見出し画像

『眠り展:アートと生きること ゴヤ、ルーベンスから塩田千春まで』感想覚書

東京国立近代美術館で開催された『眠り展』に行ってきました。

画像1

コンセプト展示を観るのが久しぶりだったのでめちゃくちゃ勉強になった~!というわけで感想覚書を綴る。メモなのですごく雑。

全体の感想

タイトルに眠りの概念が含まれている作品展示にとどまらず、キュレーターが「眠り」について深く掘り下げ独自の理解と解釈を得た上で展示を組み立てていたのが印象的。

多岐にわたる時代、絵画にとどまらない作品群を一つの展示としてまとめ上げる手腕がすごいと思った。
各章の冒頭に象徴的に飾られるゴヤのエッチング(※)と、第五章をまるまる割いてあった河原温が展示を作る上での主軸なのかな?という感想。

「眠り」をポジティブな行為として捉えた作品が限りなく少なかったのが気になった。キュレーターの嗜好なのか芸術家が得てしてそうなのかは定かではないが、眠りにそこはかとない不安や恐怖や懸念を抱くようなコンセプトの作品が多く、構成によっては「悪夢/白昼夢/眠りの恐怖」等の印象を受けた。

※ゴヤの版画集『ロス・カプリチョス』。この版画集から抜粋された作品たちが各章の冒頭に必ずあり、ゴヤを案内役として「眠り」の世界に入っていくような会場構成 とのこと

序章「目を閉じて」

目を閉じる行為によって「一方的に見られる」「一方的に見る」という不均衡の関係性が生まれる。目を閉じた人間の姿から「見ている側」のまなざしを感じ取ることができる点が興味深い。またその不均衡性に思いをはせた。

1章「夢かうつつか」2章「生のかなしみ」

自意識を閉じるという行為としての眠り(理性を手放し内面の深淵を覗き込むこと)、から始まって、目を閉じること=有意識からの乖離する境界線=死の隠喩としての眠りとつなげ、そこから生の悲しみ=眠りと目覚めの繰り返しによって死へと日々近づいていくこと、とした1章2章の流れは理解しやすかった。

饒加恩(ジャオ・チアエン)の《レム睡眠》が印象的。

3章「私はただ眠っているわけではない」4章「目覚めを待つ」

3章の「時代背景を絡めた眠りの描写」への流れがやや飛躍していて個人的には没入しにくかった。4章の「目覚めを待つ」眠りで展示されていた河口龍夫のインスタレーション(種子のやつ)自体は興味深かったがやはりストーリーにあまり没入できず。戦時美術やインスタレーションの造詣が浅いせいもある…

5章「河原温 存在の証しとしての眠り」

5章丸ごと割いてあった河原温について存じ上げなかったので調べたい。この展示、もしかしてこのアーティストを据えることをある一つの基軸にして考案されたのか…?と思うほどでもあった。やや唐突感。テーマとしては「存在の証しとしての眠り」だったが少し掘り下げないと意味が見えてこない。

いわゆるシュレディンガーの猫のようなコンセプトの作品シリーズ「デイト・ペインティング」の展示があり、その背景説明を読み「存在の証明」と「眠り」について考えさせられたが、作品そのものから感じ取ることはできなかった。(それは河原温の作品だけでなく近代美術全般に時折感じる。

説明不要ではなかなか真意や意義やエネルギーが伝わらない点がわたしは苦手である)
ただ、「存在の証明」としての行為の記録を”アート”に昇華するという試み自体は興味深く感じた。
しかし、眠り展のコンセプトと絡めて理解するのはわたしには難しかった。

終章「もう一度、目を閉じて」

まとめの尻切れとんぼ感がどうにも…!!終章、もうふた作品くらいあってもよかったのでは…!というかんじ、結構唐突に終わった。「もう一度、目を閉じて」という終章コンセプト、もう少し丁寧に描いたところが見たかった。多分キュレーターの意図するところの1/3も出ずに終わっていた気がする

その他感想

・各章の冒頭パネルやパンフの色調・フォントにこだわっていたのがよかった
→が、展示作品群が持つ雰囲気とはあまり合っていなかった気もする

展示デザイン:展示室は、設計デザインをトラフ建築設計事務所が、グラフィックデザインを平野篤史氏(AFFORDANCE)が手がけた。カーテンや布を思わせる展示空間や、不安定な感じの文字デザインなど、起きていながら「眠り」の世界へいざなうような、さまざまな仕掛けに着目してみてください。

・割とコンパクトな展示なのがよかった
→コンセプト展示は作者や作風に脈絡がなく見ていて疲れやすい特徴を持つのでコンパクトなのは良いと思った

・もう少しフロイトやユングなど夢分析をしている学者関連のアートがあってもよかったのではと思った。
→難しくなり過ぎる恐れもあるが、「時代背景と眠りの描写」以降あたりの展示が間延びしていた印象があるので、あの辺に心理学派生のコンセプトを持つアートを加えたら深みが出て面白かったのではないかと思ったりした

・「持続可能性」(sustainability)も重要なテーマだったらしい。
「眠り」は私たちに欠かせないものであり、繰り返されるもの。それとリンクする形で、少しでも環境の保全に配慮し、前会期の「ピーター・ドイグ展」の壁面の多くを再利用しています。とのこと


▽展覧会基本情報
展覧会名:『眠り展:アートと生きること ゴヤ、ルーベンスから塩田千春まで』
会場:東京国立近代美術館 1F 企画展ギャラリー
会期:2020年11月25日(水)~ 2021年2月23日(火・祝)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?