見出し画像

【マーラー交響曲第2番《復活》②】第5楽章での復活!第1楽章へのアンサー!

こんにちは。ハモンドオルガンちゃんです。

今回は

マーラー《復活》第5楽章 第1楽章に対するアンサー楽章 

について解説していきます。

本日の目次はこちら(タップorクリックで飛べます)

第5楽章
第1楽章と対となる楽章

「聖なる受胎」

「聖なる受胎」とはマーラーが第5楽章のアイデアが浮かんだ時のことを言い表したものです。

1891年、マーラーは第1楽章〜第3楽章まで完成させていましたが、「死」を描いた第1楽章と釣り合うアンサーとしての最終楽章のアイデアが思いつかず、《復活》の作曲を一時中断してしまいます。

その2年後、1893 年にマーラーが敬愛していた指揮者、ハンス・フォン・ビューローが亡くなります。

そう、《復活》第1楽章の初稿的作品 交響詩《葬礼》を
「音楽として理解できない」と
めちゃくちゃにこき下ろした、
あの先輩指揮者 ハンス・フォン・ビューローです。

ビューローの葬儀に出席したマーラーはそこで合唱隊による詩人フリードリヒ・クロプシュトックの詩『復活』のコラールを耳にし、最終楽章のアイデアを閃きます。

これが「聖なる受胎」つまり「ビビッと来た」瞬間です。

元々マーラーには最終楽章に合唱を持ってくるアイデアがあったようです。
しかし、ここで大きな問題があります。

ベートーヴェンの壁 です。

合唱付き交響曲といえばベートーヴェン 交響曲第9番《合唱付き》(通称: 『第九』)です。マーラーは交響曲の最終楽章に合唱も持ってくるアイデアを長い間温めていたようです。しかし、やはりベートーヴェンの単なる真似事と捉えられることを恐れていました。

「私は、長い間、最終楽章に合唱をもってくるという考えを抱いていました。ただ、それがベートーヴェンの単なる模倣にすぎないと受け止められるのではないかと恐れ、何度も何度もためらってきたのです。」
(マーラーの友人宛への手紙より)

ベートーヴェン以後の交響曲作曲家(シンフォニスト)、特にドイツ語圏の作曲家にとっては交響曲の作曲は非常にハードルが高いものとなっていたことがここでも見て取れます。

第5楽章の歌詞 引用?オリジナル?

《復活》第5楽章の歌詞はクロプシュトックの詩『復活』から引用だと度々紹介されますが、ほとんどはマーラー自身によって加筆されたオリジナルの歌詞です。クロプシュトックの『復活』の引用は冒頭の合唱まで。原文5連の内で第2連目までしか引用されていません。

ちなみに、マラ2の通称《復活》はクロプシュトックの『復活』が使われていることで呼ばれているもので、マーラー自身がマラ2を『復活』と呼んだことはありません。

実際に歌詞を見てみる

対訳

歌詞の全貌と対訳についてはこちら。お好きな方をどうぞ。
»リンク: マーラー《復活》対訳 音楽学者 広瀬大介さんによる対訳
»Wikipedia マーラー交響曲第2番《復活》 
対訳は7. 歌詞の項

クロプシュトックの詩『復活』の第1連目・第2連目ははじめに合唱とソプラノで歌われる部分にほぼそのまま引用されています。ここは基本そのまま引用ですが、微妙に歌詞が書き換えられています。

マーラーのオリジナルの加筆部分は

アルトソロの
「O glaube, mein Herz, o glaube(信ぜよ、我が心よ、信じるのだ)」
以降すべてです。

クロプシュトックの詩原文とマラ2《復活》の歌詞を見比べると

「いや、ほぼほぼオリジナルやないかい!」

という声が聞こえてきそうですが笑
それくらいただの引用ではなくマーラーによるメッセージ性がかなり強い歌詞になっています。

歌詞

合唱とソプラノ
Aufersteh'n, ja aufersteh'n, wirst du,
mein Staub, nach kurzer Ruh!
Unsterblich Leben! Unsterblich Leben
wird, der dich rief, dir geben.

Wieder aufzublüh'n, wirst du gesät! ※2
Der Herr der Ernte geht
und sammelt Garben
uns ein, die starben. 」※1

※1 ここまでがクロプシュトック『復活』第1連・第2連をほぼそのまま引用
※2 wirst du gesät(お前は種蒔かれ)の部分は原詩ではwerd ich gesät(私は種蒔かれ)
※3 ここからマーラー加筆オリジナル部分↓↓

アルトソロ
O glaube, Mein Herz, o glaube ※3
Es geht dir nichts verloren!
Dein ist, ja dein, was du gesehnt!
Dein, was du geliebt, was du gestritten!

