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侍ならば、チョンマゲたれ!Bowers & Wilkinsを迎える

アキュフェーズとラステームによるバイアンプによって、我がオーディオシャックはほぼ完璧な状態に仕上がった。

しかし、最後の砦であるスピーカーが、JBL4309ではいかにも非力である。
バイアンプにするだけで4309がものすごく良くなったことにとても驚いたのだが、全てのものにはじまりがあり終わりがある。

ペアで15万円だった4309を、30年落ちといえども25万円するアキュフェーズのアンプで駆動するのは、オーディオ界の常識でいえば、明らかに分不相応である。

4309の青いマスクも大変気に入っているのだが、ここらでその役目をより上位のスピーカーに譲るべき時が来たようだ。

そう思って中古オーディオを物色していると、おあつらえむきのを見つけた。

4309の次に進むならどうするか、このままJBLの王道を突き進むか、それとも、KS-55Hyperという素晴らしいスピーカーを生み出したクリプトンの上位機種に進むか。

しかし僕としては、たぶんこれが一つの大きな区切りになるだろうから、最初に目指した目標地点に辿り着きたい。

最初に目にしたデザイナー氏のオーディオセットは、合計で一千万近いものだった。自動車ならともかくオーディオにそんなにお金をかけるというのが僕はちょっと受け入れがたかったし、それは今も変わらない。かけられるのはフルセットで50万円くらいが上限だろうと思っていた。

その意味では、マランツPM7000NとJBL4309の組み合わせは、合計で25万円くらい(定価ベースでは30万円くらい)。まあまあのバランスと言える。

中古オーディオを根気よく探すということを続けていると、時たま出物、掘り出し物にあたることがある。

あるとき見つけたのは、中古として売られていたが開封済み未使用品のB&W705S2だった。

B&W、つまりBowers & Wilkinsは、現代最高の量産ベースの高級オーディオメーカーとして知られたブランドだ。オーディオを見よう見まねで始めた時から、いつかはB&Wと思っていた。

面白いのは、同じ店で中古の同じ機種が、3万円近く高い値段で売られていることだ。開封済み未使用品のほうが安く売られているのである。これがオーディオの面白いところだ。

買うかどうか少し悩んだが、中古ものというのは全て一点ものなので、悩んでいるうちに売れてしまうかもしれない。

ままよ、という気持ちで購入を決めた。これで当分は卵スープ生活である。

B&Wといえば、チョンマゲ。
最初に見た時は「なんて余計なものがついているんだ」と思ったものだが、実際になぜチョンマゲが必要なのか、B&Wの拘りのポイントを聞くと納得してしまう。

チョンマゲはツイーターと呼ばれる部分だ。JBL4309ではツイーターは金属のホーンだが、B&Wではツイーターはチョンマゲである。

スピーカーというのは空気を振動させて音を鳴らすので、そのエネルギーは前と後ろに同時に発生する。しかし、後ろに発生した音は、基本的に余計直人なのでうまいこと消音してしまいたい。

そこで、スピーカーにはバスレフポートというのがついていて、スピーカー内部でうまく音を処理したあと、前やうしろからそっと音を逃すのである。

しかし、原理的にはスピーカーの中で音が反響するわけで、あんまりいいものではない。特に高音はビリビリと悪影響を与えそうである。

そこでB&Wはツイーターを後ろに長くして消音するという仕組みを考える。もともとはノーチラスと呼ばれる化け物のようなスピーカー向けに考えられたものだったが、この発想でスピーカーを作るとめちゃくちゃ大きくて奇妙な形になってしまう。

そもそもノーチラスは1200万円もする。

高級で高品質なスピーカーを出すメーカーは意外とたくさんあるのだが、なかでもB&Wがすごいのは、高級機で培った技術をベースとして、大富豪でなくても、個人のささやかな趣味の延長上で買える価格帯のものを発売してくれるところだ。

フェラーリではなくてアルファロメオ。ポルシェではなくBMWなのである。

もちろん20万円台で買えるスピーカーが1200万円のスピーカーと同じ性能であるわけがないが、その片鱗だけでも感じられたら嬉しいじゃないか。

しかも今なら未使用品をエイジングしながら丁寧につきあっていくことができる。まさに生まれたての子猫をもらうような気持ちだ。

然して、吾輩はチョンマゲを我がオーディオシャックに招き入れることを決断したのである。

まずは恒例の聴き比べをしなければならない。
スピーカー分配器を使ってアンプの出力を二つにわける。

一つは、JBL4309。バイアンプ駆動。
もうひとつは、B&W705S2。シングル駆動。

バイアンプの4309もなかなかいい仕事をするが、シングル駆動といえどB&W705S2の圧倒的な表現力の前にはただただ平伏すしかない。

バイワイヤリングからバイアンプに変えた時点で、JBL4309も相当なレベルに達していたのは間違いない。オーディオというのは、たとえ「今これで十分だ」と思っていても、いい状態から悪い状態になると一気に目が覚める。

アキュフェーズとラステームによるバイアンプ駆動の4309は実に生き生きと瑞々しい表情を見せてくれる。
このままでも十分半年くらいは楽しめそうだ。

しかし、705S2は、無情すぎるほどの圧倒的清涼感と迫力で、生まれ変わったとしか思えない4309のさらに上をいく。

単独で鳴らすとキンキンとうるさい4309のホーンは、バイアンプにするとその必死さをさらに強調されたようになった。

705S2はたとえシングル駆動であったとしても表現力が段違いである。
チョンマゲツイーターは伊達ではないようだ。

余計な音がしない、というのがこれほどまでとは。
数日の間、この状態を保ったまま、映画ファンなんかを呼んであーだこーだ話をした。

「まあこれは比べられるものじゃないよね」

と言い残して映画ファンが帰り、いざシャックのメインスピーカーを入れ替えることにする。

705S2は金具のようなもので入力がつながっており、これを外してバイアンプ駆動に変える。

驚いたのは、最初に音楽を流した時、まちがってラステームの電源を入れ忘れてしまい、シングル以下の、いわばハーフアンプ状態で鳴らしてしまったのだが、最初はラステームの電源を入れ忘れたことに気づかなかった。

それくらい、705S2はウーファーの表現力があるのだ。

ラステームの電源を入れるとさらに豊かな空間的広がりが付加され、2chしかないのに立体音響が聞こえるという、あのオーディオマニアの機材特有の状態が出現した。

バイアンプによって完全体となった705S2は、本当によく鳴る。
そもそも705S2で驚いたのは、JBL4309よりも一回り小さいサイズにもかかわらず、ズシっと重いことだ。

オーディオにおける絶対的な指標値は、重さ、大きさ、パワー。明らかに密度の高い物質で作られている705S2に衝撃を受けた。この「重さ」というやつは店でスピーカーを眺めているだけじゃあ感じることができない。

これだけ重ければ本体がビビることはまずないだろう。
妙に納得してしまった。

JBL4309の青いマスクが消えたことは寂しくもあるが、ピアノブラック仕上げの705S2がソニーのブラビアに妙にマッチしてこれはこれで高級感があっていい。

サブシステムとなったJBL4309は、技研バーか銀座に持っていって営業に活用することにしよう。