今、机の上で横になっている睡眠剤を刮目したので。

私が小さい頃、あの人はよく病院に行っていてなぜか私についてきてほしがった。たしか妹は家で留守番をしていたように思う。
その時の家から車で20分もかからずに着くあの総合病院はとにかく大きくてなぜかワクワクするのだ。私は迷路のように感じることができる知らないでかい場所が好きなようである。その病院が提携している駐車場に車を停め、あの人は警備員からもらった駐車券を私に預けて目的の場所へ向かう。予約をしていたんだか弾丸で受診をしていたんだか定かではない。たしかあまり予約をしていなかったのではないか。受付の横にある番号札が出る機械の画面に表示された「予約の方はコチラ」みたいなボタンに触ったことがないと思う。画面を指さして「どっち?」とあの人に聞いてなぜか怒られるなんてこともあった気がする。そして受診する科目が画面に表示されるとあの人が操作するので私は何科に用があるのかわからずあとをついていく。こっそり覗いたことはあるがよく覚えていない。
待合室に着いてあの人は空いている席に座る。そこはなぜかほかの場所より少し薄暗い。そこは人がいるのに話し声や、咳の音も少しの雑音も聞こえない。妙に静まり返っていたと記憶している。私は退屈なのであの人に「ひまなんだけど」と言った。「じゃあどっか行ってきな、迷子にならないでよ」
カルテの入った機械が天井を走っている。どこにいくんだろうと興味が湧いて見上げながら歩く。カルテは担当する科の診察室の方に吸い込まれてしまってついていけなくなってしまう。代わりに別の方向へ進むカルテを見つけてそれを追いかける。カルテとの鬼ごっこに飽きてしまったわたしは別の階にあがるエスカレーターに乗ってみた。立ち入ってはいけないような雰囲気を感じたので元の階に戻った。売店があることを知っていたので何となく立ち寄ってみた。しかしお金を持っていない私は何も買えないので気まずくなった。チューイングキャンディが食べたい。あの人がいる待合室に戻り、「まだ?おかねちょーだい」と不躾に頼んだ。「まだに決まってるしょ。お金なんて何に使うのさ。」「おかしかう」「あっそ、はい。ちゃんとお釣りもらってきてよね。レシートも。」500円玉を渡してくれた。
チューイングキャンディはトーマスとハローキティがあった。どちらにも興味がない私はあの人が好きなハローキティを選んだ。「レシートください」ちゃんと言えた。入院患者を横目に走って元居た場所に向かう。(病院内は走ってはいけません。)「はい、これおつりとレシート。これかってきたの。たべる?」「そんなの甘ったるくて食べれない。」ふーん、そっか。
やっとあの人の名前が呼ばれた。「ちょっと待ってて。」また待ちぼうけを食らう。座って待っていたらどうやら居眠りをしたようであの人に起こされる。「ちょっと!行くよ!」あの人が泣いていたので「いたいことされたの?」と聞いた。「なんでもないから!」怒られた。会計のそばにある駐車券の無料処理をする機械を私が操作して病院を出る。あの人に駐車券を返す。薬局に向かい処方箋をトレーに出し、また長い時間がかかるようだと待っている人の多さで体感する。「アンタはここで待ってて、私はタバコ吸ってくるから。」キッズスペースがあるので名前も知らないソフト塩化ビニールでできた怪獣でよくわからない一人あそびをした。お茶の出る機械があったからそれで喉をうるおす。チューイングキャンディはもうなかった。あの人が戻ってきた。吊るされたアナログテレビは将棋の番組だった。また名前を呼ばれた。人一人分しかないスペースで区切られたやたら狭いカウンターであの人と別の大人が向かい合って喋っている。話している内容が気になるし何をしているかも気になるのでつま先立ちをして覗き見ようとするがよく見えなかったしすごく小さい声で話すのでそばに近づいても聞こえなかった。お薬でいっぱいになったビニール袋を見て「それぜんぶのむの?」「うるさい!アンタには関係ない!」また怒られた。
薬局を出て駐車場に向かう途中で「駐車券は?」と聞かれる。
「さっきわたしたよ」「ハァ!?いつよ!」「さっき!」「さっきっていつ!」「さっきはさっきでしょ!」上手に説明できない私は肩に強い衝撃を受け、泣いてしまう。あの人は自分の持ち物のなかから駐車券を見つけて舌打ちをする。
車に乗り込んであの人はタバコに火をつける。「お腹すいたね、何食べたい気分?」
「なんでもいい」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?