだよね。配信だから収録した映像を流すことも可能っちゃ可能なんだけれど、それだとライブならではの「アウラ」が宿らない。たとえば後半にはメンバー全員が汗まみれになっていたり、ときどきカメラマンが映り込んでいたり、そういうのが演者とスタッフの一発勝負の緊迫感として見えるからこそ、ライブとしての体感が得られる。

そして、彼らのことを追ってきたファンだったら、きっとピンときたと思う。バンドがずっと貫いてきた「深層」と「浅瀬」というコンセプトが、この日のセットリストと演出にもちゃんと踏襲されている。脳から身体へ。閉ざされた個の世界から、まばゆい照明に照らされた華やかなエンタテインメント空間へ。そういうストーリーラインが描かれていて、その境界線に「まばゆい光」がある。

だから「SAKANAQUARIUM 光」。

脱帽しました。

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