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タリバンが首都制圧後、最初に行ったこと。 風刺画から見る中東情勢#35

アフガニスタンの情勢にまつわる風刺画を前回紹介しましたが、今回もいくつか風刺画を紹介します。

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出典:Twiter/ @aleqtisadiah / 20210901

サウジのAleqtisadiah紙掲載のFahad Al-Khamisi氏の作品。

「アフガニスタン」と書かれた爆弾。それに火をつけるのはアメリカ、自由の女神の松明。そして、逃げ去る、、。

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出典:Twitter / @aawsat_News / 20210901

Al-sharq Al-Ausat紙、Amjad Rasmi氏の風刺画。こちらもアフガニスタンは「爆弾」として描かれ、それを取り合う「イスラム国」(左)と「タリバン」(右)。サッカーをしているのでしょうか。そして、コートから逃げるのは「USA」。「アフガニスタン=爆弾」、「逃げるUSA」という点において、1枚目と同じように描かれていますね。

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出典:Twitter / Cartoonist Yaser Ahmad @cartoonist_a 

つづいて、Yaser Ahmad氏の風刺画。アフガニスタンから去り行くUSAのヘリ。ばらまかれるカレンダーとお金。左上には「20年と850憶ドル、風と共に去りぬ」と書かれています。

それだけのTime&Moneyを費やしたものの、結局何も変わっていない状況となってしまっております。

とはいえ、20年間アメリカが何もしていなかったわけではないですが、タリバン復活の根本的理由をクリティカルに指し示しているジョーク(ヌクタ)を見つけました。(もともとの出所は明らかでありませんが。)

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訳:サイ―ディー人(上エジプト人)が政治を話してこう言った。「良かったのは、アメリカがタリバンを批判して、マドラサを批判しなかったことだ。」

もともとタリバン(学生)は、その名の通りマドラサ(神学校)の学生運動から始まりました。誤解を招くリスキーな発言かもしれませんが、顕著な中東関係者の方も指摘しているように、タリバンが行っている行為は、イスラム教スンナ派教義を忠実に遵守することに起因しているといった指摘があります。例えタリバンを撲滅したとしても、根本的な部分に変化がない限り別の同じような集団が出てくるだけだという指摘です。

ところで、このジョーク(ヌクタ)で話している「サイーディー人(上エジプト人)」について少し話します。エジプトの首都カイロよりも、もっとナイル川上流に住んでいる人々のことで、首都に比べれば田舎的な暮らしをしている人々です。アラビア語のジョーク(ヌクタ)を検索すると、この「サイ―ディー人」の発言に対して笑う(馬鹿にする)ジョークがよく見つかります。映画やドラマなどでもサイ―ディー人はおバカキャラ?のアイコニックな存在として描かれます。起源としては、田舎出身のサイ―ディー人が首都カイロに来て、首都の現代的な生活様式に直面した際に、見当はずれな発言をしたのをカイロの人々が笑ったといううところから、サイ―ディー人はそういったおバカな?存在として描かれるようになったのではないかという記事がありました。ちなみにカイロに来たサイ―ディー人が、ピラミッドを見て「ああ、これは大きな三角チーズだ」と発言したというジョークもあるようです。(参考したアラビア語記事:なぜエジプト人はサイ―ディー人についてジョークを言うのか?)

いろいろと話は逸れましたが、本日のメインテーマはタイトルにもある「タリバンが首都カーブル制圧後に最初に行ったこと」です。次の動画をご覧ください。彼らが大統領オフィスを占領後に、大統領のデスク前で行ったのは、コーランを読誦することです。


非常に印象的、象徴的、歴史的な瞬間。正直、読誦している方の声は美しい。周囲の武器を構えた人たちの中には、泣き出す人も、、、。この武器をもった人が多くいる物騒な画面の中で響くそれとは対照的な声がなんとも不思議な気持ちにさせる。

ここで読誦された内容を見てみましょう。

ذلك هو الفوز العظيم

「あれは偉大な勝利だった。」
(これはコーランで6回繰り返し登場する、有名なフレーズ。)

そしてその後、コーラン110章「救助(アン・ナスル)の章」が続く。

بسم الله الرحمان الرحيم
إذا جاء نصر الله والفتح
ورأيت الناس يدخل في دين الله أفواجا
فسبح بمحمد ربك واسغفره، انه كان توابا

「慈悲あまねく慈悲深きアッラーの御名において」

「アッラーの救助と勝利が来て、」

「人々が群れをなしてアッラーの教え(イスラーム)に入るのを見たら、」

「あなたの主の栄光を褒め称え、また御許しを請え。
本当にかれは、度々許赦される御方である。」

訳の参考:www.E-Quran.com

この110章の1節目の、勝利とはバドルの戦いを指しています。ムハンマド率いるメディナ軍が圧倒的に不利な状態から、相手のメッカ軍に奇跡的に勝利した、あの戦い。それが最初の聖戦(ジハード)、バドルの戦いです。

ムハンマドが勝利を収めた後、メッカの人々が次々とイスラームに入信する。まさにイスラームの歴史の幕開けの瞬間であったと言えるでしょう。

そしてタリバンが首都制圧後に最初に行ったのは、この「救助の章」を読誦することなのです。

この章で述べれているのは、「神の救助」、「勝利」、「人々の入信」。

タリバンの状況を考えれば、これ以上ないくらい状況にマッチした引用。
歴史的にも宗教的にも非常に強力な勝利宣言、建国宣言であるのではないでしょうか、、、。

それでは。

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