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クソ女が「先っぽだけでいいから男」を脱童貞させた話

「先っぽだけでいいから挿れさせてください!!!」と懇願される経験は、おそらくないのではないだろうか。
ちなみに私はある。それは私がクソ女だからである。

今回は、そんなクソ女が若かりし頃に童貞から懇願され、仕方なく童貞を食った話をしようと思う。

先っぽ懇願童貞との出会い

クソ女だった私は、主に出会いの主戦場を「出会い系サイト」としていた。
当たりはずれはあるものの、私が何人の男を同時並行で食おうと、それをとがめるヤツがいないからだ。
ちぎっては投げ、ちぎっては投げる生活。
私はそんな刹那的な生活に順応し、かなり楽しんでいた。
私はとにかく性欲が強かったのだ。

そんなわけで、「友人の紹介」だの「バイト先の先輩から頼まれた合コン」だのはぜ~~~んぶ断っていた。
何かやらかしたら社会的に終わるような面倒ごとを避けるためだ。

しかし、今回の合コンは避けられなかった。お世話になっている先輩からの3度目の依頼で、流石に断れなかったのだ。

そんなわけで仕方なく参加した合コンに、先っぽ懇願童貞はいた。

所詮私は人数あわせであり、適当に流して適当に帰るつもりだった。
しかし先っぽ懇願童貞は、なぜか私にターゲットを絞った。

「あの……」
「はい!」
「も、もしよかったら連絡先聞いてもいいですか……?」

は?嫌だが?
めんどくさいことこの上ないが?


そもそも、私はコイツと何を話したかさえ覚えていないのだ。
しかし、お世話になった先輩も、他のメンバーもこちらを見ている。
断るのは難しい状況だった。

「ああ……はい、いいですよ!」

私は貼り付けた笑顔で応え、全然乗り気じゃないのに連絡先を交換したのだった。

先っぽ懇願童貞、相談する

それからというもの、先っぽ懇願童貞は頻繁に連絡してきた。

「今、俺バイト!ちんかぴちゃんは?」
「俺、今日の昼、牛丼食ったわ」
「今テレビでやってるホラー怖くね?」

いや、うるせえよ!めんどくせえな!

これに尽きる。
最初は先輩の手前、仕方なく返信していたが、あまりにも面倒で既読スルーすることが増えた。
次第に、先っぽ懇願童貞からの連絡も減ってきたため、やっと諦めてくれたと思っていた矢先。
あちらから連絡がきた。

「ちょっと真剣に相談したいことがあります。どこかで会えないかな?」

新しい女でも見つけて、恋愛相談でもしたいんか?くらいにか思わなかったが、「ちょっと真剣に相談したいこと」には応えなければいけない気がして、会う約束を取り付けたのだった。

童貞、先っぽ挿入を懇願する

15時、昼下がりの渋谷のカフェで待ち合わせをし、私は先っぽ懇願童貞と向かい合っていた。

ヤツはかなり緊張している。なんだかずっとソワソワしているし、なかなか本題に入らずどうでもいい世間話を繰り返した。

そこで私はピンときてしまった。

これ、ア〇ウェイの勧誘だわ……。

絶対このカフェのどっかに先輩いるじゃん……。
あ~しまった~そっちは考えてなかった~。

そうと決まれば話は早い。
さっさと「私、今とっても幸せなんで大丈夫です!!!」を繰り出し、さっさと帰るにかぎる。

私は焦れて、促した。

「あの……それで、相談て何ですか?」

先っぽ懇願童貞の目が泳ぐ。

「あ、そ、そうだよね……ごめん……。あのさ……。」

いよいよア〇ウェイのお誘いが来るぞー!!

「俺、童貞なんだよね……」

!!!???

