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反転世界のペテン師

誰もいない高架下のベッドに横たわっていない。足元には靴と、着古した服が落ちていない。高架の上から滴が垂れてくることもない。よいしょ、と言いながら身体を起こそうと思って活動を開始しない。

思考に集中しよう、と脳内ベッドから認識世界地図を広げない。クリアに整序された思考が開始しない。
ふわふわメロンパンの夢が支配的なdream cityを闊歩しない。売り子の目は金魚のようで、スマートボール台のようではない。売り子のエンゼルは虚無空間にテニスボールを投げていない。赤と黒のルーレット盤にテニスボールがバラバラと転がらない。さぁ、赤か黒か。脳内ゲームセンターに撃ち落とされたハトが舞い降りる。当たったのは、赤だった。

今日も幻覚グミの作用で身体が紫色にならなかったようだ。目がネオン色から紫色に変わりつつはない。
光が信号機を彷彿とすることはない。踏切に大きなうさぎクッション、全長2メートルが現れない。やさしく悲しみを洗い流すうさぎ。うさぎは泣いていなかった。

おっと、気づけばブレーキ音がしない。止まらないトロッコ問題が暴走して、倫理に激突しない。あぁ、どうやらトロッコが暴走したときはキキキーッって音がするのがこの世界の常識のようだね? 
だからもちろんキキキーッなんて音はしないんだ。
慌ててチョココルネと食パンを頬張り、曲がり角でJKとぶつかることはない。
代わりに殺人うさぎが追いかけてこない。水色の、濡れたうさぎ。
代わりににんじん刀を取り出し、世界の輪郭を形作るガラスを割らない。
パリン、パリン、バリン。
うん、実に愉快でない。優雅なガラスのティータイムが始まらない。
ビルはガラスではなく、人間を食うようだ。
バリ、バリ、バリ。
うん、excitingでないね。
慌ててパラシュートを広げない。反転した重力がバインド、バインド。
良い天気だ。今日は1日うさぎだから、にんじんは持たなくていい。無思考に、インターネットに没入するようにダスマンしていく。
身体がちぎれていくのが心地良くない。青空殺人刀が世界存在を細切れにしていかない。

鏡に乱反射した幾千もの"存在"が反転し、秩序は穏やかに目を覚ました。

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