衛生管理者と衛生委員会のポイント
こんにちは。
IPO支援(労務監査・労務DD・労務デューデリジェンス)、労使トラブル防止やハラスメント防止などのコンサルティング、就業規則や人事評価制度などの作成や改定、各種セミナー講師などを行っている社会保険労務士法人シグナル代表の特定社会保険労務士有馬美帆(@sharoushisignal)です。
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今回は顧問先企業様からのご質問がとても多い、「衛生管理者」と「衛生委員会」に関してのポイントをまとめてみました。
後ほどくわしくご説明しますが、事業場で常時50人以上の労働者を使用するようになると、労働安全衛生法の定めにより、業種を問わず衛生管理者の選任が必要になります(労働安全衛生法第12条)。
ここで早くも最初のポイントが登場するのですが、「事業場」とは、「工場、鉱山、事務所、店舗等のごとく一定の場所において相関連する組織のもとに継続的に行なわれる作業の一体」(昭和47年9月18日 発基第91号)とされています。
この行政通達の表現は難しいので、わかりやすく言い換えますと、工場や支店といった、1つの住所で組織的、継続的に作業が行われる場所を事業場といいます。
企業(会社)そのものとは違うことに注意が必要です。
仮にIT企業の「○○株式会社」があったとして、企業全体では常時50人以上の労働者を使用していたとしても、渋谷区の本社で45名、新宿区の営業所で5名という場合、それぞれの事業場で常時50人の労働者を使用しているわけではないので、衛生管理者の選任は必要ないことになります。
ただし、本社は常時10人以上50人未満の労働者を使用していますので、衛生推進者(安全管理者の選任対象外の業種の場合)の選任は必要です(労働安全衛生法第12条の2)。
衛生推進者については、またの機会にお伝えします。
さて、事業場で常時使用する労働者が50人に達した場合、衛生管理者を選任するだけでなく、衛生委員会を開催しなければなりません(労働安全衛生法第18条)。
ざっくりとした流れは上記のようになります。
これだけだと何とかなりそうな気がしますが、実は衛生管理者の選任も、衛生委員会の開催も、非常に細かいポイントが満載です。
次にそれらの対応ポイントの主なものを表にまとめましたのでご覧ください。
1.衛生管理者の職務
衛生管理者は、衛生に関する技術的事項の管理を行う存在です。
少なくとも毎週1回作業場等を巡視し、設備、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければなりません。
そのため、衛生管理者には衛生に関する措置を行うことができる権限を与える必要があります。
なお、衛生管理者が作業場の巡視記録を作成することまでは法令で義務づけられてはいませんが、事業場の衛生確保のためや、衛生委員会の審議資料として用いるためにも作成することが望ましいでしょう。
2.衛生管理者の選任
①衛生管理者の選任規模
すべての業種において、常時50人以上の労働者を使用する事業場ごとに、次の表に記載された人数の衛生管理者を選任しなければなりません。
衛生管理者は、その事業場に専属の者を選任する必要があります。
常時1,000人を超える労働者を使用する事業場などでは、衛生管理者のうち少なくとも1人を専任の衛生管理者とする必要があります。
「専属」はその事業場のみに属していること、「専任」は衛生管理者の業務のみを担当していることです。
衛生管理者の中に労働衛生コンサルタントがいるときは、当該労働衛生コンサルタントのうち1人については専属でなくてもかまいません。
②衛生管理者の資格
衛生管理者は、次の資格を有する者のうちから選任する必要があります。
農林畜水産業、鉱業、建設業、製造業(物の加工業を含む)、電気業、ガス業、水道業、熱供給業、運送業、自動車整備業、機械修理業、医療業および清掃業の事業場では、第2種衛生管理者免許保有者を衛生管理者に選任できません。
③いつまでに衛生管理者を選任すべきか
衛生管理者を選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任が必要です。「選任すべき事由」というのは、①の事業場で常時使用する労働者数が一定の規模に達したことをいいます。
④労働基準監督署への報告
衛生管理者を選任後、選任後、遅滞なく選任報告書を所轄労働基準監督署に提出します。
3.衛生委員会の委員の選任
衛生委員会とは、労働者の健康障害防止、労働者の健康保持増進、労働災害の防止対策で衛生に係るものなどについて、調査審議し、事業者に対し意見を述べる存在です。