マジでビックリした。ア〇ウェイ全然関係ない。
そして今、ヤツが童貞であることも全然私に関係ない。

「えっ!?何て…!?」

予期せぬところからの攻撃に動揺しながら聞き返すと、先っぽ懇願童貞はたたみかけた。

「い、いや俺さ、もう26になるのに女の子と全然付き合ったことなくてさ。こんな年まで童貞で来ちゃったんだけど、いい加減どうにか脱童貞したくてさ、それで俺、この間の合コンでちんかぴちゃんに一目ぼれしたんだけど、全然相手にされてないのは分かってて、だけどどうしても諦められないからせめて…せめて思い出だけでもと思ってさ……」

早口!早口すぎ!
そういうとこだぞ!

先っぽ懇願童貞の声は、興奮のせいなのかボリュームが徐々に上がりつつある。
右隣の席のちょいイケサラリーマンは完全にパソコンを打つ手が止まっており、左隣の小説を読んでいたサブカル好きそうなマッシュヘアー男は、一向にページをめくらない。
目の前のシゴデキOLも、あっちに立っているスタッフも、聞き耳を立てているのではないかと、気が気ではなかった。

「え……あの……」

せめてもう少し小さい声で話してくれ、とお願いしようとしたその時……。

「だから、先っぽだけでいいので挿れさせてください!!!!」

いや、声でけーーーーーー!!!!!!!!
お前ーーー!!!昼下がりのオシャレカフェでなんてことしてくれとんじゃーーーー!!!!

カフェの空気はしぃんと静まり返り、小粋なジャズだけがひっそりと流れている。
この地獄の空気は、もう一生味わいたくないと脇に大量の汗をかきつつ、私はとにかく相手をなだめ、カフェを逃げるように退店した。

クソ女、ほだされる

人生最大風速の早歩きで渋谷の街を闊歩し、カフェが見えなくなるところまで逃げた。
逃げることに必死で先っぽ懇願童貞のことをすっかり忘れていたが、あのクソ野郎は今どこにいるのかと振り向くと、泣きそうな顔でうつむいていた。

「ちんかぴちゃん、ご……ごめんね……」

先っぽ懇願童貞は、振り絞るように謝る。

「お、俺、いつもこうやって空回りしちゃって……女の子に引かれちゃうんだよね……」

ああ、そうだろうがよ!!!!

怒鳴り散らしてやりたい気持ちでいっぱいだったが、相手の顔を見ると怒りゲージが減っていくのが分かる。

「俺、ほんとに困らせたいとか、わざとやってるとかじゃなくて……。ほんとにごめんなさい……」

今にも泣いちゃうんじゃない……?くらいの声色だ。声が震えているし、最後の方なんて渋谷の雑踏にかき消されていた。
さすがのクソ女も、こんな状況の年上男に冷たくするメンタルは持ち合わせていない。

それに、言ってることはめちゃくちゃだが、誠実さは感じる。わざわざ呼び出して対面で依頼するなんて、すごいことだ。
「お茶だけでいいから」と声をかけ、いきなりホテル街に連れ込もうとするナンパ野郎と比べれば100倍マシに思える。

それになにより、なんだかんだで可愛く思えてきた。年上男が私で童貞卒業したくて泣いているという事実に、なんだかほだされてしまったのだ。
私はため息をつきながら言った。

「いいですよ、童貞、もらってあげます。」
「……えっ!!??」

弾かれたように顔をあげた先っぽ懇願童貞。
全然泣いてない。

「え……!!?いいの…!!?俺、ちんかぴちゃんで童貞卒業できるの!!!??」

いや、だから声でけーーーー!!!
ま!!な!!べ!!!!

何度も言わすな!!!!

