中編台本#002 いただきますを一緒に

Chapter01


A:けっ、なんだよ…


A:どうせ…俺なんて…


ガラガラ


A:うおっ


B:ん〜、さーてと…準備するか


トントントン


チッ、ボボボ


A:あいつ…見たことねえ面だな…


ガタッ


A:やば…


B:ん?誰かいるのか?


B:君は…この学校の生徒だよね?


B:こんなところで何してるの?


A:うるせえ、お前には関係ないだろ


B:ふむふむ、私はB、この春から赴任したものだ


B:担当は家庭科、調理実習の準備をしていたわけだが…


B:君の名前は?


A:…Aだよ


A:その話し方…なるほどね


B:ちょっと待ってな


A:?


スッ、クルクル


B:よーし、できた…食べてみ


A:え…味噌汁?


B:まあまあ、いいからいいから


A:…しょうがねえなあ…


スンスン


A:あれ…?


ズズズ


A:この味…なんで…?


B:君、XX出身だろ?


B:俺もそうなんだよ


B:ふふふ、懐かしいだろ?


A:…


A:っぐ…ぐすん


B:おいおい、身体の割に泣き虫だな


A:うるせえ…


A:…また来てもいいか?


B:いつでもきな






Chapter02


ガラガラ…


A:…


A:何作ってんの?


B:卵焼きだけど…


B:どうした?


A:うるせえ…


B:また喧嘩か?


A:…うるせえ


B:うるせえだけじゃなんもわからねえだろ?


B:少しずつでいいから、な?


A:…


A:クラスのやつ…俺のこと避けるんだよ…


B:なるほどな


A:頑張って話しかけるんだけど…なんか怯えてて…


B:お前顔怖いもんな


A:な…


B:顔怖いっていうか、仏頂面なんだよなあ


A:そ、そんなこと言われても…


A:なんもないのに笑顔になんてなれねえよ…


B:ふむ、なるほどな…


B:えいっ


パクッ


A:!?


もぐもぐ…


A:あ、甘くて美味しい


B:そうそう、その顔


A:なっ…


B:ははは!できるじゃねえか!それなら大丈夫だ!!


A:ぐぬぬ…


B:行ってこい、ダメでも俺が慰めてやるから


A:…


A:うん…


A:ありがとな


ガラガラ、バタン


B:…


ズキッ


B:てて…






Chapter03


A:B〜、来たぜ〜


B:お、元気そうじゃねえか


B:その分だと…


A:ああ、少しだけど、話せる人増えたよ


B:よかったな


A:それでさ、相談なんだけど…


B:ん?どうした?


A:昼飯さ…みんな弁当なんだよね…


B:うち学食ないしなあ


B:あれ、お前はどうなんだよ?


A:コンビニ…親、忙しくて…


B:自分で作ればいいじゃん


A:いやいや…そんな色々作れねえよ…


B:結構簡単なんだけどな…


B:そうだ、ちょっとこっち来い


A:え?


B:一旦深呼吸


A:う、うん


スー、ハー


B:はい、包丁


A:え、え


B:手はにゃんこの手


A:あ、はい


B:ここに切り込み入れて…


B:そう、後はフライパンでさっと焼けば…


A:おお…!!!タコさんウィンナーだ!!!


B:な、簡単だったろ?やってみたら


A:…


A:確かに…


B:最初から全部できる必要なんてねえんだよ


B:簡単なことからやっていけば


B:それにお前…タコさんっていうのな


A:あ…


B:ははは、可愛い所あるじゃねえか!


A:せ、先生だってにゃんこの手って!!


B:ん?言ったが…何か?


A:ぐぬぬ…


A:なし!今のなし!!


B:はいはい、分かった分かった






Chapter04


B:そうそう、手を三角の形にして…


B:ああ、米とりすぎだって


A:で、でかいほうがいいかと思って…


B:何事も適度がいいんだよ、ほら、貸してみ?


ドキッ


B:なんだ、どうした?


A:な、何でも…


A:…


A:ねー、B


B:ん?


A:なんで家庭科の先生になったの?


B:なんでって…


B:まあ、お前ならいいか


A:?


B:俺な、早くに両親をなくして、親戚に引き取られたんだよ


A:え…


B:あ、別にその家で何かあった、とかじゃないぞ?


B:ただ、みんな忙しくて…朝も夜も、ずっと一人で飯食べてたんだよ


A:…


B:それが寂しくてな…ある時、親戚の分の朝ごはんを作って置いといたんだよ


B:そしたら本当に喜んでくれてな…久しぶりの団欒だったよ


B:家族みんなで食べる幸せ、そういうことを教えられたらいいな、と思ってな…


A:先生…


B:ははは、湿っぽくなっちゃったな


B:よーし、できた!


B:これで明日の準備は万端だな!


A:…


A:俺も先生みたいになりたいな…


B:ん?なんか言ったか?


A:なんでもねえよ!


ズキッズキッ


B:っつっ…


A:先生?


