競技活動自伝No.12〜砂漠前夜〜
この文章は、書籍『大陸を走って横断する僕の話。』
(2016年11月23日 台湾 : 木馬出版社より発行) の日本語原稿です。
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〜砂漠前夜〜
【大会3日前】
目を覚ますとやたらと角張った大がらな家具類が視界に飛び込んできた。耳に馴染まない言語が意味を解さず頭の中を右から左へ素通りしてゆく。
「あれ、ここどこだ?」
履きっぱなしのランニングシューズやベッドの脇の荷物を眺めて、ようやく状況が飲み込めた。
そうだ。ここはフランス・パリ市内ユースホステルの一室だ。昨晩到着したシャルル・ド・ゴール国際空港から市内までの地下鉄を何度か乗り間違えつつ、パリに到着してからは入り組んだ路地にさんざん迷いながらようやくチェックインできたのが深夜1時過ぎ。
荷物を下ろして、ベッドに腰を下ろして、シャワーでも浴びようかと、、、思ってそのまま寝てしまったらしい。
空腹に気付いて、とりあえずダイニングで軽食を済ませる。出国前に彫った胸のタトゥに気をつけながら少し熱めのシャワーを浴びた。
ダイニングに置かれていた日本マンガ『キューピー』の単行本をめくって時間を潰すが、すぐに落ちつかなくなり、早めにチェックアウトして日本人選手の集合ホテルへ向かうことにした。
集合ホテル。日本人選手の部屋の戸を叩く。どうやら外出中らしい。早めにチェックインさせてもらえたので、部屋でテレビアニメ『キャプテン翼』を見ながら日本人選手団の帰りを待つ。フランス語で翼と会話する石崎君に違和感しかない。
1時間が経ったが誰も帰ってこないので、軽く市内を走ってこようと置き手紙を書いていると、部屋の扉が開いた。このホテルで同室の大学生、金坂との最対面だった。30分ほど部屋で話して、意気投合した金坂とパリをジョギングしながらレースの緊張をほぐしてゆく。日本ではずっと独りで走ってきたから、今大会の身近なライバルに出逢えて、嬉しかった。
夕方、大会事務局の日本スタッフに挨拶に伺うと、ベテラン参加者に装備面をアドバイスしてもらえるよう取り計らってもらえた。
緊張しつつ、自分の装備一式をいつでもチェックしてもらえるよう部屋のベッドへ拡げて待つ。5分後。ドアのむこうから「ボンジュール!!」「ニーハオ!!」を連呼しながら酔っ払いの3人組が現れた。内1名はどう見ても完全に酔いつぶれているようにも思う。
え!?この人たちが本当に“世界一過酷なマラソン大会“の異名を持つサハラマラソンの熟練者!?
と大いに不安を感じたものの、ベッドに拡げた装備を見てもらい、レース中の行動食のリストを3人の中で一番ベテランのサハラ11回目出場者の小室さんに渡す。
それまでほろ酔いだった小室さんの顔つきはサッと一瞬で真剣そのものの表情へ変化した。
僕は全体的に多めだった行動食やスポーツドリンクの粉末を小室さん指導のもとで減量し総重量を11.5kgから10.0kgへ。
金坂は食事メニューのバランスに関してアドバイスを受ける。その後、参考に見させてもらった経験者のバックパックは限られた保存食と調味料の組み合わせにより過酷な環境下でいかに美味しい食事を準備できるかの知恵と工夫の数々だった。
「サハラマラソンを完走するためには食事を楽しめることが一番大切。数字だけしか考えていないカロリー計算じゃ7日間はもたないよ。だって僕たちはガソリンさえあれば走れる機械じゃなくて人間だからね」は、サハラマラソン二回目参加の隅田さんの言葉だ。
僕たち2人は只々、感嘆のあいずちを打つ。さすがベテラン。やはりただの酔っ払いではなかった。的確な指導で経験不足な僕らへ貴重なアドバイスをしてくれた3人へお礼を言い、早めに就寝の挨拶をして別れた。
「いや~。ベテランさんはやっぱりすごいね~」
金坂と話しながら買っておいたミネラルウォーターに手を伸ばしたら…アレ!?全部カラッポだぞ…やっぱり内1名はただの酔っ払いだったなぁ。ちくしょう。
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自伝「大陸を走って横断する僕の話」
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