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【歴史シリーズ】週休制の歴史 ~完全週休2日制・何らかの週休2日制・変形休日制・週休3日制~

こんにちは。

IPO支援(労務監査・労務DD・労務デューデリジェンス)、労使トラブル防止やハラスメント防止などのコンサルティング、就業規則や人事評価制度などの作成や改定、各種セミナー講師などを行っている東京恵比寿の社会保険労務士法人シグナル代表 特定社会保険労務士有馬美帆(@sharoushisignal)です。
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読者が意外と(?)多い「歴史シリーズ」ですが、今回は「週休制の歴史 ~完全週休2日制・何らかの週休2日制・変形休日制・週休3日制~」についてお伝えします。

 

1.「週休制」とは?
「週休制?週休2日制なら聞いたことがあるけれど」という声が聞こえてきそうです。
たしかに週休2日制が当然のようになっている現在では耳慣れない言葉ですね。

 「週休制」とは、1週間に1日の休日を付与する制度です。
実は労働基準法(労基法)第35条第1項は「使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも1回の休日を与えなければならない」と定めるにとどまっています(週休制の原則)。
労基法上は1週間に1回の休日を付与することが義務づけられています。

 この週休制の原則には例外があり、4週につき4日以上の休日を与える使用者には適用されません(労基法第35条第2項)。
これを変形休日制といいます。

 厚生労働省(厚労省)の「令和4年就労条件総合調査」によりますと、「何らかの週休2日制」を採用している企業割合は83.5%、「完全週休2日制」を採用している企業は48.7%となっています。

 「何らかの週休2日制」という言葉でお分かりになると思いますが、週休2日制にもいろいろと種類があるのです。
わかりやすいのが完全週休2日制で、1週間に2日の休日が付与される制度です。
それ以外に、たとえば、週休2日が週3回であったり、隔週であったり、月2回や月1回であったりする制度を総称して、何らかの週休2日制と呼んでいます。

 

2.休日付与の種類
 ここで休日付与に関する表を作成してみましたのでご覧ください。 

 

さらに最近は「週休3日制」を導入する企業も登場しており、先ほどの厚労省の調査でも「完全週休2日制より休日日数が実質的に多い制度」を導入している企業が8.6%存在しています。たとえば、月1回は週休3日制を導入している場合や完全週休3日制などの場合は、このカテゴリに該当します。 

ここまでの説明で、「週休制」が原則であることがご理解いただけたと思います。
なぜ、1週間に1日の休日が義務づけられたかについては、宗教上の安息日に由来するものだとされています。
旧約聖書では天地を創造した神が7日目に休息を取ったとあり、そこから「何もしてはならない(労働してはならない)」日としての安息日が定められたそうです。
ちなみに、ユダヤ教は土曜日、キリスト教は日曜日が安息日とのことです。

 

3.日本における「休日」の歴史
これは欧米の話で、日本の場合は事情が異なります
そもそも日本では江戸時代まで「休日」に関する統一的な制度が存在しませんでした。
武士や農民など身分や働き方の違いもあり、それぞれの事情でお休みを取っていたそうです。
明治時代になって、日本は欧化政策を取り入れたわけですが、安息日については一般的なものとはなりませんでした。 

そのため、1911(明治44)年に制定された日本初の労働者保護立法である工場法でも、月2回の休日を義務づけるにとどまっています。 

世界の流れとしては、1921(大正10)年に国際労働機関(ILO)が「工業的企業における週休の適用に関する条約」(ILO14号条約)で週休制を定めています。
ところが、日本は第二次世界大戦後の1947(昭和22)年に施行された労働基準法でも、変形休日制を認めていますので、週休制が完全に導入されたわけではなかったのです。
 

このnoteの「【歴史シリーズ】年次有給休暇の歴史」で、1987(昭和62)年に欧米諸国からの外圧や日本国内からの労働時間短縮を求める声を受けて、年次有給休暇制度が大幅に改正されたとお伝えしましたが、同時に肝心の労働時間そのものについても大幅な改正がなされたのです。

前年の1986(昭和61)年に、いわゆる「前川レポート」(国際協調のための経済構造調整研究会報告書)で、「欧米先進国なみの年間総労働時間の実現と週休二日制の早期完全実施を図る」と政府は諸外国に宣言したことを受けてのものです。
特に日米貿易摩擦問題で、日本人の働き過ぎが問題視されていたため、対応が急務だったのです。 

 1947(昭和22)年の労働基準法制定当時は「1日8時間・1週間48時間」が法定労働時間の原則でした。

1987(昭和62)年に「1日8時間・1週間40時間」に法定労働時間の原則が改正されました。
ただし、猶予措置が設けられ、週40時間制の実施は1994(平成6)年からとなりました。
さらに中小規模の事業場については、改正から10年後まで猶予措置が設けられていました。
そのため、週40時間制の完全実施は1997(平成9)年4月まで待たなければなりませんでした(労働基準法第40条の特例措置対象事業場を除く)。

