競技活動自伝No.22〜あとがき〜
〜あとがき〜
ここまでの原稿を書き上げてから6年が経った。短期間でとても長時間パソコンと向きあい、ウルトラマラソンでは味わったことのない目眩と頭痛を体験した。「もう活字は見たくない」なんて彼女に愚痴を漏らしていた頃が懐かしい。
6年前、この原稿は都内の某出版社から製本化される予定だった。原稿を書き上げた直後の3月11日。我が国は記録的な大地震と津波の被害に見舞われた。僕の住む八王子は直接的な被害はなかったが、被災地は凄惨な状態だった。契約した出版社も経営的な危機に直面した…らしい。結果、出版の話しは流れ、製本化されることなくこの原稿は残った。
6年間で起きたこと。
まず、尊敬していた自転車ロードレーサーのランス・アームストロングがドーピング疑惑で訴えられ本人がその事実を認めた。結果、闘病生活後に打ち立てたロードレースでの全ての記録は抹消され、獲得した全タイトルは剥奪された。今は1億ドルもの賠償を求められる破産の危機にあり、その波乱万丈な人生が映画になった。
映画と言えば、登山家のジョージ・マロリーを題材にした日本のフィクション小説「神々の山嶺」も映画になった。フィクションの中では1924年6月28日、マロリーは人類初のエベレスト登頂を成し遂げたことになっていたが、実際には遺体が発見された今でもマロリーがエベレストの山頂を踏んだかどうかは分かっていない。3歳で父を失った息子のジョン・マロリーは「僕にとって登頂とは生きて帰って来ることです。父さんが帰ってこなければ決してやりとげたとは言えないのです」とコメントした。
僕の母は健在だ。長年ファンだったSMAPが年末に解散することが決まり肩を落としていることを除いて。
僕は2011年6月。北海道サロマ湖で行なわれた100kmウルトラマラソンを入賞し、日本代表としてヨーロッパでの世界選手権へ遠征した。オランダとイタリアの2回。どちらもメダルに届く結果は残せず、帰国。
仕事をした。地元の多摩地区で市民ランナーを対象としたランニングスクールの運営から始め、今は月刊ランナーズの企画コーチとしても北海道サロマ湖と四国四万十川のウルトラマラソン大会へチャレンジする初心者の指導を担当している。ストレッチトレーナーとして解剖学の知識と経験も積んだ。日夜、カラダが鈍らないよう帰宅ランを続けた。遮二無二働き、ふと足を止めてみて思う。
大陸は、いつ走って横断するんだ?
夢を行動に起こせていない自分に苛立つ夜が増えた。
休暇を取り、2013年は台湾一周1100kmウルトラマラソンへ出場した。優勝した。台湾国内の新聞ではタイガーウッズの記事と同じ紙面で取り上げられた。現地で出版の話しが持ち上がった。うやむやに終わった。
何度も、何度も、夢はもう捨てようと思った。捨てられなかった。9年間交際した彼女との婚約は、破棄した。惰性からの後悔がいつか恨みに変わると気づいたから。
そして今年、台湾横断246kmウルトラマラソンへ出場。今度はスタート前に台湾の新聞社へ優勝を公言してから挑んだ。すでに書き上げた自伝原稿があることも告げた。優勝した。木馬出版社との契約を終結させることができた。高山病や落石に臆さず、この勝負に命を賭けた結果だった。
この原稿は、3ヶ月後に台湾で出版される。
ここからだ。マラソンは、ゴールからの逆算とリスクヘッジ。行動しないことこそがリスクだ。
成功のイメージは、すでに出来ている。
タスキを紡ごうと思う。
あと1491日後の2020年10月1日
きっと僕らは大陸を走って横断しているだろう。
2016年8月31日 井上真悟
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書籍『大陸を走って横断する僕の話。』
(2016年11月23日 台湾 : 木馬出版社より発行) 21日間連載の全文は コチラ から購入が可能です
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自伝「大陸を走って横断する僕の話」
2016年11月台湾・木馬出版社から製本化されたウルトラランナー井上真悟 自伝「RUN一直跑下去:世界超馬王者的跑步之道」日本語原稿の21…
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