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吉本ばなな『キッチン』

『キッチン』を読んだ。小さい頃から家に単行本があって、吉本ばななは母が好きな作家の一人だった。表紙に目を奪われながらも手に取ることはなかったその本を、齢21になってようやく読んだ。 愛する人がいなくなっても淡々と続いていく生活のことを思うと胸がぐっと苦しくなる。私はまだそれを経験したことがないから。そして、それがこれから迫ってくるもので避けられないと分かっているから。 あまりに大切なものをなくしたとき、人はどうにか心を保つためにその人に同化しようとする。自分の中になにかそ

    • 在来線の車窓から

      電車が好きだ。 東北の田舎出身のわたしにとって、電車とは特定の地域を行き来するだけのワンマンカーのことだった。しかも1時間に1本あったらラッキーで、駅まで息を切らしてマラソンしてでも絶対に逃せないもの。 都会に出て地下鉄を知り、環状線を知り、どこをどう縫って行けば目的地に辿り着くのかわからないような路線図と睨めっこするのも好きだ。 ビバ・都会の公共交通機関、その混沌とした煩雑さが心地良い。 人の波に流されてしまいそうな少しの息苦しさだけは、いつになっても慣れないけれど。 電

      • ドラマストア - 手向け

        ドラマストアが解散した。 「君を主人公にする音楽」を掲げた大阪発の4人組ポップロックバンドで、出会った2018年から彼らはずっとわたしの側にいた。オープンキャンパスでひとり東北から関西へ向かう夜行バス、不安な心に寄り添ってくれたのは紛れもなくドラマストアだ。大阪に着いて降り立った瞬間の明け方の空と聴いていたあの曲を忘れることはないだろう。 SNSの更新、新譜のリリース、ツアー、YouTubeへの楽曲のアップ。心地良い温度の循環がずっと続くと思っていた。 ここで一つ、どうして

      吉本ばなな『キッチン』