渋谷の街中で思いっきり叫ばれ、「コイツこれから童貞卒業すんのか」の視線を一身に浴びる。マジで勘弁してほしい。
しかし、クソ女たるもの、一度決めたことは覆せない。
早くもだいぶ後悔し始めたが、私は仕方なくホテル街へ向かうのだった。

先っぽ懇願男、童貞を卒業する

土曜夕方ということもあり、渋谷のホテル街はほぼ埋まっていたが、3時間15,000円の部屋はまだ空いていた。
童貞卒業に全てをかける先っぽ懇願童貞は、値段など気にせずさっさと部屋を選んだ。
始終キョロキョロしているところを見ると、ホテルに入ったのも初めてのことらしい。
かわいいとこあるじゃん、と思いながらエレベーターに乗った。

さすが15,000円/3時間のお値段だけあって、室内はかなり豪華だ。大きなシャンデリアが吊り下げられ、天井は鏡張り、室内は広く天涯ベッドという仕様だった。
先っぽ懇願男の童貞卒業式を行うにはふさわしい場所だ。

3時間という時間を無駄にするわけにもいかないので、さっさと準備を済ませる。一緒にシャワーを浴びるか聞いたが、

「た…楽しみは後にとっておきます……」

とのこと。先っぽ懇願童貞は徐々に事態を飲み込み始め、緊張しているようだった。

2人ともシャワーを浴び、ガウン姿で向かい合う。
ガッチガチに緊張した26歳童貞を前に、私は腹をくくっていた。
脱童貞という一生に1回の大切な経験をお任せいただいている身としては、何としても最高の思い出にしてもらいたい。

持ち前の器用さと謎の努力により、「え……?プロだったことある……?」と数々指摘されてきた自慢のテクニックをもって、必ずご満足いただける結果を残して見せるのだ!と私は意気込んだ。

あの手この手で緊張をほぐし、現役風俗嬢なみの手練手管で翻弄。あれよあれよという間に先っぽ懇願童貞は脱童貞を果たし、無事卒業式を終えたのだった。

元先っぽ懇願童貞は、上気した頬で布団にくるまりながら言った。

「ちんかぴちゃん…本当にありがとう。俺、感動した……。多分、この経験は普通じゃないんだなってわかる。すごく頑張ってくれて嬉しかった。ありがとう、ありがとう」

心から喜んでくれていることがわかり、私はなんだかうれしくなってしまった。クソ女でよかったと思ったのは、この時が初めてかもしれない。
私がクソ女として貯めてきた経験値が、こんなにも人を幸せにできるとは。世界に胸を張りたい気分だ。
また喜んでもらいたいという気持ちが湧き出てきたからか、私はこんなことを言った。

「またこういうことしてもいいよ」

しかし元先っぽ懇願童貞は言った。

「いや……なんかさ、今日は本当に人生で最高の日だったんだ。だから、次にちんかぴちゃんとこういうことができても、今日以上の気持ちにはならない気がするんだよね……。めちゃくちゃ失礼な自覚あるんだけど、すごくいい思い出としてとっておきたいんだ。もう会わないっていう選択、してもいいかな……?」

怒られる直前の仔犬みたいな顔だ。
普段の私なら

は?お前何様なン?

と激詰めしそうなところだが、この時の私はなぜだか胸がキュンとしてしまった。
そこまで大切に思ってくれるなんて光栄だとすら思ったのだ。

「わかった、いいよ!」
「ちんかぴちゃん、本当にありがとう……」

結局、残りの時間はお喋りして時間を潰し、別々にシャワーを浴びて、手を繋いで駅で別れた。
何度も振り返りながら手を振って帰っていった元先っぽ懇願童貞を見送り、じんわりした気持ちで私も帰路についた。

トンデモ依頼ではあったけれど、こんな爽やかな別れってあるんだな、と感じられる良い体験だった。
人の役に立つって、なんて気持ちがいいんだろう。

しかし、この話は後日談がある。
脱童貞から2週間後、元先っぽ懇願童貞から「会いたいです(*'ω'*)」と連絡が来たのだ。

はぁ~~!!!お前そういうとこだぞ~~~!!!

マジで心底がっかりした。
あんなカッコつけといて、結局連絡してくるんかい!
私は爽やかな思い出に泥を塗られたことに憤慨しながら、ばっちり無視&ブロック。その後二度と会うことはなかった。

男から与えられた苛立ちは、男で解消するに限る!
クソ女はすぐさま出会い系サイトにログインし、男漁りにいそしむのであった。

#創作大賞2024 #エッセイ部門


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