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ブルーインパルスが東京を飛ぶ。それだけで感動する理由

「事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の負託にこたえることを誓いま〜す!!!」

樋口真嗣監督のアニメ作品「ひそねとまそたん」のクライマックス。航空自衛官であり岐阜基地の飛行開発実験団に所属する甘粕ひそねはいろいろあって絶体絶命の危機に瀕する。もう二度とこちらの世界に戻ってこれないかも知れない。けれども今自分がやらなければ、全てが失われる。そんな状況の中で、上官や同僚が制止する中、彼女は能天気にこのセリフを叫びながら、絶望的な状況に飛び込んでいく。好きな男も居た、愛すべき仲間も居た、けれどもそのすべてを捨ててでも、否、そのすべてを護るために、彼女は自ら身を投げ出すのである。

自衛官になる際に必ず宣誓する「服務の宣誓(https://ja.wikipedia.org/wiki/服務の宣誓 )」をこれほどまで感動的な場面に持ってきたところに脚本のセンスの良さを感じる。そう、僕たちはいつだって彼らに護られているのだ。

トップをねらえ!最終話と同じ筋書きなのだが甘粕ひそねは極めてノーテンキなのだ。「ちょっとコンビニ行ってきまーす」というくらいのノリで、もって国民の負託に応えてくれちゃうのである。

戦後の日本において、自衛隊というのは常に議論の対象だった。彼らは命がけで日本を護る任務を負いながらも、戦争の道具だと常に批判に晒されていた。反対運動は根強い。それでも彼らがいなければ、大規模な災害や緊急事態に即応できない。ゴジラでは常に自衛隊が最初に出動する。我が国が未知の災害に対抗する手段は自衛隊しかないのだ。

武漢でパンデミックが起きた1月から、自衛隊中央病院は常に感染リスクの最前線でまさに命がけで戦っていた。武漢からのチャーター便の防疫、ダイヤモンド・プリンセスの乗客・乗員の治療。我々がまだ遠い国の出来事だとパンデミックを傍観していた頃から、いの一番にこの危険に対処できるのは、まさに彼らが我々国民の負託にこたえようとしてくれているからである。

ブルーインパルスの飛行は、最前線で戦う医療従事者たちのみならず、外出自粛に頑張るテレワーカーたち、店舗で働く人達、学校やスポーツやイベントの再開を祈る子どもたちと関係者たち、経営難に悩む経営者たち、そしてそれでも外で働かなければならない人たち、要はすべての人達に勇気を与えることになった。

僕はちょうど皮膚科に行く予約をしていたので、見れないかなあと思ったのだがラッキーなことに神田の商店街を歩いていたら轟音とともに航跡を発見した。

子供の頃に戻ったような興奮を覚えた。

ブルーインパルスが!いま、まさしく命懸けで編隊飛行を行っているのだ。
実は以前、入間の基地祭や、岐阜の航空祭に行ったことがある。ブルーインパルスの飛行もそこで見ていたが、極めて危険でトリッキーな飛行技術を要する。

僕は医者に行くのも忘れて、走って航跡を追いかけた。神田の商店街の隙間から、ブルーインパルスがまさしく密集隊形で急旋回する様子が見えた。

ただ飛行機が飛ぶ。それだけでこれほど感動するものなのか。

しかもこれは、危険だからこそ意味があるのである。失敗するかもしれないからこそ、危険な事故に繋がりそうだからこそ、固唾を飲んで見守りたくなるのだ。これまで僕は曲技飛行がなぜ存在するのか、その意味までは理解できていなかったが、今ほど危険を犯して応援することに意味がある時代はないだろう。

危険を犯して日々の患者を助け続ける医療従事者を応援するために、彼らは自らの命を危険に晒して応援するのである。もちろん東京の上空ではどんな事故もあってはならない。そのため、最も確実性の高い編隊飛行で飛ぶのである。万が一、失敗すれば、チームの存続に関わるだけでなく航空自衛隊そのものの存続にも関わるだろう。そうしたリスクを犯しても、敢えて医療関係者を激励したい。応援することが、人々に勇気を与え、日々防疫に勤しむすべての人達を励ます。彼らはそのための訓練を日々行ってきた。淡々と、毎日、批判に晒されながら。だから絶対の自信がある。昨日東京の空を舞ったのは、ブルーインパルスだけではない。完璧な整備と精神力、そして絶対の信頼。それはまさに自衛隊そのものなのだ。

今回、報道各社が我も我もとブルーインパルスの飛行をフィーチャーしたのも象徴的だった。実はブルーインパルスが東京上空を飛行したのは6年ぶりであって初めてではないのだが、これほどまでに世間が注目したことはかつてなかった。

特にTBSニュースでは、新型コロナの感染対策と治療を行った医療機関であり、いまだ院内感染を起こしていない自衛隊中央病院の屋上から中継しているのが頭一つ抜けていた。

ブルーインパルスの飛行で、彼らは自衛隊関係者として、この絶対の自信をもって危険な曲技飛行をする仲間の姿がどれほど誇らしく感じられただろう。

僕は自衛隊とは全く縁もゆかりもないが、日本国の国民として、納税者として、この状況に苦悩する経営者として、この姿にどれほど勇気づけられたかわからない。

皮膚科に行った帰りも、ブルーインパルスを見れたのは幸運だった。

ブルーインパルス、ありがとう。