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夙川アトム

業界人漫談でお馴染み、俳優の夙川アトムさんの喋りの流れるようなメロディラインは単語や文章のなぞりはもちろんのこと、この人もまた若干の音マネとさらにその調子の繋ぎの部分が滑らかでそこに微妙な違和を忍ばせる事でおかしみを生んでいます。


業界人漫談はその着眼点やシステム自体に注目が向いがちですがこのラジオのトークで太田さんが言及しているようにかなり響きの面白さに重点を置いてそのまま突っ走ってゆくスタイルでありその周辺部分の補強は実は割と雑だったりします(それが良くも悪くもコスプレ芸人的なブレイクし方にも繋がった要因だとも思いますが)。

夙川さんはこのネタの他にも「しゃっくりが止まらなくなったアナウンサー」というコントがあってこちらは業界人漫談よりももう少しその調子の繋ぎが丁寧でその上でそこをテンポごとズラすという面白さを提示しています。いずれにせよ喋りの流動の違和をネタにする事を意識しているもしくはアクターとしてそこにテクニカルなベースが自然にあるといった感じです。


業界人漫談自体はタモリさんがやっていた「ハナモゲラ語」と近い種類のネタですがそれが「外国語」のモノマネではなく「何となく聞いた事のある専門用語」のモノマネでありその羅列なので聞いてすぐその響きの面白さについていけなくても文字を反転させたら後から意味がわかるのと、さらにそこにもついていけなかった場合矢継ぎ早に演じ込みでその表面的な一昔前の業界人というアイコンを表現しているので雰囲気でおかしみを享受出来るという何重にも保険がかかっていて取りこぼしが少なくなっています。

そしてこれはネタの構造に置いての話であり逆を言えば「ある特定のシュチュエーションに対して文脈や関係性よりも音の響きや尺の収まりでコミュニケーションを試みている」という気質の表れでもあると感じられネタ以外のバラエティでのトークにもその特性が表れていたためその場のバラエティっぽい事のなぞりに終始した傾向があって本人もその事を自覚し半分ネタ化させていたと思います。
 

しかしこれはある種の適応能力であり、それこそタモリさんのいいともやMステでの「司会者っぽい台詞回しやトーンの押さえ方」と同じようなテクニックでもあるためブレイクの形と本来持ってる気質の差異があったように感じましたがそのやってることの核心的な部分は俳優活動が中心になった今も基本的にブレてはいないと捉えることができます(もちろん時代的なものと夙川さんの場合はタモリさんのネタほど意味不明ではないなどの違いもあります)。

夙川さんの調子の繋ぎとそのなぞりの面白さは繊細な芸でもあると思うので(なので歌が上手い王決定戦でも活躍したのだと)いつかまた追求してほしいと個人的に思っています。

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