ソプラノソロ
O glaube,  Du wardst nicht umsonst geboren!
Hast nicht umsonst gelebt, gelitten!

合唱とアルト
Was entstanden ist, das muß vergehen!
Was vergangen, auferstehen!
Hör' auf zu beben!
Bereite dich zu leben!

ソプラノソロとアルトソロ
O Schmerz! du Alldurchdringer!
Dir bin ich entrungen!
O Tod! du Allbezwinger!
Nun bist du bezwungen!
Mit Flügeln, die ich mir errungen,
in heißem Liebesstreben werd' ich entschweben      
Zum Licht, zu dem kein Aug' gedrungen!

合唱
Mit Flügeln, die ich mir errungen,
werde ich entschweben!
Sterben werd' ich, um zu leben!
Aufersteh'n, ja aufersteh'n wirst du,
Mein Herz, in einem Nu!
Was du geschlagen,
zu Gott wird es dich tragen!

第5楽章でのアンサー

マーラーは第1楽章について

《ニ長調交響曲》(第1番)で主役を演じた英雄を、私は第1楽章で墓場へ運びます。汝(なんじ)はなぜ生きたのか?なぜ苦しんだのか?その答えを私は第5楽章で与えたのです」

と言っていました。

これに対し第5楽章では

「死」を克服して「復活」を遂げる

様子が描かれています。

マーラーは第5楽章について大略として次のように書いています。

荒野の中に次のような声が響いてくる。あらゆる人生の終末は来た。最後の審判の日が近づいている。大地はふるえ、墓は開き、死者が立ち上がり、行進は永久に進んでゆく。この地上の権力者もつまらぬものも ー王も乞食もー 進んでゆく。偉大なる声が響いてくる ー啓示のトランペットが叫ぶ。そして、恐ろしい静寂のまっただなかで、地上の生活の最後のおののく姿を示すかのように、夜鶯を遠くの方で聴く。やわらかに、聖者たちと天井のものたちの合唱が次のようにうたう。『復活せよ、復活せよ、汝許されるであろう。』そして、神の栄光が現れる。不思議な柔和な光が我々の心の奥底に透徹してくる。 ーすべてが黙し幸福である。そして、見よ、そこにはなんの裁判もなく、罪ある人も正しい人も、権力も卑屈もなく、罰も報いもない。…愛の万能の感情が我々を至福なものへと浄化する。」

これはマーラーが思い描いている怒りの日のイメージですね。

歌詞からピックアップしてみます。

O glaube, Mein Herz, o glaube
おお、信じるのだ、わが心よ、信じるのだ
→自分を信じろ

O glaube, Du wardst nicht umsonst geboren!
Hast nicht umsonst gelebt, gelitten!
おお、信じよ、おまえは空しく生まれたのではない!
空しく生き、苦しんだのではない!
→無駄に生まれたわけではない。無駄に苦しんできたわけではない。

O Tod! du Allbezwinger!
Nun bist du bezwungen!
おお、あらゆるものを征服する死よ、
いまやおまえは征服された!

Sterben werd' ich, um zu leben!
Aufersteh'n, ja aufersteh'n wirst du,
私は生きるために死のう!
よみがえる、そうだ、おまえはよみがえるだろう、
→「死」に打ち勝ち「復活」を遂げる

マーラーは第5楽章の歌詞で「死」に対するアンサーとして"怒りの日"での「復活」を描いています。
ハモンドオルガンちゃん的には「無駄に生まれたわけではない。無駄に苦しんできたわけではない。」のところにマーラーの「なぜ生きたのか?なぜ苦しんだのか?」という問いへの答えがあると感じます。

そして《復活》全体としては第1楽章で死に、第5楽章で復活する生まれ変わりのストーリーであると捉えることができると思います。

ちなみに、ハモンドオルガンちゃんの好きな歌詞は最後の合唱の

Sterben werd ich' um zu leben!
私は、生きるために死ぬのだ!

ですね。

まとめ

第5楽章のアイデアがまさか第1楽章をこき下ろしたハンス・フォン・ビューローの葬儀がきっかけというのは驚きでしたね。第5楽章の歌詞では第1楽章の「死」へのアンサーとして"怒りの日"での「復活」の様子が描かれていました。

次回は《復活》が『角笛3部作』と呼ばれる所以に迫りまっていきます。

今回の参考図書

こだわり派のための名曲徹底分析 マーラーの交響曲

https://amzn.to/3CY8HSc

”こだわり派のための”とついてるだけ合って初期稿を中心に分析されていておもろいです。









サポート(投げ銭)でnoteのクオリティと執筆者のモチベーションが上がります!🔥🔥 このnoteの曲解説がおもしろい!!と思われた方はぜひ!投げ銭をよろしくお願いします!🙏🙏🙏✨