頭がぼーっとするんだ。

頭がぼーっとするんだ。
もう何も動く気がしないほどに。
何かを考えようとすると頭の中にノイズが押し寄せて、
考えたいことを覆ってしまう。
多分僕は考え事をしようとする時、まず頭の前の部分、前頭葉に意識を集中するんだけど、そこに集中した途端に眼頭のところから一気にぼーっとする成分が分泌されて、それによって何も考えられなくなる。

波が聞こえる。海だ。
真っ黒な水が絶えず僕の足元まで押し寄せる。
いつか少しだけこの波が上ってきたら、僕の顔にまで届いてしまうだろう。
静かなところで星を見るのにも場所を選べばよかった。
星を見るのには海辺がいいと聞いた。
周りに建物がなくて、光も遮るものもないから綺麗に見えると。
実際今目の前にあるこの空は、これまで見たことないほどに光を放つ無数の星々が次は僕をみてほしいと主張している。
僕に星座を作ることができるような創造性はない。ただ動かぬ頭で光を転々と眺めるだけだ。
この時期の海水は冷たい。北海道にいたころの11月と言えばもう雪の降り始めるような冬だったがここの11月はまだ秋の丁度良い気温の日が多く油断していた。
思考ではなく五感で感じるそれだけが情報として頭に流れてくる。
冷たい水や海風。そして風が連れてくる塩の香り。視界に広がるまぶしい星の光。背中にはざらざらとした砂の感覚。それだけが今僕がここで感じていることだった。
僕は思考ではなく感覚に脳を使っている。心なしか頭の中心を使っているような気がする。

頭がぼーっとするんだ。
もう何も動く気がしないほどに。
でも、波が寄せては返すたびに少しずつ上へ登ってきているのを体で感じている。
頭は考えることができないけれど体は感じている。
登ってくる海水と冷気を。
頭は考えることができないけれど眼には見えている。
少しずつ近づいてくる星々を。
今日で地球が終わると言うならば、またここに来よう。
ここにいると、僕という存在に直接触れられる気がする。
少しずつ登ってくる海水と、少しずつ降りてくる星々を体で感じながら
僕の意識は落ちていく。思考は途絶えていく。


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