 

現在の法定労働時間の原則はこの改正により「1日8時間・1週間40時間」ですから、8時間×5日=40時間で、週に5日働いて、残りの2日が休日、つまり完全週休2日制の導入がもっと進んでいても良さそうですが、そうはなっていません。
前川レポートの「早期完全実施」は令和の世の中になっても未だに達成されていないのです。

 

4.「完全週休2日制」の歴史
現在のところは、5割近い企業が完全週休2日制を採用していることはすでにお伝えしましたが、そもそも完全週休2日制はいつから日本で導入されるようになったのでしょうか。 

これについては、松下電器産業(現パナソニックホールディングス)が初めて導入したというのが通説のようになっています。
しかし、この点に関して日本経済新聞社の石塚由起夫編集委員が非常に興味深い取材(週休2日「松下電器起源説」を追う)をされています。
記事によりますと、1962年1月に中外炉工業株式会社が日本で初めて完全週休2日制を採用されたとのことです。
この事実は1965年に完全週休2日制を導入したパナソニックホールディングスも認めており、今では自社について「大手企業初」の導入と外部には伝えているそうです。

 実はILOは1962(昭和37)年に、日本に対して週40時間労働制に移行するよう勧告していたのですが、松下電器産業の創立者であり「経営の神様」と呼ばれる故松下幸之助氏は、それに先立つ1960年に「5年以内の週休2日制導入」を明言していたのです。
これは、欧米諸国の事例などを見た上で、「1日休養、1日教養」という観点から導入の意向を示したものです。
現在はリカレント・リスキリングなど「学び」の必要性が強調されていますが、すでにこの時代に「教養」という視点を取り入れていたのは、さすが経営の神様の先見性ですね

 

完全週休2日制は1960年代に始まりましたが、その後1980年代に至るまでなかなか導入が進みませんでした。
その流れが「前川レポート」により変わり、完全週休2日制の導入については金融機関と国家公務員が先導的な役割を果たしました。 

まず、金融機関ですが、1989(平成元)年2月に完全週休2日制の導入に踏み切りました。
前年の1988年に全国銀行協会と郵政省(現総務省・現日本郵政グループ)が銀行・郵便局の完全週休2日を決定したことによるものです。
それまでは銀行法で金融期間は日曜と祝日しか休日にできなかったそうですが、銀行法施行規則が改正されました。
さらにATM(現金自動預払機)が普及したことも完全週休2日制を導入できた理由の1つです。
現代の「働き方改革」もそうですが、テクノロジーの進歩が働き方を変える例ですね

 次に、国家公務員です。
1989(昭和64)年1月1日から、国の行政機関を第2土曜日と第4土曜日を閉庁する土曜閉庁法が施行されていましたが、完全週休2日制の実施は1992(平成4)年となりました。

 
「銀行」や「お役所」が土日休みになったということが、当時の人々の意識を少しずつ変えて行ったようです。
土日のお休みは旅行産業やレジャー産業にも影響を与えました。
そして1994(平成6)年に大企業対象で週40時間労働制が実施されたことが、完全週休2日制の導入率をアップさせました。

 

さらに、2002(平成14)年から、公立学校で学校週5日制(学校週休2日制)が完全実施されたことも、世の中の休日に対する意識に大きく影響を与えました。

 

5.「完全週休2日制」のその先へ
現状の完全週休2日制の導入率は5割弱ですが、完全週休2日制を超える休日制の導入への動きも見えています。
たとえば、政府は2021(令和3)年の「骨太方針2021」(経済財政運営と改革の基本方針2021)で「選択的週休3日制」を提言しています。
さらに、前にご紹介した完全週休2日制の元祖的存在であるパナソニックホールディングスは2022(令和4)年度から週休3日または週休4日で働ける制度を導入しています。

 「働き方」を考えることは「休み方」を考えることでもあります。
物流の「2024年問題」に対応するために、業界の最大手企業が他社に先駆けてドライバーに週休2日制を導入した結果、採用活動にもプラスの影響を与えているそうです。
また、採用を出しても応募が来なかった企業が完全週休2日制を導入したところ採用につながった例などからも、「休み方」は非常に大きな要素であることがわかります。

 

「週休制の歴史 ~完全週休2日制・何らかの週休2日制・変形休日制・週休3日制~」が、経営者や人事労務担当者の方々のご参考になれば幸いです。


【歴史シリーズ】
年次有給休暇の歴史
深夜業×女性
深夜業×年少者・児童
・週休制の歴史 ~完全週休2日制・何らかの週休2日制・変形休日制・週休3日制~

それでは次のnoteでお会いしましょう。


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