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騒音問題_基準がないから悩ましい

こんにちは。

IPO支援(労務監査・労務DD・労務デューデリジェンス)、労使トラブル防止やハラスメント防止などのコンサルティング、就業規則や人事評価制度などの作成や改定、各種セミナー講師などを行っている東京恵比寿の社会保険労務士法人シグナル代表 特定社会保険労務士有馬美帆(@sharoushisignal)です。
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「今日も眠れない!」
と声に出してしまっていました。


眠れない原因は、近隣のマンションに住む外国人住人が、夜遅くにほぼ毎日、陽気な音楽をかけながら、大人数でパーティーをしていたためです。
近隣一帯で迷惑を被っており、あるときついに警察を呼んだ方がいらっしゃいました。


ただ、警察が来る瞬間、何かを察したのか外国人住人が音楽を止めてしまったため、警察の方には「音楽の音量が大きくて迷惑している」と口頭で伝えることしかできなかったと、近隣一帯同盟軍のメンバーから翌日朝に聞きました。


そのときに職業柄のせいか、「そうか、こういうときに騒音計があれば役に立つのになあ」と思うと同時に、「そういえば、二酸化炭素濃度計などは購入したけれど、なんで騒音計は購入しなかったのだろう?」という疑問が湧きました。


以前に書いた「事務所衛生基準規則における見落としやすいオフィスワーカーの就業環境まとめ」というnoteの記事を読み直しましたが、やはり記事では騒音について触れていませんでした。


良い機会ですので、今回は、騒音問題についていろいろと考えてみようと思います。

さて、騒音計を買わなかった謎についてですが、事務所衛生基準規則(労働安全衛生法に基づいて定められた厚生労働省令)には、次のような騒音に関する条文も設けられています。

(騒音及び振動の防止)
第11条  事業者は、室内の労働者に有害な影響を及ぼすおそれのある騒音又は振動について、隔壁を設ける等その伝ぱを防止するため必要な措置を講ずるようにしなければならない。

実は、この条文に騒音計を買わなかった理由があったのです。どういうことかと言いますと、事務所の環境基準に関して、たとえば二酸化炭素の濃度については同規則の第3条第2項で「5000ppm以下」と数値が定められています。それに対して騒音については、条文をご覧になればおわかりのように、基準となる数値が定められていないのです。


さらに、同規則の第11条をよく読むと「室内の」とあります。事務所内の衛生と安全を守るための規則ですから室内限定なのですね。

普通のオフィスですと、そこまで騒音を感じることもなかなかありませんし、二酸化炭素濃度や一酸化炭素濃度と違って、機器を用いなければ安全や衛生に問題があるかどうか判別できないわけでもないですよね。


こういった事情から、数値を測るための騒音計は必要なく、noteでも取り上げなかったのです。そのせいで、パーティー外国人に近隣一帯同盟軍が対抗するための道具が手元にないことにつながってしまったのは残念でしたが(笑)


騒音にもいろいろ種類がありまして、事務所衛生基準規則が対象とする事業所騒音もあれば、冒頭のパーティーの例のような生活騒音(近隣騒音ともいいます)もあります。

もともと日本は古くから狭い国土に住宅が密集していることもあって、騒音に対しては寛容な面があったのですが、高度経済成長時代に経済活動が活発化するにつれて、工場や建設工事などから発する騒音が「公害」として問題になるようになりました。

その結果、1967年(昭和42年)に公害対策基本法(現在の環境基本法です)が制定され、翌年1968年(昭和43年)には騒音規制法が制定されました。
この騒音規制法では、「工場・事業場騒音」、「建設作業騒音」、「自動車騒音」を規制対象としています。「事業場」という言葉がありますが、これは「指定地域内において特定施設を設置する工場・事業場(特定工場等)」という著しい騒音を発する施設を規制対象とするものです。そのため、一般的なオフィス内の騒音は騒音規制法の規制対象外になります。


では、一般的なオフィス内の騒音はどう考えれば良いのかといえば、前にご紹介したとおり、事務所衛生基準規則には基準となる数値が定められていないのです。その理由はいろいろとありますが、騒音というものが非常に主観面の影響が強いものということがいちばん大きいでしょう。ここで参考になるのが生活騒音についての考え方です。


生活騒音とは、環境省のパンフレットによると「通常一般の生活行動に伴って、居住環境(住宅内および住戸まわり)において発生する騒音」だそうです。このパンフレットには、「生活騒音には法規制はありません」とあります(不法行為による損害賠償請求ができる可能性などはありますが…)。
さらに、東京都環境局のサイトを見てみますと、「生活騒音は人の活動にともなって発生するものですから、なくすことはできません」という、一見開き直りのようにも思える文が赤い字で記載されています。


考えてみれば当たり前ではあるのですが、衝撃的ですよね。さらに、「「45デシベルだから何の問題もない。」というようにはいかないのが、生活騒音です」ともあります。これが、主観面の影響が強いということです。

同じ45デシベルの音でも、その音がどのような音なのか、その音が聞こえてくる時間帯、その時の気分や体調、さらには発生源の近隣住民との人間関係の善し悪しなどで、ただの「音」なのか「騒音」なのか大きく変わってきます。


二酸化炭素や一酸化炭素の濃度なら、主観的な面など関係なく、客観的に一定基準以上で人の健康や生命にとって危険になるわけですが、騒音はその基準を明確に設けることができないわけです。

これは生活騒音だけでなく、事務所衛生基準規則における騒音でもそうですよね。もちろん、参考となる数値というのは存在します。先ほどの東京都のサイトには、さまざまな「音」のデシベル数が掲載されていますが、たとえば日常的な人の話し声が約50~61デシベルなのに対して大声が約88~99デシベルだそうです。
さすがに大声のような音量がずっと続く環境というのは、安全衛生の面で問題がありますよね。では、日常的な話し声なら良いかというと、先ほどの「45デシベルだから何の問題もない」と同じで、ケースバイケースというほかありません。


結局、騒音に関しては安全衛生面だけでなく「快適な職場環境作り」の面からも捉えていくしかないということです。
快適な職場環境は労働生産性にも好影響を与えます。

それと同時に「ルール作り」の面からも捉えるべきでしょう。騒音については主観面の影響が強いことから、あらかじめ就業規則に騒音に関する従業員間トラブルや労使トラブルを想定した条文を設けておくことも必要だと考えます。企業の経営者の方や人事労務担当者の方は、事務所衛生基準規則に基準が明記されていなくても、騒音計を購入して普段のオフィスの騒音レベルを把握されてから、様々な施策を講じられてはいかがでしょうか。


かくいう私も、二酸化濃度計等を購入した経験から、騒音計も手が届く値段ではないかと予想しつつ、Amazonで検索したところ、予想通り手頃な価格でレビューも良かったこちらの騒音計を見つけ、購入しました。


届いた日の夜から、「パーティーが始まらないかな」と逆に楽しみに待っていたのですが、先日警察の方が来ていただいたおかげか、パーティーが収まってしまい、騒音計の出番はありませんでした。

そして、この騒音パーティートラブルをきっかけに、自宅を引っ越すことを決めてしまっていて、幸いなことに事務所の方は静かですので、出番のない騒音計を段ボールの奥底に閉まって、新居へ引っ越しました。


しかし、引っ越し早々に、「賃貸契約の特約×洗濯機×騒音」のトラブルがあり、やっとそこで騒音計は日の目を浴びることができました。
なにが悲しくてこんなに騒音とご縁があるんだろう(苦笑)。
きっと社会保険労務士として、「騒音」について調べておけという天からのお達しですね!


それでは、次のnoteでお会いしましょう。
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