EAT ME 【第2話】


モノローグ
むかしむかし、あるところに1人の女の子がおりました。その女の子は「お前は醜い」と言われ続け、孤立していきました。そんな時、彼女を変えるような出来事が起こりました。それは1本の映画、「マイ・フェア・レディ」。町娘が素敵な女性へと変わっていく姿に憧れ、いつしか自分もそんな人になりたいと願い、その女の子は外の世界へと目を向けるようになるのでした……。

ロケバス

京子 さぁて、お話を聞いていきたいところなんですが……誰からがいいですか?
横島 え、挙手制?
京子 誰から話を聞いても別に変わらないし、ここにいる人を疑ってるのも変わらないし!
全員 ……
京子 で、誰からいきます?

坂木が手を挙げる。

京子 お!ファーストペンギンですねぇ!
坂木 ファースト、ペンギン?
京子 ほら、ペンギンって飛び込む時、1羽が飛び込まないと飛び込まないでしょ?それを先陣切って飛び込むのがファーストペンギンって言うんですよん。
坂木 はぁ……。
京子 じゃあ、今が16時だから……あ!今日、ここに来た時からの行動を教えてください!

そこへ葉が戻ってくる。

葉 時間見た意味無いでしょ。
京子 あら、早くない?
葉 意外とすぐに連絡が取れましたので。
京子 それなら、なにより。
葉 それで、坂木さん?でしたよね?望さんのマネージャーの。
坂木 ええ、そうです。
横島 望さんが倒れた時に発見されたのも坂木さんです。
葉 そうなんですか?
坂木 ええ、いつもだったら休憩中に電話するとワンコールで電話に出るのに、今回は出なくて。
京子 それで、心配になって見に来たら……
坂木 息苦しそうに倒れていました……。
横島 坂木さんの望さんを呼ぶ声で私達が来たという感じでして。
葉 そうですか。
京子 それじゃあ、今日の行動を!
坂木 今日、ここに来た時からですと、まず近くのホテルから望と一緒にロケバスに乗って、ここに着いたのが7時30分ぐらいでした。
京子 あら、朝早くから。
横島 撮影が10時予定で、演者さんの入り時間が8時なので……
京子 なるほどなるほど。それで、10時までの間は何を?
坂木 基本的に望と次の仕事のスケジュール確認と一緒に朝食をとっていました。
京子 撮影が始まってからは、何を?
坂木 主に営業先への売り込みへ。ただ、私自身は出向けないので電話での営業ですが。
葉 電話の履歴は残っていますか?
坂木 もちろんです!先方から、電話があったのかととぼけられないように残しています。
京子 おぉ、やり手だ……。
葉 履歴を見せていただくことは?
坂木 大丈夫です。

坂木、右のポケットからスマホを取り出す。

坂木 あ、こっちじゃない。

もう一方のポケットからスマホを取り出す。

坂木 失礼しました。こちらです。
京子 スマホ、2台持ちなんですか。
坂木 こっちは社用携帯でして。区別がつくよう、なるべく左右わけて入れるようにしてるんです。
葉 ……確認しました。それぞれの社名入りの履歴残っています。しかも、30件。
京子 そりゃ、すんげぇ件数ですなぁ。
坂木 私はどうしても望にチャンスを掴んで欲しいんです。小劇場で見た、望が輝いていましたから。
京子 ……そうですか。
葉 でも、電話だけだとしてもそんなに多くの時間はかからないですよね?
坂木 後は、望の演技をチェックしていたりですかね。彼女は、いつもどうだったかを聞いてくるので。
京子 さすが、のぞみん。努力家だぁね。
葉 あっ。そういえば、鏡が無くなった時間帯って……
京子 へっ?
葉 え。
京子 あっ、聞いてない。
葉 は?
京子 あの、縦縞さん?
横島 横島です。
京子 鏡が無くなった時間帯って……
横島 すみません。それが私たちにもわからなくて……てっきり、村の方に聞いてこられたのかと。
京子 ……あの、さ。よーちゃん。悪いんだけど……
葉 ……ちっ。行ってきます。
京子 ねぇ、今舌打ちした!?舌打ちしたよねぇ!