B:いや、何でもない


B:明日、楽しみだな


A:うん!






Chapter05


A:先生お待たせ!晴れたね!


B:おー、行くぞ〜


B:うっ…


A:先生?


バタリ


A:先生!先生!!


—-----------------


ガラガラ


A:先生!!


C:ちょっと君、もう少し静かに…


A:うるさい!先生!先生!


バタン


—-----------------


C:君は付き添いの子だね


C:大丈夫、手術は成功したよ


A:よかった…


C:だがね…


A:先生!無事でよかった…


B:えーっと…


B:初めまして、どちら様…ですか?


A:え…?


C:君、こっちに来なさい…


C:学校の生徒さんかな、本当は言ってはいけないんだが…


C:彼は脳に腫瘍があってな…


C:幸い害のあるものではなかったが…


C:倒れた時の衝撃で…記憶喪失になっているんだ…


A:そんな…


A:いつ戻るんですか!?


C:それは…


C:すぐかもしれないし…


C:ずっと戻らないかもしれない…


A:なんで…


C:今日は帰りたまえ、君も疲れているだろう


C:ここで君まで倒れたら、彼が悲しむだろう


A:はい…


A:また…来てもいいですか…?


C:ぜひ来てくれ、記憶を思い出すきっかけになるかもしれない






Chapter06


A:先生!来たよ〜


B:また来てくれたんですね


A:今日学校で…


—-----------------


A:それであいつがさ〜


B:A君


A:先生?


B:僕のことはもういい、君は学生なんだろう?


B:もっと自分のために時間を使うべきじゃないのか?


A:な、な…


A:なんでそんなこと言うんだよ!


A:…今学校が楽しいのも、全部、全部、先生のおかげなのに…


A:…先生がいなくなったら…俺…


B:帰りなさい、そしてもう来ちゃだめだ


B:…君はまだ若い、僕なんかいなくても大丈夫だ


A:…


A:先生の馬鹿!!!


ガラガラ、ダダダ


B:……これで


B:……これでよかったんだよな?


ツー


B:…あれ、何で…


—-----------------


A:くそ、くそ、くそ!!!


A:なんで…


A:俺…先生に…何も…返せてないのに…


A:先生が…してくれたこと…


A:…


A:そうだ…


A:これが駄目だったら…


A:いや、先生なら、きっと…






Chapter07


ヒョコ


A:先生…


B:…君、来ちゃ駄目だと…


A:これで最後にします


A:これで最後にするから…


A:これ、食べてください


B:…これは…お弁当?


A:そうです


B:……


パカ


B:…おお…


B:おにぎり…少し大きすぎやしないか…?


A:それ、前にも同じこと言ってた


A:色々話してくれたよね…家族のこと、先生になった理由


A:俺決めたんだ、先生みたいになるって…


B:Aくん…


A:ほら、次!


B:ウインナーは…タコ型か、可愛いところあるじゃないか


A:先生だってにゃんこの手とか言ってた癖に


B:私が…?


A:うん、全然恥ずかしがってなかったけど


B:…私が…?


A:あ、赤くなってる!


A:先生も恥ずかしかったんですね


B:う、うるさい、次だ次


B:卵焼きは…半熟甘めで美味しい


A:まだ先生みたいに上手くは作れないけどね…


A:俺が悩んでた時、食べさせてくれたんだ


A:これ食べると、自然と笑顔になっちゃう


A:いきなり口に突っ込むのはどうかと思うけどね


B:…


A:最後にこれ


B:…味噌汁…?


スンスン


B:これは…


ズズズ


A:そう、先生と僕の故郷の味


A:そして先生が最初にくれたもの


B:…


A:これで全部


A:楽しい学校生活とこの4つの料理


A:全部先生がくれたものだよ…?


A:だから先生…


A:お願い…


A:好きなんだ…


A:戻ってきてよ…


B:…


スッ


ポンポン


B:はは、少しは成長したと思ったが…


B:まだ泣き虫のままみたいだな


A:先生…?


B:ありがとう、そしてごめんな、心配かけて…


A:先生…!!先生…!!


A:ううん、俺先生のこと信じてたから!!!


A:あ、俺お医者さん呼んでくる!


タッタッタ


B:本当に…ありがとな…






Chapter08


A:先生、どうかした?


B:色々思い出してな…


B:てか、おい、もう先生じゃ…


A:いいじゃん、俺にとっては今も先生なの!


B:ったく…


A:着いた〜!!綺麗な桜…


B:満開だな


A:さてと…マット敷いて…お弁当は…


A:じゃーん!!作ってきました〜!!


B:おお、美味しそうだ


B:…


B:明日からお前も先生か


A:えへへ、頑張ったもん


B:ん?ちょっと緊張してるんじゃないか?


A:え…そう…?


パクっ


B:ほら、笑顔笑顔


A:も〜!!!いきなり…


B:まあいいじゃないか


A:じゃあ…一緒に


B:ああ


A&B:いただきます


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