国際卓越研究大学について

政府が発表した「国際卓越研究大学」には、9月1日、第1候補として、東北大学が、選定された。

この国際卓越研究大学の構想については、いろいろな議論がなされている。
もっと広く薄く交付すべきだとか、東大・京大を除いたのは、おかしいなどの意見も出された。

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しかし、世界を見渡した時には、これでも、少ないと思う。

やたらに、給付金をばら撒くくらいなら、やはり、大学に交付して世界的な大学を創るべきなのだ!
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この記事は、世界の大学を見渡した議論をしている。

(c)harbeman231106
Deep thinking yields imagination


ーーーーーSmartnewsを引用する。

動き出した大学ファンドと卓越研究大学
伊藤 隆敏

政府は、世界に伍する研究大学をつくるため、10兆円の大学ファンドを設立して、その運用益を選ばれた大学(国際卓越研究大学、以下卓越大学)に配布することとした。10兆円を年平均3%で運用できれば、毎年総額3000億円になる。これを、例えば、5校に配布すれば、1校当たり600億円となる。22年度に東大は国から800億円の運営費交付金を受け取っていて、それを含めた経常利益は2664億円であった。仮に卓越大学になることで、600億円が配布されれば、国からの補助金が75%も増加することになる。ほかの収入も入れた経常利益の規模が23%増となることを意味し、かなりの効果を期待できる規模である。

大学ファンドの本格的運用は20223月から始まり、2022年度は、過半を債券で運用したため、おもに外国債券価格の下落と為替ヘッジによる損失で、運用益はマイナスとなった。しかし、これは初年度で過度に保守的に運用していたことが裏目に出たので、中期的にはより株式とオルタナティブ資産の比率を高めることで、中期的に3%の運用益は可能であると考えられる。

一方、卓越大学の選定も始まった。今年度は、10校が申請して、東北大学が唯一の候補になった。書類審査で、東京、京都、東北の3大学に絞り込まれ、現地視察を経て東北大が選ばれた。東北大は今後申請内容の磨き上げを行い、文部科学省が、国立大学が経営の合議体をつくることができるように国立大学法を改正したうえで、来年度中に正式に卓越大学として承認されることになる。実際の支援開始は2024年秋もしくは、254月からとなる。

9月末に発表されたTHETimes Higher Education)「世界大学ランキング2024年版」によると、東京大学は29位、京都大学が55位、東北大学は130位である。アジア地域のなかでも、中国やシンガポールの大学の後塵を拝している。日本の国立大学の研究力・教育力の急低下は、04年の「国立大学法人化」、およびそれと同時に始まった「運営費交付金の一律削減」と考えられる。

法人化は、大学の自律的な運営を可能にする、という触れ込みだったが、実際には、予算策定の枠組みや大学のガバナンスに大きな変更はなく、ただ予算の総額が減っていった。2004年から10年間、毎年1%超の削減が続き、13年の運営費交付金総額は04年の約87%にまで削減された。各大学では、順番に、学部が削減対象となり、若手の新規採用が難しくなった学部間で削減率に差をつけなかったため、この時期に本来は拡張すべき分野(コンピュータ科学など)で後れをとった可能性が高い。AI分野での後れ、先進的バイオ研究の後れは、この時期の予算削減が響いていることは間違いない。

そもそも「世界に伍する」ということはどういうことだろう。ひとつの指標は、THE(世界の大学のランキングの基礎となる指標スコア)を見ることだ。東京大学、京都大学、東北大学を、上位12大学と比較すると、教育、研究、産業界からの収入では上位12校とそこそこ競っている。しかし、研究の質と国際性で、日本の3大学は大きく劣っている。論文数が多くても、その成果が世界で引用されていない。日本における研究が世界の研究フロンティアにインパクトを与えていないといってもよい。

このような状況を大きく変える可能性を秘めているのが、大学ファンドからの巨額の支援である。ただし、懸念材料もある。第一に、最近20年間に急速に社会の需要が高くなったのは、コンピュータ科学、情報、生命科学など自然科学系分野と、統計手法を駆使する一部の社会科学分野である。需要のシフトに日本の大学は追いついていない。大胆に学部定員を変える発想が必要だ。

第二に、ここ数十年で世界的な競争分野で使われる言語は英語に統一された。自然科学はもちろん、経済学や公共政策の分野でも英語で教育、研究が行われるのが世界中で当たり前となった。卓越大学では教育研究をすべて英語で行う覚悟が必要だ。

伊藤隆敏◎コロンビア大学教授・政策研究大学院大学客員教授。一橋大学経済学部卒業、ハーバード大学経済学博士(Ph.D 取得)。1991年一橋大学教授、200214年東京大学教授。近著に『Managing Currency Risk』(共著、2019年度・第62回日経・経済図書文化賞受賞)、『The Japanese Economy』(2nd Edition、共著)。
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