葉、しぶしぶ聞きに行く。

京子 まあ、鏡が無くなった時間帯はおいおいわかるとして……問題は、のぞみんが倒れているのを発見した時間帯より前に皆さんが何をやっていたか。坂木さん、あなたはのぞみん、望さんに電話をかけたと言っていましたが、それは何時頃ですか?
坂木 えっと……

坂木、私用のスマホを取り出す。

坂木 14時30分頃です。
京子 その時、あなたはどこへ?
坂木 ちょっと近くの喫煙所に……
京子 あら、タバコ吸われるんですねぇ。
坂木 まぁ、息抜きに。
京子 それで、そこからここまではどのぐらいかかるんですか?
坂木 確か10分程度だったと思いますけど……
京子 ふーん、そうですか。
坂木 その後については、先程横島さんが言ってくださった通りです。
京子 なるほど。それじゃあ、次の方!
横島 では、私が。私は7時頃に他のスタッフと一緒にここへ。撮影準備をして、今日のスケジュールなどを確認していました。
京子 その時に、望さんと会ったりなどは?
横島 入り時間の時に会いました。撮影スケジュールの確認をしに。
京子 その後、撮影が中断したのは何時頃でしたか?
横島 確か、中盤のシーンを撮っていた……

横島、カット割り台本を見せる。
指には絆創膏が貼ってある。

横島 この辺りなので、11時から12時頃だったと思います。
京子 そうですか、じゃあ間を取って11時30分頃だと……
横島 あの、どうかされました?
京子 撮影が中断した時から逆算すれば、鏡が無くなった時間帯、わかったじゃん……。
横島 ……あっ!そうですね!

京子、葉に電話する。

京子 よーちゃん、マジでごめん。鏡が無くなった推測時間、逆算できたわ。
葉 どうせ、撮影が中断した時間帯聞いてピンと来たんですよね?
京子 ……その通りでやんす。
葉 本当に、あなたって人は……
京子 すみませんでした。
葉 もう、こっちに着いて聞きましたけどね。
京子 さすが、足だけは早い。
葉 余計な一言をどうも。まあ、おかげでいいことが聞けましたよ。
京子 本当!?さすが、あたし!それを見越してだったか。
葉 ……私、戻らなくていいですか?
京子 すみません、戻ってきてください。

電話、切れる。

京子 えーっと……どこまで話しましたっけ?
横島 撮影が中断していたってところです。
京子 そうだったそうだったぁ。中断した後は?
横島 監督と一緒に、撮影スケジュールの練り直しと万が一の場合の撮影場所の確保をしていました。
京子 おふたりは一緒の行動を?
横島 いえ、途中監督が「マイナスイオン」とおっしゃったのでそこからは別行動で……
京子 ん?マイナスイオン?
横島 はい。それで……
京子 えっと、頭で理解できないことがおきてるなぁ。
横島 そこは、お察しいただければ。
京子 そういえば、さっきから全然喋ってない!あのぉ、いまあなたは、疑われているんですよぉ?
監督 ……
京子 うーん、無言の圧を感じる。
横島 基本的にうちの監督はこんな感じなので。

監督、指を見せてくる。

京子 えっなに、怖いんですけど。
監督 血。
京子 血?
横島 あっ!監督、指から血が出てるじゃないですか!?手出してください!絆創膏貼りますから!
京子 大変だねぇ……
横島 全く、もう。
監督 振動。
全員 えっ。

葉、息切れしながら戻ってくる。

京子 ……よーちゃん、お帰り!待ってたよぉ!
葉 どうせ、あなたが、人の話聞くのに、飽きてきた頃、なんかじゃないかと思って、急いで戻ってきましたよ。
京子 さすが、よーちゃん、その通り!じゃあ、後よろしくぅ!
葉 ……それでは、鏡が無くなった経緯ですが……

恵が息切れしながら来る。

恵 あの!
葉 恵ちゃん。
恵 私から、お話させて、ください!
京子 ……あらぁ、なんか隠してたのねん?
葉 ほら、黙って聞く。
京子 はぁい。
恵 実は、あの鏡……私達が隠したんです!
坂木 どういうこと?
恵 私達は、毎朝あの鏡が祀られている場所に手を合わせに行くんです。その時に子供達が喧嘩をしていて、押しあった際に壁にぶつかって落としてしまったんです。
横島 でも、あの村長は……
恵 実は、今朝はおじいちゃんの具合があまり良くなくて、私達だけで行ったので、おじいちゃんは知らないんです。
坂木 それでご存知なかったのね。
京子 よくわかったねぇ。
葉 私が聞きこみに行った時、破片が落ちていましたので。
京子 それでか。さすがの観察眼だぁ。
恵 みなさんの邪魔をする気はなくて、でもおじいちゃんが大切にしていた鏡でしたから……私、言えなくて。
葉 起きてしまったのはしょうがないことよ。
京子 それで、結局その鏡はどうしたの?
葉 近くに埋めたらしいのですが……
京子 が?
葉 足りないんですよ。
京子 何が?
葉 鏡の破片。1つ足りないんです。
恵 元通りとはいかなくても、ちゃんと直しておじいちゃんに謝りたかったのに……

京子の頭の中を今までの場面が巡る。

京子 ……あーそういう事か。
恵 え?
京子 いまのでわかったよ。誰が犯人なのか。
全員 え!?
横島 いまので!?
坂木 誰が、誰が犯人なんですか!?
監督 ……
京子 望さんに鏡を見せた犯人、それは……
恵 それは……?

2話~完~

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