業種を問わず、常時50人以上の労働者を使用する事業場ごとに設置する必要があります。
衛生委員会の委員は次の者をもって構成されます。
事業主が衛生委員会の委員を指名する事前準備として、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合(過半数組合)または事業場の労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)から衛生委員会の委員の推薦を得ておく必要があります。
これは、衛生委員会の議長となる「総括安全衛生管理者又は総括安全衛生管理者以外の者で事業の実施を統括管理する者若しくはこれに準ずる者」以外の委員の半数は過半数組合又は過半数代表者が指名した者から選任しなければならないためです。
なお、委員会の人数については法令による制限はありませんので、ここまでにお伝えした要件を守っていれば、事業主が自由に委員会の人数を決定することができます。
①総括安全衛生管理者または総括安全衛生管理者以外の者で当該事業場においてその事業の実施を統括管理する者もしくはこれに準ずる者
「事業の実施を統括管理する者」とは、工場長、作業所長等名称の如何を問わず、当該事業場における事業の実施について実質的に統括管理する権限及び責任を有する者のことをいいます。
②事業主が衛生管理者の中から委員を指名
衛生管理者が1名の事業場の場合は、自動的にその衛生管理者を委員として指名することになりますが、衛生管理者が複数存在する事業場の場合は、その中から指名することになります。
③事業主が産業医の中から委員を指名
衛生管理者と同じく、産業医が1名の事業場の場合は、自動的にその産業医を委員として指名することになりますが、産業医が複数存在する事業場の場合は、その中から指名することになります。
④事業主が衛生に関し経験を有する事業場の労働者の中から委員を指名
事業場の労働者の中で、衛生に関する経験がある労働者であることが求められます。
4.衛生委員会の開催
①毎月1回以上開催
衛生委員会は毎月1回以上開催する必要があります。
②議長
事業主が指名した「総括安全衛生管理者又は総括安全衛生管理者以外の者で事業の実施を統括管理する者若しくはこれに準ずる者」が、衛生委員会の議長を務めます。
③調査審議事項
衛生委員会の調査審議事項は次のとおりとなります。
5.衛生委員会の議事の周知
衛生委員会の開催の都度、遅滞なく、議事の概要を次のいずれかの方法で周知する必要があります。
ア)各作業場の見やすい場所に掲示し、又は備え付ける
イ)書面を労働者に交付する
ウ)磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること
注意すべきポイントとして、ア)とウ)は事業場ではなく「各作業場」であるということです。
「作業場」とは、事業場内において密接な関連の下に行われている個々の現場をいい、主として建物別等によって判定すべきものとされています。
たとえば、同じ事業場であっても、建物を別にして働いている人がいるときには、書面を交付しない限り、どちらの建物にも周知が必要なのです。
6.衛生委員会の議事録
衛生委員会の開催の都度、次に掲げる事項を記録し、これを3年間保存しなければなりません。
ア)委員会の意見及び当該意見を踏まえて講じた措置の内容
イ)アのほか、委員会における議事で重要なもの
議事録に記載すべき内容は、ア)とイ)以外について法令で厳密に定められているわけではありませんが、開催日時、開催場所、出席者といった、議事録に通常求められる事項は必須です。
出席者は、氏名だけでなく「氏名(議長)」「氏名(衛生管理者)」のように立場が明確になる記載をすることで、開催要件を満たしていることの証明にもなります。
さらに、ア)とイ)を含む調査審議事項や産業医からの意見、議長の発言などを記載します。
以上が、衛生管理者の選任(及び衛生管理者の職務)と衛生委員会の開催についての主なポイントです。
「主な」とありますが、今回お伝えした内容をしっかりと実施するだけでも、かなり大変です。
職場の衛生を守ることは、企業にとって大切な存在(人的資本)である従業員を守ることでもありますし、労働法を守ること(労務コンプライアンス)でもあります。
衛生管理者や衛生委員会の詳細について不明な点がある場合には、ぜひ社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
それでは次のnoteでお会いしましょう。
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