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【エッセイ】窓側の席に座りたい、と思う時は。。。

 飛行機の長旅は、私は必ず通路側を予約する。
 その理由は一つ。
 お手洗いにすぐに行けるから。

 この理由は、単純なようで実はそうではない。 

 窓際の席だっとして、お手洗いに行きたくなった時、もし横に座る人が寝ていたとしたら、起こすのはかなり躊躇われる。しかも気持ちよさそうに微睡んでいるとしたら尚更だ。

 他にもある。もし、横に座る人が映画に見入っていたとしたらどうだろう。
 横から”Excuse me”と声をかけて席を立ってもらうのも、やはり躊躇してしまう。

 なぜなら、私の放った一言で現実世界への扉を無理矢理開いてしまうことになるからだ。

 特にクライマックスのシーンで、まさにこれから転→結に向かっている最中は、見る方も完全にそっちの世界に入りきっている。 

 それを本人の意思なしに現実(いまと読んでほしい)に連れ戻してしまうのは何とも居た堪れなくなる。

 それゆえ、私は通路側を選ぶ。

 本来ならここまでで終わる話だ。しかしながら私の筆が止まらないのは、日本行きの飛行機に乗った際、こんなことがあったからだ。

 あと1時間半ほどで、目的地の空港に到着すると
分かった時
(因みにフライトマップを結構見入る派です)
急にアナウンスが耳に届いた。

「……皆さま、ただいま右側に富士山をご覧いただけます……」

「富士山」という言葉はある意味パワーワードだと思う。いちいち反応してしまう自分は、日本人だからなのか、それともただのバイアスなのか、、、

 とにかく、私はその時、左側席の通路側の席に座っていた。つまり右側の席なんて私からは遠い。

 ただ、上空からの富士山は気になる。
 とても気になるけどわざわざ席を立って、右側の席に移動して、覗き込むなんて事はできるわけがない。
 その前に、そこの席には人が座っている。

 ならば、お手洗い近くにある、小窓で見れるのではないか。
 とは云え、果たして希望通りのフジヤマを拝めるのだろうか。
 まぁ、今回はいいっか。
 いや、今回はってなんだ。いつならいいんだ。

 自分の中で押し問答が続いていながらも、私の視線は目の前のスクリーンに釘付け。
 なかなか好きなテイストの映画だ。
 映画は残り1時間40分。
 到着まではおよそ1時間30分。
 この映画も見逃せない。
 だから今、少しでも立ってしまえば、ラストのところで打ち切られる可能性がある。
 そんな虚しいことはない。。。

 すると突然、れいの”Excuse me”が横から聞こえてきた。
 見ると私の左横に座っていた二人が、富士山が見える(であろう)窓を指さしている。

 会話から察するに日本の人じゃない。見る限り観光で日本に向かってます、といった二人だった。
 そりゃぁ見たいと思う。うん、見たら良いよ、ぜひ見ておいで。
 全てが分かった私は”Yes, please go ahead”と返事した。

 二人は右側にある座席から離れた小窓に向かい、ホッとしたように何やら話している。
「あー良かった。日本行きの飛行機で富士山を拝めることができて」と清々しい気持ちになった。

 そしてふと考える。案外通路側に座っている人は横の人からの”Excuse me”は気にしないのかもしれない。 

 それならば、「よし、じゃぁ今度は窓際の席で予約をしよう」とはならず、お手洗いとの距離が少しでも近く感じられる通路側に、私はこれからもお世話になるのだろう、と思ふ。。。

 皆さまは、どのお席がお好きですか?



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