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シン・ウルトラマンを10倍楽しむ方法:ついに出た!樋口真嗣の絵コンテ集圧巻の650ページ

「コクヨのさあ、測量野帳っていうノートがあるんですよ」

ある日、僕が手書きタブレットを作ろうとしているとき、不意に樋口真嗣がそう言った。

「あれが好きでね、ちょうどあれを横にしたときに、映画のスクリーンと近いタテヨコ比になるんだよ」

それで樋口真嗣は測量野帳を何冊も持ち歩いていると言う。
シン・ゴジラもシン・ウルトラマンも樋口真嗣は測量野帳に絵コンテのメモを書いてる。いつでもどこでも、何かアイデアがあれば測量野帳を取り出して、その場で文字や絵や、寝言や落書きを書いて写真を撮ってスタッフに送っている。

ある日、樋口真嗣が酔っぱらいすぎて測量野帳をうちに忘れて帰ったことがあって、「どうしても必要だから最後のページだけ写真を撮って送ってほしい」と言われて写真を撮ったことがある。たしかシン・ウルトラマンの編集作業中のことだ。

しかし、走り書きで何が書かれているのか全くわからない。「ほんとうにこのページでいいのか?」と確認すると「大丈夫」と言う。要は万が一落とした時のために暗号みたいなもので文字が書かれているので僕には理解できなかったのだ。

測量野帳といえばコクヨである。国のほまれと書いてコクヨ。コクヨがKOKUYOになったのは、ソニーの本社がコクヨの家具を採用すると決まった時、故・盛田昭雄がこんなことを言ったそうだ。

「モノはいいのは認める。ただ、国誉なんてものものしい漢字が書かれた家具を国際化を標榜する東京通信工業改めソニーに置くなんて座りが悪い。どうだ、我々がひとつKOKUYOというロゴをデザインしようじゃないか」

そういうわけで、KOKUYOのあの有名なアルファベットのロゴができた。その後、ロゴを現在の形にリニューアルするときも、わざわざソニーデザインに発注したくらいだ。ソニーとコクヨの品川の本社が隣同士というのも、あながち無関係ではないかもしれない(関係ないかもしれないが)。

コクヨに知り合いがいないでもなかったので、コクヨの人を紹介して、「なんかやりましょう」という話をしてからもう何年も経ってしまった。
僕も樋口さんの真似をして測量野帳を何冊も買い込み、全てのカバンに忍ばせている。確かにこの測量野帳というのはコンパクトかつ便利なのである。

野帳というだけあって、いつでもどこでも、その場で、立って描けるようにハードカバーになっている。方眼も引いてある。

モレスキンは嵩張りすぎるし高すぎるからどこにでも忍ばせておくというわけにはいかない。

そんな樋口真嗣の演出ノート秘伝の巻とでも言うべきものが、測量野帳と全く同じタテヨコ比で発売されることになった、という話を聞いたのも何年か前だ。

それから幾年露。ようやく、やっと、念願かなって特撮野帳として発売されることになった。

なったのだが、ページ数がまさかの650ページ。
入れ過ぎである。ほぼ鈍器のような仕上がりになった。

逆に言うと、これほど豪華な本はない。
樋口演出の真髄に迫ると言う点で、これほど貴重な資料もない。
特撮ファンのみならず、「人の頭の中はどうなっているのか」を研究する人工知能研究者も絶対に買うべきマストバイの一冊と言える。

シン・ゴジラはもちろん、最近配信が始まったシン・ウルトラマンも10倍楽しくなること間違いなし