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会場にはやっぱり魔物がいた。

長女の中学受験、初戦が終了した。

持ち偏差値から15ポイント下の学校。塾の先生からも「まず大丈夫ですから、自信をつけるために、本命の練習で受けてきてください」と言われていた。過去問の相性も良く、8割がた取れてる。倍率も高くないし、とにかく楽しんで!と当日を迎えた。

当日。どんよりとした曇天、むちゃくちゃ寒い。念のため1時間前に到着したのに、すでに駐車場は埋まりつつあった。車中では夫と努めてバカ話をして、とりとめのない緩い話を聞かせたのだがバックミラーに映る長女は顔面蒼白。唇は真っ青だ。

マズイ。めっちゃ緊張してる。マスクからの呼気でメガネが真っ白だ。

なんとか受付を済ませ、ほかの受験生の母たちとともに、小さな背中を見送った。

三時間後。天気は曇天からさらに冷たい雨に変わっていた。ぞくぞくと会場から出てくる子どもたち。例外なく全員が下を向いている。寒さのせいか、小刻みに震える子。迎えに来た母を見つけて張り付いた笑顔をなんとか見せた子。長女が来た。少し顔をあげて「どうしよう。できなかった」とメガネの向こうの瞳は涙の蒸気で曇っていた。

試験会場には魔物が住んでいる。よく言われる話である。

得意な理系のテストでは寒さと緊張で指が震える。止まらない。正気を取り戻すのに5分。だめだ。算数を解く時間がない。文系は今まで出たことがない自治問題が出てる。ニュースなんて観てない、TVなんて、受験生だもの、観てないよ!今までたくさんの模試を受けて来たけど、どんなテストより難しい。先生!滑り止めって言ったじゃない!つるつるに滑ってるじゃない!

その日、わが県では多くの6年生が初めての入試に挑戦した。

緊張で吐いちゃった子。試験中に泣き出す子。ズボンのポケットに入れたカイロが熱くてもポケットに手を入れたらカンニングと勘違いされるかも。と我慢して低温やけどを負った子。集団面接で志望動機を聞かれたら5人全員が伝言ゲームのように最初に発言した子と同じ内容にしちゃった子たち。退出するとき、各机の他人の消しカスを集め出して監督官に止められる子。

12歳の初戦の結果はあと3日。

結果はどうあれ、二戦目があり、最終的には熱望校の試験が来月に待っている。3年間の努力がどんな形で花咲くかはわからないけど、悔いなくやるというのは12歳の子どもにとって、とっても過酷なチャレンジだということだ。


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