入社した当月に退職した場合(同月得喪)の社会保険料
こんにちは。
IPO支援(労務監査・労務DD・労務デューデリジェンス)、労使トラブル防止やハラスメント防止などのコンサルティング、就業規則や人事評価制度などの作成や改定、各種セミナー講師などを行っている社会保険労務士法人シグナル代表の特定社会保険労務士有馬美帆(@sharoushisignal)です。
○「同月得喪」とは?
新たに入社された社員の方が、入社月の途中で退職されてしまうということも、まれにあります。
これを社会保険(健康保険・厚生年金保険)の観点から見ますと、「社会保険の被保険者資格を取得した者が同月にその資格を喪失した場合」ということになり、「同月得喪」とよばれています。
この「同月得喪」の場合の社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)の扱いはどうなるのでしょうか。
月の途中での退職ですから、社会保険料を控除しなくても良いと思ってしまうかもしれませんが、実は同月得喪の場合は社会保険料が必ず1か月分発生することになりますので、お気を付けください。
たとえば、2月1日に入社された方が、2月21日に退職されたとします。
そうしますと、資格喪失日となる2月22日以降は、原則的に何らかの健康保険制度、年金制度の被保険者になる必要があります。
以前は、この方が2月中に別の会社に就職されたような場合には、2月の社会保険料を2重に支払うことになってしまっていたのです。
健康保険料については保険証を使用する可能性があるのでやむを得ない面もありますが、厚生年金保険料については、月の末日に加入していた年金制度についてだけ、将来の年金額が計算されることになるので、適正な負担とはいえないという批判もありました。
そこで、2015(平成27年)10月1日からは、同月得喪の後で国民年金の被保険者になったり、厚生年金保険の被保険者になったりした場合には、厚生年金保険料についてのみ、徴収された保険料が還付されるという扱いに法改正がなされました。
あくまで厚生年金保険料についての話で、健康保険料については還付されないことにご注意ください。
細かい話になりますが、同月得喪の後で国民年金や厚生年金の被保険者にならない場合には、厚生年金保険料は返還されません。具体的には、日本国籍の方が海外に転出される手続(住民票の異動手続)を取ると、国民年金は任意加入となりますので、加入手続を取らない限りは還付の対象にならないということになるためです。
○厚生年金保険料の返還にまつわる問題
企業の人事労務担当者の方々の頭を悩ませることになりそうなのが、この「還付」に関する問題です。
日本年金機構は厚生年金保険料還付の必要のある方に関して、企業に連絡の上で保険料を返してはくれます。しかし、その連絡が来るまでにはかなりのタイムラグが生じることは避けられません。
それも仕方のないところで、日本年金機構としても同月得喪をされた方の、その月の最後の時点での年金制度の加入状況を見てからでないと、保険料を還付すべきか否かの判断がつかないためです。
人事労務担当者にとっては、ある意味「忘れたころ」に還付の連絡が郵送されてくるということになります。
お金に関することですから、おろそかにできないのは当然なのですが、そこには大きな問題が2つあります。
1つは「すでに退職してしまった方」とのやり取りが発生するという点と、もう1つは「源泉徴収票の作り直し」が必要になるという点です。
源泉徴収票に関しては、手間はかかるものの、するべきことは決まっています。それに対して、退職された方との連絡というのは型どおりにスムーズにいかない場合も往々にしてあり得ます。
住所や電話番号、メールアドレスが変更になっていて連絡がつかない場合などがその典型例です。対応策としては、退職時に厚生年金保険料等の返還すべき金銭が発生した場合は、給与支払口座として届出のある口座に振り込む旨、あらかじめ通知しておくことが考えられるでしょう。
※ご参考までにBizHint様にて公開された「経営者が読むべき労務解説 従業員と突然連絡が取れなくなったらどうする? 経営者が考えたい7つの視点」の記事もご覧ください。
ということで、流れとしては以下の表のとおりとなります。
源泉徴収票については、2019年度分の確定申告から添付が不要となったため、実際上の不都合はそれほどなくなった面もありますが、同月得喪をされた方が新たな会社で年末調整を受ける場合には新しい源泉徴収票が必要になりますので、この点に関しては厚生年金保険料の還付と同様に連絡先の把握の問題が生じる場合があります。
○企業側で取ることのできる対策
同月得喪に関する厚生年金保険料の問題については、「そもそも厚生年金保険料については給与から控除しない」という方法も取れなくはないです。
保険料が必ず還付されるとは限らない点についてはすでにお伝えしましたが、ほとんどの場合は還付になるのですから、だったらそれを見越して退職者に支払う給与から厚生年金保険料を控除しないでおけば、返還そのものが不要になります。
それは同時に、源泉徴収票の再発行の手間もなくなるということになります。
おすすめの方法というわけではありませんが、企業として予めそのような方針を決めておくことも考えられるでしょう。
マイナンバーの利活用が進めば、このあたりの問題もいずれ解消される可能性がありますが、しばらくはこの問題と向き合わなければいけないことは確実ですので、ぜひ検討しておいていだたきたいところです。
また、同月得喪に限った話ではありませんが、退職者に対しては退職後の連絡先と、何らかの事情により金銭を返還等しなければならない場合の振込先口座の確認をしておくべきでしょう。
それでは次のnoteでお会いしましょう。
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