うちのねこ自慢

「にゃあ」
「なあに」
「にーあ。にゃん。ごろごろ」
 喉を鳴らせないからといって、言葉で「ごろごろ」いうのはどうなんだろう。かわいいから許すけど。

 古道具屋で見つけたごつい革の旅行鞄はこれっぽっちも実用的ではないけれど見た目は最高にかっこよくて、これだよこれ、とガラステーブルの下に置いたら雰囲気もしっくり馴染んでくれた。
 海外転勤になった兄夫婦のマンションに留守番兼管理人代わりに住む条件での格安家賃は魅力的すぎたけど、会社まで徒歩十二分という立地も有難すぎたけど、つい十日前まで実家暮らしだった新卒ペーペーのおのぼりさんに都内のデザイナーズマンションはお洒落すぎた。だだっぴろいリビングに実用性という概念と無縁な馬鹿でかいガラステーブル。雑誌の二三冊なら放り出しておいても許されるとしても、気を緩めたら一気に耳かきやらウェットティッシュやらで雑然としてしまうテーブルを眺めて、これは物入れが必要だ、それもできれば収納収納してなくて、インテリアとして置いておけるよさげなやつ、と、近所の探索も兼ねて買い物に出た。最初に入った北欧家具の店にはぴんとこなくて、二軒目のお洒落雑貨屋もいまいちで、なんかこう違うなぁと思いながら二駅分くらい歩いていたら小腹がすいてきたので早めの昼飯にして。
 それからまた二分くらい歩いて見つけたちいさな店。羽がむき出しの古ぼけた扇風機の首から下げられた手書きの「OPEN」札に惹かれて店内に入ってすぐに見つけた。経年変化で飴色になった革の四角い鞄。内布はシルクサテンっぽい淡紫で、値札の数字は財布の中身を大幅に超えていたけれど、これも出会いだと自分に言い訳してばあちゃんに貰った就職祝いの残りを取りにいったん帰って、また戻ったら店主は鞄のベルトを閉めて店先に出してくれていた。キャスターもないでかい鞄をひきずって二駅分歩くのはまあまあ骨だった。
 そうして帰宅して、ガラステーブルの下に置いて悦に入っていたら。とんとんとん、とノックの音がした。
 ベルトをしっかり閉めた、鞄の内側から。

「ねこです。よろしくお願いします」
 三つ指ついて挨拶された。鞄の中に入ったままで、三つ指の先を鞄のへりにひっかけて。正しい作法ではないと思うけど。ああでもかわいい。かわいいから許す。こんちくしょう。

 そうして僕は、三日前から猫を飼っている。白いエプロンドレスのよく似合う、髪の長い、かわいい猫。

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