客電消してよ委員会

「観客として演劇を見に行くのが苦手だ。自分が大声を出してぶちこわしにしてしまわないか心配だからである」というような事を言っていたのは中原昌也さんだっただろうか?
“中原昌也 演劇”でサーチしたけどヒットしなかったから、もしかしたら別のひとかもしれない。
先日はじめてよしもと漫才劇場に行って、この言葉を思い出すこととなった。
 
 
好きなコンビの主催ライブを見に、初めてよしもと漫才劇場に行った。
そのライブは21時からの公演で、21時公演あるあるで客の入りもわりと控えめであった。
さらにコロナ禍で完全指定席のため、わたしの席は3列目であった。
 
ライブが始まって、客電ONのまま舞台が明転し「どー-もー-」と主催の2人が入場してきたとき、
「これはまずいかもしれないぞ・・・」と思った。
何が「まずい」かというと
「客席が明るすぎる…」
「近すぎる…」
「漫才劇場のキャパに対比して舞台・客席全体の雰囲気が小劇場すぎて違和感ありすぎる…」である。
 
この小劇場の感じをたとえると、東なら新宿Fu、西ならZAZAハウスである。
そのくらいのでかさでちょうどいい塩梅なのをリッパな演芸場で決行するため、2人で行ったカラオケで超パーティールームに通されたときのような「なに、これ!?」みたいな、自分以外の、周りの空気がだぶつくような落ち着かなさがすごかったのです。
 
 
あと、明るかったなあ~。そんで、近かった~~~~。
わたし、お笑いを見るときはお弁当を食べるときのようにたのしみたいのです。
お弁当を食べようというとき、お弁当をくるんでいる薄いひらひらした布をほどくでしょう。それをほどきながら「さあ食べよっ」とにわかにスイッチが入る。
その布のように、舞台を見るときも1クッション置きたいのです。
「さあここからアッチ(舞台)とコッチ(客席)で分かれますよ、舞台が始まりますよ」という1クッションが欲しいのです。
わたしにとって、お笑いを見る時そのクッションの役目を果たすのは客電の消灯なんだけど、明るいまんま始まっちゃった。
 
 
「いやぁ始まりましたね~。初めて来たよーっていう方?」
オープニングトーク、あっちは“ZAZA”の声量なんですよね。でもこっちは“マンゲキ”なんですよね。ガバガバなんですよ。客席もビカビカ(光量)だし。
 
そして、めっっっっちゃ近い。
この近さもクセモノで、「自分は“アッチ”と“コッチ”どっちにいるんや!?」と混乱してしまったのである。
暗転さえしてくれたら、席が近くても“アッチ”と“コッチ”の線引きがちゃんとなされてくれると思うんだけど・・・。
 
そんな事考えて「ヘン、ヘン…」と思っている間にどんどんトークは進行していっちゃう。
で、トークの中にたまにナチュラルな沈黙とかがあると怖いんですよ。“ZAZA”キャパでは「スン」程度の沈黙って漫才劇場だと「ド~~~~~ン」なんだから。
 
そうなるとこっちは“アッチ”と“コッチ”のはざまにいるものだから、脳みその中で『喋って場をつながないといけないのではないかというアッチ(舞台)側の無意識』と『やめろ!そんなことをしたら恐ろしいことになるぞ、というコッチ(客席)側の正気』とのどつき合いが始まりますしね。
大きさでいうと前者は超小さくて、正気のほうが圧倒的にデカいんだけど、本来観客にはアッチ(舞台)側の意識なんて“無い”のがほんとうですからね。
「喋っちゃうかもしれない」というわずかな芽を潰すために必死だったんです。
 
そうこうしていたら「それでは1組目まいりましょう、カベポスターです!」と漫才が始まってしまって・・・!
で「はぁ良かった、これで思考のベール(客電OFF)がかぶせられるわ…」と安堵したら、なんと、漫才劇場って漫才のときは客電つきっぱなしなんですね!?!?

なんで・・・?なんでなん・・?
やっぱり、「漫才ちゅうもんはな、お客さんがどんな表情(カオ)してるんかよ~う見て、あんじょうやらなあきまへんデ」みたいな師匠の掟てきな?あれなんでしょうか・・・?
baseよしもとのときは消えてた気がするんですけど…?記憶は定かではないのですが。
 
とにかく、「喋っちゃうかも」の芽を潰せないままに漫才が始まってしまったから、もう、戦々恐々である。
『オープニングトーク』の喋っちゃいけない度が100%だとしたら、
『漫才中』の喋っちゃいけない度は100000%である。
『漫才中』の喋っちゃいけない度が100000%だとしたら、
『カベポスターさんの漫才中』に喋っちゃいけない度は100000000000%である。
カベポスターさんの漫才は、ゆったり座って「ほっ。あはは」と笑いたい、そうやって笑ってる自分を十年先も予想できます、というような上品で古びない正統派漫才である。

その最中、やおらスックと立って声を?上げる・・・?


「いまお前は100000000000%の最中におんねんで。さっきあんなに怖がっとったんでも100%やのに、大丈夫け・・・?」

私の中の、喪黒福造みたいな格好をした國村隼似のオバケが囁く。

もうわたし、いつのまにか針のムシロである。
ああ怖かった。
なんでこんな思いして漫才見な、あかんねん。
 
カベポスターさんのほうもまさかこんなヤバい爆弾みたいな客が前方席にいるなんて思いもよらないだろう。
漫才、おもしろかったのに。

もっとじっくり楽しみたかった。
 
客電、客電さえオフにしてくれたら!

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